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馬車で
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馬車が大きく揺れた拍子に、エレオノーラはうっすらと目を開けた。
(しまった!眠っちゃった)
頭を上げようとすると、ずっしりと重みを感じ、簡単には首が動かせない。
(あれ?)
向かい側にいるはずのシルビオもいない。
頭が働かないままぼんやりしていると、左側が妙に温かいことに気づいた。
体をおこそうとしても、ずっしりと重く、一筋縄では動きそうにない。
(ん?)
気づくと、自分の左手は少し骨ばった大きな手としっかりつながれている。
(え?!)
だんだんと目だけが冴えてくる。
どうやらエレオノーラは、隣にいる人物の肩にもたれて熟睡してしまっていたらしい。
頭を動かせないのは、ずっしりと誰かの頭がのっているからだ。
(ま、まさか……)
ゆっくりと頭の角度を変え、上目遣いで確認すると、
(シ、シルビオ様!)
なんと、隣にいるシルビオにもたれかかって熟睡したうえ、なぜか手までつないでいる。体の左
側はぴったりとシルビオの体と密着していた。
シルビオもかすかな寝息をたて、眠っている。
もぞもぞとエレオノーラが動くので、シルビオは眉をしかめる。起きたら大変だ、とおとなしくじっとする。
(どうしよう、どうしよう)
恥ずかしさでどんどん体温が上がっていく。
何とか起こさないように、頭だけでも動かそうとするが、動かした瞬間シルビオの体が倒れてきそうだ。
ガタン、と大きな振動が起こり、馬車が止まった。
ずいぶん疲れているのか、シルビオはそれでも目を覚まさない。
リュシアンの屋敷についたようだ。
扉を開けた御者が驚いた顔をして、扉を閉めようとするので、エレオノーラは小声で、
「待って!手を貸してください!」
シルビオを起こさないように御者に支えてもらい、なんとか身を滑らせるようにシルビオから離れた。
黙って馬車から降りようとしたが、ふと、立ち止って振り返ると、着ていた水色のカーディガンをシルビオの肩にかけた。
屋敷に帰ると、まだリュシアンは帰っておらず、夕食までは時間がある。今日会ったことを思い出して、ぼんやりするエレオノーラだった。
ひそかに憧れていた、恋人同士のようなやり取り。アクセサリーまでもらってしまった。
うでにはめられた、華奢なブレスレットがしゃらりと小さな音を立てる。
(どうしよう……)
もらってしまったものの、シルビオがどういうつもりでくれたのかはわからない。
(きっと、シルビオ様にとってはどうってことないものよ)
陽の光にすけて、ダイヤとアメジストが美しく光る。
そこに、リュシアンがやってきた。
「ごめんねー、今日いっしょに行けなくて!どうしても外せない仕事が入っちゃって、本当に残念だよ!一日心配すぎて仕事が手につかなかったよ」
悔しそうに腕を上下にふって天を仰ぐ。
(リュシアン様って、家では、こんな感じなんだ……)
調合室で出会ったときは、とても落ち着いていると感じていたのに、まるで無邪気な子供のようなところがある。
「シルビオ君と会えた?」
「え?」
シルビオという名前を聞いて、小さく鼓動がはねた。
「本当は私が行くつもりだったんだけど、どうしても外せないから、急遽シルビオ君に頼んだんだ。ギリギリに知らせたから、行くという返事をもらう前に出発の時刻になっちゃって、結局どうしたのかと思って」
ニコニコとリュシアンは悪気なく微笑んでいる。
(リュシアン様に頼まれていたのね、なんだ、変に勘違いしなくてよかった)
「ええ、選ぶのを手伝っていただきました」
「……それだけ?」
「それだけ……ですが、何か?」
「こうさ、ほら、もっと、なんか!ね?!」
(何が“ね?!”よ)
「ご期待に沿えず申し訳ありません」
「ええー残念!」
(何が?!)
リュシアンは、エレオノーラとシルビオに何を期待しているのか、わざとらしく残念がって見せた。
しかし、リュシアンはエレオノーラの左腕に光るブレスレットを目ざとく見つけていた。
(シルビオ君やるね、ブレスレットとは。)
ブレスレットの意味は“束縛・独占”だ。
エレオノーラはおそらくその意味を知らないのだろう。リュトヴィッツでは左腕に着けると“あなたを独占したい・永遠に束縛したい”という意味になる。
(知ったらどんな顔するのか、楽しみだね)
リュシアンは、一人こっそり微笑むのだった。
一方、御者に起こされ、叔父の屋敷についたことに気づいたシルビオ。
「……エレオノーラは?」
「先に、お帰りになりました」
「そうか……すまなかったな」
ずいぶん疲れがたまっていたのか、久しぶりの馬車で熟睡してしまった。
少しぼーっとしながら、馬車をおりようとすると、はらりと何かが足元へ落ちた。
「これは……」
エレオノーラが今日着ていた空色のカーディガンだ。
「エレオノーラ……」
エレオノーラにいいところを見せたくて、今日一日緊張していた。本当は、帰り際もエスコートして、次の約束を取り付けるつもりだった。
しかし、ふたを開けてみれば熟睡した上に、エスコートどころか一人で馬車から帰してしまう体たらくだ。
(情けない……十代の少年でもあるまいし)
熟睡したままの自分はどれだけ間抜けだったろうと、情けない自分に頭を抱えた。
思えば最初から、エレオノーラには情けない所ばかり見せている。
エレオノーラが残した空色のカーディガンは、そんな情けないシルビオでも大丈夫だと言っているような気がした。
目を閉じると、今日初めて見た彼女の表情が浮かんでくる。もっといろいろな表情を自分に向けてほしいと欲が出てしまう。
(本当は嫌がられても、もっと甘やかして、俺なしじゃいられないようにさせたいというのに、今のところ俺の方が彼女なしじゃ生きられる気がしないな)
(しまった!眠っちゃった)
頭を上げようとすると、ずっしりと重みを感じ、簡単には首が動かせない。
(あれ?)
向かい側にいるはずのシルビオもいない。
頭が働かないままぼんやりしていると、左側が妙に温かいことに気づいた。
体をおこそうとしても、ずっしりと重く、一筋縄では動きそうにない。
(ん?)
気づくと、自分の左手は少し骨ばった大きな手としっかりつながれている。
(え?!)
だんだんと目だけが冴えてくる。
どうやらエレオノーラは、隣にいる人物の肩にもたれて熟睡してしまっていたらしい。
頭を動かせないのは、ずっしりと誰かの頭がのっているからだ。
(ま、まさか……)
ゆっくりと頭の角度を変え、上目遣いで確認すると、
(シ、シルビオ様!)
なんと、隣にいるシルビオにもたれかかって熟睡したうえ、なぜか手までつないでいる。体の左
側はぴったりとシルビオの体と密着していた。
シルビオもかすかな寝息をたて、眠っている。
もぞもぞとエレオノーラが動くので、シルビオは眉をしかめる。起きたら大変だ、とおとなしくじっとする。
(どうしよう、どうしよう)
恥ずかしさでどんどん体温が上がっていく。
何とか起こさないように、頭だけでも動かそうとするが、動かした瞬間シルビオの体が倒れてきそうだ。
ガタン、と大きな振動が起こり、馬車が止まった。
ずいぶん疲れているのか、シルビオはそれでも目を覚まさない。
リュシアンの屋敷についたようだ。
扉を開けた御者が驚いた顔をして、扉を閉めようとするので、エレオノーラは小声で、
「待って!手を貸してください!」
シルビオを起こさないように御者に支えてもらい、なんとか身を滑らせるようにシルビオから離れた。
黙って馬車から降りようとしたが、ふと、立ち止って振り返ると、着ていた水色のカーディガンをシルビオの肩にかけた。
屋敷に帰ると、まだリュシアンは帰っておらず、夕食までは時間がある。今日会ったことを思い出して、ぼんやりするエレオノーラだった。
ひそかに憧れていた、恋人同士のようなやり取り。アクセサリーまでもらってしまった。
うでにはめられた、華奢なブレスレットがしゃらりと小さな音を立てる。
(どうしよう……)
もらってしまったものの、シルビオがどういうつもりでくれたのかはわからない。
(きっと、シルビオ様にとってはどうってことないものよ)
陽の光にすけて、ダイヤとアメジストが美しく光る。
そこに、リュシアンがやってきた。
「ごめんねー、今日いっしょに行けなくて!どうしても外せない仕事が入っちゃって、本当に残念だよ!一日心配すぎて仕事が手につかなかったよ」
悔しそうに腕を上下にふって天を仰ぐ。
(リュシアン様って、家では、こんな感じなんだ……)
調合室で出会ったときは、とても落ち着いていると感じていたのに、まるで無邪気な子供のようなところがある。
「シルビオ君と会えた?」
「え?」
シルビオという名前を聞いて、小さく鼓動がはねた。
「本当は私が行くつもりだったんだけど、どうしても外せないから、急遽シルビオ君に頼んだんだ。ギリギリに知らせたから、行くという返事をもらう前に出発の時刻になっちゃって、結局どうしたのかと思って」
ニコニコとリュシアンは悪気なく微笑んでいる。
(リュシアン様に頼まれていたのね、なんだ、変に勘違いしなくてよかった)
「ええ、選ぶのを手伝っていただきました」
「……それだけ?」
「それだけ……ですが、何か?」
「こうさ、ほら、もっと、なんか!ね?!」
(何が“ね?!”よ)
「ご期待に沿えず申し訳ありません」
「ええー残念!」
(何が?!)
リュシアンは、エレオノーラとシルビオに何を期待しているのか、わざとらしく残念がって見せた。
しかし、リュシアンはエレオノーラの左腕に光るブレスレットを目ざとく見つけていた。
(シルビオ君やるね、ブレスレットとは。)
ブレスレットの意味は“束縛・独占”だ。
エレオノーラはおそらくその意味を知らないのだろう。リュトヴィッツでは左腕に着けると“あなたを独占したい・永遠に束縛したい”という意味になる。
(知ったらどんな顔するのか、楽しみだね)
リュシアンは、一人こっそり微笑むのだった。
一方、御者に起こされ、叔父の屋敷についたことに気づいたシルビオ。
「……エレオノーラは?」
「先に、お帰りになりました」
「そうか……すまなかったな」
ずいぶん疲れがたまっていたのか、久しぶりの馬車で熟睡してしまった。
少しぼーっとしながら、馬車をおりようとすると、はらりと何かが足元へ落ちた。
「これは……」
エレオノーラが今日着ていた空色のカーディガンだ。
「エレオノーラ……」
エレオノーラにいいところを見せたくて、今日一日緊張していた。本当は、帰り際もエスコートして、次の約束を取り付けるつもりだった。
しかし、ふたを開けてみれば熟睡した上に、エスコートどころか一人で馬車から帰してしまう体たらくだ。
(情けない……十代の少年でもあるまいし)
熟睡したままの自分はどれだけ間抜けだったろうと、情けない自分に頭を抱えた。
思えば最初から、エレオノーラには情けない所ばかり見せている。
エレオノーラが残した空色のカーディガンは、そんな情けないシルビオでも大丈夫だと言っているような気がした。
目を閉じると、今日初めて見た彼女の表情が浮かんでくる。もっといろいろな表情を自分に向けてほしいと欲が出てしまう。
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