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夜会3
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「さっそく社交界の洗礼を受けたみたいだな、感想は?」
「……シルビオ様だから言いますけど、控えめに言って最悪です」
ダンス中は、小声であればあまり聞かれる心配がない。
ははっと思わずシルビオは笑った。
「包み隠さず言うなあ、社交界では本音は厳禁だぞ」
「シルビオ様相手に建前もなにもありませんよ」
自分にだけ本音を言っているのかと思うと、シルビオの心はふと温かくなり、つい、だらしなくにやけそうになるのを、ぐっと眉に力を込めて我慢する。
「……じゃあ、俺も包み隠さずいうと……」
その続きをなかなか言わないシルビオ。
エレオノーラをじっと見つめたまま、音楽に合わせ、流れるようにエレオノーラをリードする。シルビオのリードだと、まるで飛ぶように踊っているような気になる。シルビオはダンスの腕前も相当だ。
「今日のエレオノーラは美しすぎる。このままどこかへ攫ってしまいたいぐらいだ」
「……!またまた、さすがシルビオ様、慣れてますね」
まっすぐに褒められたことが照れくさく、かわそうとするエレオノーラだった。
「茶化すなよ、言っておくが、こんなこと誰にも言ったことないぞ」
(わかってます、がんばって褒めてくださっているって)
心の中でこっそりつぶやいて、ふふっと小さく笑みを漏らす。
「はいはい、言わなくても皆さん放っておかなかったんですよね、シルビオ様のこと。お顔もお姿も素晴らしいですものね。今日も、シルビオ様を狙っている女性がたくさんいらしゃるようですよ」
踊っていてもわかる。女性たちの意味深な視線がチラチラと目に入るのだ。そして、エレオノーラへの敵意とともに。
「そんなことない」
ちょっとふてくされたように、シルビオは答えた。エレオノーラの紫の瞳に、自分だけが映っているという優越感がどれほど甘く、しびれる感覚なのか、きっとエレオノーラには知る由もない。
「……シルビオ様、見過ぎです」
はずかしそうに、ふいっと、顔を逸らす仕草がかわいらしく、心の奥底をぎゅうっと絞られるような、甘いものが流れ込むような不思議な心地がする。
「ああ」
シルビオは、否定とも肯定ともとれない返事をして、目をそらさない。
(思えば、出会ったときにこの紫の瞳に捕らえられていたのかもしれないな)
シルビオの視線を感じ、見られていると意識すればするほど、羞恥から体温が上がる。首筋から耳まで、さっと赤に染まる。
エレオノーラの背中は、シルビオの手に支えられ、右手はしっかりとホールドされていて、触れたところから、お互いの体温が伝わる。
(シルビオ様にこの心臓の音が聞こえてしまいそう)
恐る恐るシルビオの方へ顔を向けると、優しそうな光をたたえたグレーの瞳に、エレオノーラだけが映っている。
その瞬間、エレオノーラは不思議な感覚に陥った。この世界に二人だけしかいないような、世界と隔絶されているような、切なく甘い感覚。
その時、流れる音楽が止まった。次の曲が始まりそうだ。
「離れがたいな」
シルビオは、エレオノーラの手を離そうとしない。二曲目もエレオノーラと踊るつもりのようだ。困ったように微笑んでエレオノーラは逃げるようにその場を離れた。
二曲続けて踊るのは、婚約者か夫。それ以外の男女が躍るということは、あらぬ噂を立てられることになりかねない。
エレオノーラが離れた瞬間、シルビオのもとに、数人の女性がわっと集まった。
それを横目で見ながら、会場から出ようとしたエレオノーラだったが、見目の良い、若い男性につかまってしまった。言葉巧みにエレオノーラを引き留める。
リュシアンに助けを求めようと会場を探すが、人が多すぎてわからない。そうこうしているうちに、断り切れず、踊りの輪に戻ることになってしまった。
先ほど挨拶した中に、いたような気もする。
(誰だっけ、この方…?)
思い出せずに、エレオノーラの頭の中はフル回転だ。作り笑いで、当たり障りのない会話をしているうちに、なんとか一曲乗り切れた。
(ああ、緊張してのどがからから)
飲み物を取りに行こうとすると、また次の男性に誘われ、踊りの輪の中へ。
エレオノーラの美しさは、会場内でひと際目立っていた。咲き初めの薔薇のように、初々しく華やかな姿を男性たちは皆こぞって称え、ダンスに誘おうと様子をみている人間のなんと多いことだろうか。
一方、エレオノーラは、褒められ慣れていないので、うまくかわすことが出来ずなんと答えていいのかわからない。緊張した笑顔で微笑むのが精いっぱいだ。
何人かと踊った後、隙をみてやっとテラスの方へ移動する。
この屋敷にしては、大きめのテラスで端の方は光もあたらず、休憩するのにはちょうどいい。
(ここなら、誰にも見つからず、ちょっと休めるかしら)
テラスの手すりにもたれかかって一息つく。
ひっきりなしにダンスに誘われ、うまく断れずに何人もの男性と踊ることになってしまった。皆口々にエレオノーラの美しさを称えたが、誰一人として印象に残らない。必死で名前と特徴を覚え、愛想笑いを絶やさずに踊り続けた。
(疲れた……)
悪意、嫉み、好奇にさらされ、精神的な疲労感が今になってどっと襲ってくる。
少し休憩したら戻ろうと思っていたが、戻るのもおっくうなくらいだ。
夜風が肩に触れ、少し肌寒さを感じる。仕方なく会場へ戻ろうとした時だった。
テラスへのガラスの扉から、一人の人物が入ってきた。
「……シルビオ様だから言いますけど、控えめに言って最悪です」
ダンス中は、小声であればあまり聞かれる心配がない。
ははっと思わずシルビオは笑った。
「包み隠さず言うなあ、社交界では本音は厳禁だぞ」
「シルビオ様相手に建前もなにもありませんよ」
自分にだけ本音を言っているのかと思うと、シルビオの心はふと温かくなり、つい、だらしなくにやけそうになるのを、ぐっと眉に力を込めて我慢する。
「……じゃあ、俺も包み隠さずいうと……」
その続きをなかなか言わないシルビオ。
エレオノーラをじっと見つめたまま、音楽に合わせ、流れるようにエレオノーラをリードする。シルビオのリードだと、まるで飛ぶように踊っているような気になる。シルビオはダンスの腕前も相当だ。
「今日のエレオノーラは美しすぎる。このままどこかへ攫ってしまいたいぐらいだ」
「……!またまた、さすがシルビオ様、慣れてますね」
まっすぐに褒められたことが照れくさく、かわそうとするエレオノーラだった。
「茶化すなよ、言っておくが、こんなこと誰にも言ったことないぞ」
(わかってます、がんばって褒めてくださっているって)
心の中でこっそりつぶやいて、ふふっと小さく笑みを漏らす。
「はいはい、言わなくても皆さん放っておかなかったんですよね、シルビオ様のこと。お顔もお姿も素晴らしいですものね。今日も、シルビオ様を狙っている女性がたくさんいらしゃるようですよ」
踊っていてもわかる。女性たちの意味深な視線がチラチラと目に入るのだ。そして、エレオノーラへの敵意とともに。
「そんなことない」
ちょっとふてくされたように、シルビオは答えた。エレオノーラの紫の瞳に、自分だけが映っているという優越感がどれほど甘く、しびれる感覚なのか、きっとエレオノーラには知る由もない。
「……シルビオ様、見過ぎです」
はずかしそうに、ふいっと、顔を逸らす仕草がかわいらしく、心の奥底をぎゅうっと絞られるような、甘いものが流れ込むような不思議な心地がする。
「ああ」
シルビオは、否定とも肯定ともとれない返事をして、目をそらさない。
(思えば、出会ったときにこの紫の瞳に捕らえられていたのかもしれないな)
シルビオの視線を感じ、見られていると意識すればするほど、羞恥から体温が上がる。首筋から耳まで、さっと赤に染まる。
エレオノーラの背中は、シルビオの手に支えられ、右手はしっかりとホールドされていて、触れたところから、お互いの体温が伝わる。
(シルビオ様にこの心臓の音が聞こえてしまいそう)
恐る恐るシルビオの方へ顔を向けると、優しそうな光をたたえたグレーの瞳に、エレオノーラだけが映っている。
その瞬間、エレオノーラは不思議な感覚に陥った。この世界に二人だけしかいないような、世界と隔絶されているような、切なく甘い感覚。
その時、流れる音楽が止まった。次の曲が始まりそうだ。
「離れがたいな」
シルビオは、エレオノーラの手を離そうとしない。二曲目もエレオノーラと踊るつもりのようだ。困ったように微笑んでエレオノーラは逃げるようにその場を離れた。
二曲続けて踊るのは、婚約者か夫。それ以外の男女が躍るということは、あらぬ噂を立てられることになりかねない。
エレオノーラが離れた瞬間、シルビオのもとに、数人の女性がわっと集まった。
それを横目で見ながら、会場から出ようとしたエレオノーラだったが、見目の良い、若い男性につかまってしまった。言葉巧みにエレオノーラを引き留める。
リュシアンに助けを求めようと会場を探すが、人が多すぎてわからない。そうこうしているうちに、断り切れず、踊りの輪に戻ることになってしまった。
先ほど挨拶した中に、いたような気もする。
(誰だっけ、この方…?)
思い出せずに、エレオノーラの頭の中はフル回転だ。作り笑いで、当たり障りのない会話をしているうちに、なんとか一曲乗り切れた。
(ああ、緊張してのどがからから)
飲み物を取りに行こうとすると、また次の男性に誘われ、踊りの輪の中へ。
エレオノーラの美しさは、会場内でひと際目立っていた。咲き初めの薔薇のように、初々しく華やかな姿を男性たちは皆こぞって称え、ダンスに誘おうと様子をみている人間のなんと多いことだろうか。
一方、エレオノーラは、褒められ慣れていないので、うまくかわすことが出来ずなんと答えていいのかわからない。緊張した笑顔で微笑むのが精いっぱいだ。
何人かと踊った後、隙をみてやっとテラスの方へ移動する。
この屋敷にしては、大きめのテラスで端の方は光もあたらず、休憩するのにはちょうどいい。
(ここなら、誰にも見つからず、ちょっと休めるかしら)
テラスの手すりにもたれかかって一息つく。
ひっきりなしにダンスに誘われ、うまく断れずに何人もの男性と踊ることになってしまった。皆口々にエレオノーラの美しさを称えたが、誰一人として印象に残らない。必死で名前と特徴を覚え、愛想笑いを絶やさずに踊り続けた。
(疲れた……)
悪意、嫉み、好奇にさらされ、精神的な疲労感が今になってどっと襲ってくる。
少し休憩したら戻ろうと思っていたが、戻るのもおっくうなくらいだ。
夜風が肩に触れ、少し肌寒さを感じる。仕方なく会場へ戻ろうとした時だった。
テラスへのガラスの扉から、一人の人物が入ってきた。
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