見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖

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夜会 1

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それから引っ越しの片付けや、リュシアン邸で行われる夜会の準備であっという間に日々は過ぎていった。







たいして準備もできないまま、夜会の当日だ。



リュシアンも朝から、準備で行ったり来たりだ。



「初めて夜会なんて開くから、緊張するよ」



エレオノーラのために、慣れない夜会を取り仕切るリュシアン。



「リュシアン様、私のために、すみません」



「謝らないの。娘のために夜会ができるなんて、なんて幸せなんだろうと思うよ。こんな機会、君が来てくれなければ一生恵まれなかっただろうからね」



とても嬉しそうにニコニコと笑っている。



そして、朝から侍女たちも張り切って準備をしている。



エレオノーラは初めてで、何もわからないため、侍女に言われるがまま、されるがままだ。屋敷の中を右へ左へと連れまわされる。



「まずはお肌を磨きましょう!きめが細かいから、きっと美しくおなりですよ!」



ニコニコと数人の侍女がうなづく。この屋敷にきて、初めて顔を合わせる者も多い。



腕を引かれて、バラの花びらの浮かぶバズタブへ連れていかれる。



芳醇なバラの香りに包まれ、ほっと、したのもつかの間、しばらくすると、台に寝かされ、バラの香りのするオイルで全身をぎゅうぎゅうと絞られ始める。



(気持ちいいけど、体中から何かでそう……)



そのあとは、全身にパックが施され、動くことを禁じられた。



「しばらくお休みくださいね」



体を絞られた疲労感もあり、お言葉に甘えて少しウトウトしていると、部屋の外で侍女たちの歓声が聞こえた。



(……何かあったのかしら)







やっと動くことを許され、歓声のあった方へ行くと、そこにはシルバーのドレスとそれに合わせた靴が運び込まれていた。



ドレスは、白に近いシルバーで、シフォンが何層にも重ねられている。動くたびに裾がふわふわと動き、腰のあたりに散りばめられた小さなビーズがきらきらと光る。



後ろは同じシフォン素材で首から腰に掛けてリボンがいくつかつけられている。



(すごくかわいい…)



想像していたより、数倍素晴らしいドレスだった。



靴も、少しかかとが高く、同じ素材の光るビーズがちりばめられている。足首で止めるストップから幾筋もビーズが流れ落ちるようにつけられたデザインで、試しに履いて少し歩いてみると、歩くたびに光が反射してきらめいている。



「わあ……素敵」



思わず、口からこぼれた。



侍女たちからも、その靴の美しさにため息交じりの声が漏れた。



(こんな靴、履きこなせるのかしら……)



今まで、こんなに豪華な靴もドレスも身に着けたことはない。もちろんアクセサリーも。



「エレオノーラ様、さっそく準備いたしましょう」







軽く化粧を施してもらい、髪の毛を結い上げると、侍女たちが微笑んで、コルセットを持ってきた。



軽く身に着けるだけかと思ったが、とんでもなかった。これでもか、というほどぎゅうぎゅうと締め付けられる。編み上げられているので、自分でつけるのも、脱ぐのも不可能だ。



「く、苦しいです!」



いくら訴えても、侍女たちがよいと思うまで締め上げられる。世の令嬢たちは毎日こんなことをしているのかと思うと、尊敬に値する。



コルセットを装着したら、何層にも重ねられたパニエをつける。パニエだけで相当の重さがあった。



(これで、軽やかにダンスを踊るなんて、鍛えていないと無理だわ。どうりで令嬢たちも馬術や剣技をたしなむわけね)



ドレスを着てダンスをおどるのは、もしかしたら、男性たちより体力がいるかもしれない。



ドレスの準備が出来たら、今度は今年デビューである証に、手袋をつける。



手袋はひじ上まであり、ドレスと合わせて白に近いシルバーで、ここにもビーズと刺繍が施されていた。







「おお、見違えたよ!なんて美しいのだろう、これで、大人への第一歩だね」



義理とはいえ、娘の晴れ舞台に感動が隠せないリュシアンが現れた。



「これを身に着けてごらん」



先日シルビオと選んだネックレスとイヤリング。



鏡に映るのは、初めて見る自分。



宝石やドレスが豪華すぎて、自分ではしっくりこない。まるで別人のようだ。



(あの、肖像画の女性にどんどん似てくる……)



アンナマリーと忍び込んだ宝物庫にあった女性の肖像画。あの時は否定したが、確かに似ている。



「エレオノーラ様に皆さまの視線は釘付けですね!」



「なんて素敵なんでしょう、一流の貴婦人そのものですね」



侍女やリュシアンが口々に褒めてくれる。



「もう、我が国の薔薇や宝石もかすむ美しさだね。美しすぎて誰かに連れてかれちゃわないか心配だよ。知らない人に誘われてもついて言ってはダメだからね?!」



「大丈夫です、端の方でおとなしくしていますから」



挨拶が終われば、おとなしく隅の方にでもいればいいと考えていた。今後社交づきあいをする方も少ないだろうし、リュシアンの後ろ盾があるとはいえ、一代限りの公爵。エレオノーラはのちに平民に戻る予定だ。そうなれば、貴族社会ともあまり関係なくなる。アカデミー入学のため、多少顔を知っていてもらうだけで充分だ。



「それはそれで勿体ないよ、たくさんのお客様を呼んだから楽しみにしていて」



リュシアン邸には、次から次へとゲストが到着している。馬車止めももうすでにいっぱいだ。しかし、まだまだ、ゲストはこちらに向かっているようだ。



リュシアンはうきうきと、その様子を見ているが、エレオノーラは生きた心地がしなかった。今まで、こんな大勢の人々が集まる夜会は経験したことがない。そのうえ、みんなの前で紹介までされるという。



「大丈夫だよ、今の君はどんな宝石もかなわない、我が国の社交界きっての、姫君となるだろう」



リュシアンは、緊張をほぐすためにいろいろと声を掛けてくれるが、緊張でそれどころではないエレオノーラは何も答えられない。



(だ、ダメだわ、こんなにいろいろ言ってくださるけれど、何一つ頭に入ってこない)



今日の流れを頭の中で何度もおさらいして、段取り通りにすることしか考えられなかった。



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