見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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ようやく店内に入ることが出来たときには、昼に近い時間になっていた。



「おなか空きましたね……」



「ああ、結構並んだな」



ここの名物で、話題のスイーツはうさぎのパンケーキ。



「わあ、かわいい……」



うさぎのかたちのパンケーキの間に、生クリームと苺とナッツがサンドされている。クッキーでできたうさぎが上と下のパンケーキの生地を支えるようにあしらわれており、クリームからのぞくような形になっている。



かなりボリュームがあり、立体的な盛り付けのため、店舗でしか食べられない。

そのため、並んででも食べたい、という人がひっきりなしに訪れる。





エレオノーラは目をキラキラさせて、パンケーキを見つめている



「シルビオ様、大変です、ウサギがのぞいています」



「覗いている、な」



クッキーで作られたうさぎが、真ん中のクリームからひょこっと覗いている。そのいたいけな表情が何とも言えない。



思ったよりも、ボリュームがあったからだろうか、それともかわいらしすぎたのだろうか、シルビオはパンケーキを目の前にして、困惑しているようだ。



(エレオノーラを喜ばせたい一心で、ここに来たが、こ、これは……恥ずかしい。このかわいらしいパンケーキを俺が食べるのか?)



長身で容貌の美しい男性であるシルビオの前に、かわいいパンケーキ。



エレオノーラは、いつも堂々としていて隙のないシルビオが、目の前のパンケーキに戸惑っていることが急にかわいらしく、くすっと笑いが漏れてしまった。



「どうした?」

手をつけず、困っている様子のシルビオが、顔をあげる。



「いえ、シルビオ様の珍しい困り顔が見られてちょっと嬉しくて」

ふふっと小さく笑う。



「なんだそれは」

つられて、シルビオも困った笑顔を見せた。



「強敵でしょう?」



「違いない」

そう言った直後、あきらめたように、手前にざっくりとナイフを入れ、丁寧に口に運ぶ。さすが貴族、美しい所作だ。



その様子は、店内の女性たちの視線を集めるのに充分だった。



「シルビオ様、皆さん見惚れてますよ」

エレオノーラはシルビオに少しだけ顔を近づけてささやいた。



「見惚れてほしい人は、まったく興味なさそうだけどな」

そう言って残念そうに、苦笑いをする。



「そんな、シルビオ様ほどの方に見惚れない女性なんていないでしょう」

この見た目で、紳士的。きっと今までモテないことがなかっただろう。



「それが、目の前にいても全然興味を持ってもらえなくてね」

そう言って、エレオノーラをちらりと見た。



「へえ、それも“強敵”ですね」

気にしていない風に、装ってパンケーキを口に運ぶ。ドキドキとして、心は落ち着かない。



「そうなんだ、このウサギみたいにかわいらしいんだけどな」

そう言った瞬間、二人は顔を見合わせて小さく笑いあった。



「……充分見惚れていると思いますよ、私が保証します」

きっと、過去がなければ、簡単に流されていただろう。しかし、一度捨て置かれた、そのことがふっと頭をよぎり、楽しかった気持ちがすっと冷める。



「それなら、調子に乗って一つ渡したいものがある。左腕を出してくれ」



「はい?」

何のことかわからず、フォークを置いて左腕をシルビオの方に差し出した。



すると、ポケットから小さな箱を取り出し、きらきらと光る細い鎖をエレオノーラの左手首にはめた。



それは、小さなダイヤとアメジストがあしらわれた、華奢なデザインのブレスレットだった。



「これ……」



先ほどの、カジュアルな宝石店でエレオノーラが見ていたものだ。ダイヤとアメジストがきらきらと輝き、少し大人っぽいけれどいつかつけてみたいと思ったものだった。しかし、自分のお金でもないのに贅沢な気がして、みるだけにとどめたのだ。



「これでよかったか?」



「え?」



「見ていただろう」



そんなに長く見ていたつもりはなかったが、シルビオにわかるくらい凝視してしまっていたなら、恥ずかしい。



「使ってくれ」



「あ、ありがとう、ございます」



本当は、受け取るべきではない、頭ではわかっていたが、流れるように自然につけられては、断りづらい。



(今だけよ。アカデミーに入ったら会わなくなるわ)

自分の中で、何かと言い訳をする。



(勘違いしないうちに、早く帰らなければ)

途端に気持ちがそわそわと落ち着かなくなる。



店内が混んできたこともあり、早々に店を出ることにした二人。



「まだ、時間が早いがどうする?」



「今日はもう、帰ります」

(これ以上一緒にいたら、おかしくなりそう)



「そうか、では、送って行こう」



馬車の中には二人きり。室内を沈黙が流れる。



シルビオは、これ以上一緒の時間を過ごす言い訳も見つからず、心残りだった。

(また、こんな風に出かけてくれるだろうか)

次につながることは、何もできなかった。意識しすぎて、気の利いた一言など出ようはずもない。



何を話せばいいか、と考えていると、向かい側に座っているエレオノーラの頭が揺れている。

眠気と戦っているようだが、馬車が揺れるたびに倒れそうだ。



(……安全のためだ)

シルビオは自分に言い訳して、エレオノーラの隣に座り、自分の肩にエレオノーラの頭をもたれかけさせた。



不安定だった姿勢が安定したことで、エレオノーラの眠りは一層深くなったのか、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立て始めた。



(ずいぶん疲れていたんだな)



投げ出されたエレオノーラの手を膝の上に置き、シルビオは自分の手と絡めるようにつないだ。

エレオノーラの体温が直に伝わってくる。緊張が途切れたためか、シルビオも自身も眠気に誘われていった。

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