見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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半ば強引に連れていかれたのは、先ほどの店とはうってかわって、小さく、かわいらしい作りの店だった。



宝石をあつかってはいるが、カジュアルで、小さめなものが多い。普段でも付けられるようなデザインばかりだ。



「わあ~、かわいい!」

思わず声を上げるエレオノーラ。



店内の内装も、ピンクと白に統一されていて、そこかしこに、スイーツとともにディスプレイがされているのも女心を刺激する。完全に女性向けのお店だ。



「少し見ていかないか?」



年頃らしく小さくてかわいいものが好きなエレオノーラは、目を輝かせて、うん、うんとうなずいた。



店内は女性同士で来ている客が多い。貴族だけではないようだ。皆割とカジュアルな服装で、楽しそうに選んでいる、と思ったら、シルビオの方をチラチラ見ながら、きゃあきゃあとささやきあっているのが聞こえる。



(シルビオ様、見た目がいいから、目を引くわよね)



しかし、当のシルビオはまったく気にしていない様子で、エレオノーラの斜め後ろに陣取って、何が楽しいのか一緒に見てまわる。



エレオノーラから見ても、顔立ちも立ち居振る舞いも洗練されていて素敵だ。しかし、それ以上に残念なところが目立ちすぎて忘れてしまう。



(タイミングがイマイチ悪いところとか、ぶっきらぼうで言葉足らずとか……見た目だけではわからないわよね)



内心そんなことを考え、くすっと笑いを洩らした。



「どうした?なにか気に入るものがあったか?」



シルビオが優しく微笑むと、歓声とも悲鳴とも知れない小さなさざめきが聞こえてきた。



(これは、モテるはずだわ……)



エレオノーラは、ぎこちなく微笑みを返しながら、内心冷静に店内の客の様子を観察していた。



「髪留めとリボンを買おうかと思っています」



先日髪留めが壊れてしまい、困っていたところだった。

お値段もかわいいこのお店なら、気兼ねなく買い物が出来そうだ。



「どれだ?」



「は?」



「選んだものを教えてくれ」



「なぜ?」



「俺が買うからに決まっているだろう?」

何を言っているのだ、と言わんばかりの顔でシルビオはエレオノーラを見た。



「ええ?!お金持っています」

リュシアン様から、生活準備のため、いくらかは渡されている。



(まさかシルビオ様は買ってくれようとしているの?)



「まさか自分で払うつもりだったのか?」



「当り前じゃないですか」



「……あのな、俺も立場もあるから、ここは払うよ」

ふう、と息を吐いて、シルビオはエレオノーラにこっそり耳打ちした。



「こういうところに男女で来て、男が払わないなんて、なんてケチな客だと思われるんだ。俺の顔も立ててくれ」



「そうだったのですね、すみません……気が利かなくて」

(そんなマナーがあったの?初めて知ったわ)



「いや、気にするな。初めての買い物に付き合えて光栄だよ」



といったものの、自分が買ったものを身に着けてほしいという、シルビオのただの独占欲だ。

(本当は、俺が買ってやりたかっただけだけどな)





エレオノーラは、一足先に店の外に出ていた。シルビオに気づくと、頭をぺこりと下げて、



「シルビオ様、買い物に付き合わせた上に、買っていただいてしまってすみません」

申し訳ない、と謝るばかりのエレオノーラの唇にシルビオは人差し指を当て、



「謝るのはもういい、たくさん使ってくれれば、その方が嬉しい」



押しあてられた人差し指の感覚が、直に伝わり急に恥ずかしくなってほんのり耳が赤くなる。黙って頷くのが精いっぱいだ。





「エレオノーラ、疲れていないか?」



「え?!まあ……少し」

シルビオとの空気感が心地よくて、疲れを忘れていたが、本当は慣れないことにくたくただった。



「そこに、カフェがあるんだ、ちょっと休んでいこう」



「!!そこって、話題の?!」



「そうらしいな、新しいスイーツが人気だとか」



「でも……」



付き添ってくれた侍女と護衛の方をちらりと見た。

シルビオは何事か話すと、彼らは安心したように微笑んでその場を後にする。



「彼らなら、屋敷に戻ってもらった。責任をもって送って行くから大丈夫だ。」





しかし、店にはすでに行列ができている。



「シルビオ様、もしかして並びますか?」



「ああ、嫌か?」



「いえ、私ではなく……」

エレオノーラは貴族とはいえ、貴族のような暮らしをしていなかったため、並ぶのも苦ではないが、シルビオほどの高位貴族が庶民と一緒に並ぶなど聞いたことがない。



案の定、シルビオが並ぶと、すでにできていた列にいる女性たちが、さざめきあっている。



「普通、貴族の方は並んだりされませんよ」

高位貴族なら、無理やり予約をして席をとるか、営業時間外でも店を開けさせるなど、やりかねないが、そういうことをしないのもシルビオらしい。



「でも、この店がいいと思ったのだから、並ぶしかないだろう」

シルビオは、この店にエレオノーラが来たがっていたことをロジェから聞いていた。誰かと行く前に自分が連れていきたい、と考えていたのだ。



シルビオへの女性たちの視線と、横にいるエレオノーラへの刺さるような視線がいたたまれず、並んでいても落ち着かないエレオノーラだ。



「もし、疲れたら言ってくれ」



「え?」



「俺だけ並んでおくから、休んでくるといい」

と、待っている馬車を指さした



「いえいえ、大丈夫です、スイーツ楽しみなので並びます」

そういったものの、なかなか列は進まない。



「エレオノーラ、さっきの髪留め、ちょっとつけてみないか?」



「ここで、ですか?」



「ああ、暇だろ?」



「まあ……」

シルビオは髪留めを取り出すと、エレオノーラの髪にあてがった。



自分でつけようと、髪留めを受け取るために手を差し出したら、その手は空を切った。



(え?!)



シルビオは柔らかくエレオノーラの髪を救い上げ、その髪留めで止めてしまった。



「ちょ……え?」



「いい色だな、よく似合う」



エレオノーラは目を見開いて、固まっている。



いいなー、素敵―などという声がこそこそと聞こえてくる。



(お願いだから、目立っているの気づいて?!こんなことされたら悪目立ちよ)



居心地が悪く、赤面して俯くエレオノーラをよそに、シルビオは、まったく気にしていない様子だ。



「シルビオ様、こういうこと、誰にでもしちゃだめですよ。誤解されてしまいます」



「わかっている」

(……妻以外にはしないよ)



心の中の声は言えず、そのかわりにちょっと照れくさそうに微笑むシルビオ。



(ダメだめ、勘違いしちゃ。この人は、こういうのが日常なんだから、特別なことじゃないのよ)



高鳴る胸をなだめるように、深呼吸するエレオノーラだった。
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