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夜会 2
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ついに夜会が始まった。
リュシアンにエスコートされ、夜会の会場へ入っていく。
大きなシャンデリアには、煌々と明かりが灯り楽団は今か、今かと開始の合図を待っている。
華やかな衣装をまとった人々が、其処ここで楽しそうに言葉を交わしている。
リュシアンと、隣の人物に目を留めると、人々のさざめくような話し声がやみ、一瞬の沈黙が流れる。リュシアンの挨拶とともに、華やかな音楽が流れだした。
最初のダンスはそのままエスコートされ、リュシアンと踊る。
「うちのお嬢様は、ダンスが得意だね」
「リュシアン様のリードが上手なだけですよ。いつも先生の足を踏んでばかりで、ちっとも上達しなかったのですから」
リュシアンとのダンスは穏やかな時間だった。父が生きていれば、いつかこんな日が来たのかもしれない、ふとそう感じて、エレオノーラは瞳が少しだけ潤んでしまう。
「どうしたの?」
エレオノーラの瞳が揺れたことに、リュシアンは鋭く気づいた。
「こんな日を迎えられたのが、嬉しくて」
泣き笑いのような顔でごまかすエレオノーラだった。
ダンスが終わると、リュシアンに連れられ、来てくれたゲストのもとへ順番にあいさつに回る。表面上は「お美しいお嬢様」「将来が楽しみ」など褒めているが、なぜ養女になったのか、誰の縁なのか、値踏みをするような視線でエレオノーラを見つめるのだ。
(いたたまれない。あからさまに探るような視線は失礼にはあたらないのかしら)
エレオノーラやリュシアンがいるところでも、小さな声で噂する人々の声が聞こえる。
“今までご結婚されなかったのに、急に養女?”“隠し子だったんじゃない?”“本当は、若い妻なんじゃない?”
(……みなさん、聞かせようとしているのかしら)
うわさ話が耳に入ると、エレオノーラは気分が悪くなり、だんだんと俯いてしまう。
リュシアンの方に気遣うような視線を送るが、当の本人はまったく気にしていない様子で、目配せする。
(社交界ってこういう感じなんだ、いい噂はなさそうね)
自分の事だけでなく、リュシアンのことまで悪く言われるのがどうにも腑に落ちなかった。
ため息が出そうになった瞬間、後ろから声を掛けられた。
「どうした、元気ないな」
ぽん、と肩に手を置かれ、飛び上がるほど驚いて振り向くと、
「シルビオ様!」
今日の装いも素敵なシルビオだ。濃い紺の仕立てにシルバーのタイ、エメラルドとダイヤのカフス。胸元にも合わせたデザインのピンをつけている。
よく磨かれた革靴からは、長い足が伸びていた。
金の髪もきれいにセットされて、深いグレーの瞳に、まつげが影を作る。
誰が見ても、女性に好かれそうな眉目である。
「ああ」
とかるく、片眉をあげ、返事をする。
エレオノーラはシルビオの顔をみたとたん、安堵感で急に緊張が解け、長いため息がでた。
「長い溜息だな」
「シルビオ様の顔をみたら、なんか安心しちゃって」
「話題の中心が何をいってるんだか」
シルビオは、からかうようにふんっと鼻で笑う。
「悪い話題ばかりでしょう」
がっかりしたような顔をして、情けなく俯くと、シルビオはエレオノーラの手を握った。
「気にしすぎだ。堂々としていろ、顔を上げて!」
言ったかと思うと、シルビオはエレオノーラの手を引いて踊りの輪の中に入っていく。
「え、ちょっ……ダンスは……」
そう言いかけたものの、ダンスの輪の中に入ってしまえば、曲が終わるまで出ることは難しい。
リュシアンとだけ踊るつもりでいたエレオノーラは驚きを隠せない。シルビオは満足そうに微笑んで、リードする。
「こういうときはな、笑顔だ。楽しそうに笑え」
そう言ってシルビオはお手本のように、嫣然と微笑んだ。
「そんなこと言ったって……」
気弱になるエレオノーラの様子を見て、昔の自分が重なるシルビオ。
シルビオ自身、借金にまみれ、両親は行方不明、おまけに妻を殺したのでは?など、ローゼンダールの社交界では散々だ。
(シルビオ様もそうやって笑顔で乗り切ってきたの?)
シルビオの置かれた境遇を思い出し、エレオノーラはシルビオの強さを垣間見た気がしていた。
リュシアンにエスコートされ、夜会の会場へ入っていく。
大きなシャンデリアには、煌々と明かりが灯り楽団は今か、今かと開始の合図を待っている。
華やかな衣装をまとった人々が、其処ここで楽しそうに言葉を交わしている。
リュシアンと、隣の人物に目を留めると、人々のさざめくような話し声がやみ、一瞬の沈黙が流れる。リュシアンの挨拶とともに、華やかな音楽が流れだした。
最初のダンスはそのままエスコートされ、リュシアンと踊る。
「うちのお嬢様は、ダンスが得意だね」
「リュシアン様のリードが上手なだけですよ。いつも先生の足を踏んでばかりで、ちっとも上達しなかったのですから」
リュシアンとのダンスは穏やかな時間だった。父が生きていれば、いつかこんな日が来たのかもしれない、ふとそう感じて、エレオノーラは瞳が少しだけ潤んでしまう。
「どうしたの?」
エレオノーラの瞳が揺れたことに、リュシアンは鋭く気づいた。
「こんな日を迎えられたのが、嬉しくて」
泣き笑いのような顔でごまかすエレオノーラだった。
ダンスが終わると、リュシアンに連れられ、来てくれたゲストのもとへ順番にあいさつに回る。表面上は「お美しいお嬢様」「将来が楽しみ」など褒めているが、なぜ養女になったのか、誰の縁なのか、値踏みをするような視線でエレオノーラを見つめるのだ。
(いたたまれない。あからさまに探るような視線は失礼にはあたらないのかしら)
エレオノーラやリュシアンがいるところでも、小さな声で噂する人々の声が聞こえる。
“今までご結婚されなかったのに、急に養女?”“隠し子だったんじゃない?”“本当は、若い妻なんじゃない?”
(……みなさん、聞かせようとしているのかしら)
うわさ話が耳に入ると、エレオノーラは気分が悪くなり、だんだんと俯いてしまう。
リュシアンの方に気遣うような視線を送るが、当の本人はまったく気にしていない様子で、目配せする。
(社交界ってこういう感じなんだ、いい噂はなさそうね)
自分の事だけでなく、リュシアンのことまで悪く言われるのがどうにも腑に落ちなかった。
ため息が出そうになった瞬間、後ろから声を掛けられた。
「どうした、元気ないな」
ぽん、と肩に手を置かれ、飛び上がるほど驚いて振り向くと、
「シルビオ様!」
今日の装いも素敵なシルビオだ。濃い紺の仕立てにシルバーのタイ、エメラルドとダイヤのカフス。胸元にも合わせたデザインのピンをつけている。
よく磨かれた革靴からは、長い足が伸びていた。
金の髪もきれいにセットされて、深いグレーの瞳に、まつげが影を作る。
誰が見ても、女性に好かれそうな眉目である。
「ああ」
とかるく、片眉をあげ、返事をする。
エレオノーラはシルビオの顔をみたとたん、安堵感で急に緊張が解け、長いため息がでた。
「長い溜息だな」
「シルビオ様の顔をみたら、なんか安心しちゃって」
「話題の中心が何をいってるんだか」
シルビオは、からかうようにふんっと鼻で笑う。
「悪い話題ばかりでしょう」
がっかりしたような顔をして、情けなく俯くと、シルビオはエレオノーラの手を握った。
「気にしすぎだ。堂々としていろ、顔を上げて!」
言ったかと思うと、シルビオはエレオノーラの手を引いて踊りの輪の中に入っていく。
「え、ちょっ……ダンスは……」
そう言いかけたものの、ダンスの輪の中に入ってしまえば、曲が終わるまで出ることは難しい。
リュシアンとだけ踊るつもりでいたエレオノーラは驚きを隠せない。シルビオは満足そうに微笑んで、リードする。
「こういうときはな、笑顔だ。楽しそうに笑え」
そう言ってシルビオはお手本のように、嫣然と微笑んだ。
「そんなこと言ったって……」
気弱になるエレオノーラの様子を見て、昔の自分が重なるシルビオ。
シルビオ自身、借金にまみれ、両親は行方不明、おまけに妻を殺したのでは?など、ローゼンダールの社交界では散々だ。
(シルビオ様もそうやって笑顔で乗り切ってきたの?)
シルビオの置かれた境遇を思い出し、エレオノーラはシルビオの強さを垣間見た気がしていた。
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