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第三章:放課後、図書室の約束
しおりを挟む放課後の屋上は、夕焼けのオレンジに染まっていた。
金網越しに見える街の景色は、春の霞がかかってぼんやりしている。
日向は無言でその景色を見つめていた。
隣にいる蒼も、同じように黙っていた。
不思議と、気まずさはなかった。
「ねえ、思ったんだけどさ」
蒼が先に口を開いた。
「君って、ぜんぜん俺のこと気にしてないよね」
「……そうかな?」
「うん。ほとんどの人は、ちょっと構えたり、距離を詰めようとしたりするのに。君はそのまんまって感じ」
日向は少し考えてから、ぽつりとつぶやいた。
「たぶん、私、人と比べたりするのが苦手なんだと思う」
「比べないの?」
「うん。“あの人みたいになりたい”とか、“この人に好かれたい”とか、思えないの。そういうの、ちょっと疲れち
ゃうから」
蒼はしばらく黙っていた。
風が彼の髪をふわりと揺らし、夕陽がその横顔を照らす。
「……なんか、いいね。そういうの」
そう言って、蒼は少し笑った。
その笑顔は、いつもの“人気者の仮面”じゃなくて、ほんの少しだけ素に近いものだった。
日向はその笑顔に、ほんのわずかに心を動かされた気がした。
けれど――
その頃、図書室では、涼真がそっと日向の帰りを待っていた。
*
静かな夕暮れの図書室。
カーテン越しの陽射しが、淡く本棚を照らしている。
涼真は、日向がいつも使っていた席の上に、そっと一冊の本を置いた。
それは、以前日向が読んでいた本の続編だった。
「たぶん、気づくかな……」
そう小さくつぶやいた涼真の声は、本棚の影に吸い込まれていった。
彼は、言葉ではなく、行動でそっと想いを伝えようとしていた。
日向が“誰といるか”を知っていながら、何も言わずに。
そのまなざしは、まるで“見守る”ことこそが愛情だと信じているかのようだった。
──そして翌日。
日向はいつものように、ふらりと図書室に立ち寄った。
「……あれ?」
彼女の目が止まったのは、あの本だった。
まるで自分のために選ばれていたかのような一冊。
その背表紙をそっとなぞってから、日向はゆっくりと椅子に座り、本を開いた。
その数秒後、棚の影で見守っていた涼真が、勇気を出して一歩を踏み出す。
「……その本、よかったら貸そうか」
日向が顔を上げた。
「佐伯くん……知ってたの?」
涼真は少しだけ頬を染めながら、静かにうなずいた。
「君が、続きを気にしてたみたいだったから。……勝手に、ごめん」
「……ううん、ありがとう」
日向の声は、いつもより少しだけ柔らかかった。
その日、二人は初めて、図書室で“約束”を交わした。
次の本を、一緒に探すという小さな、小さな約束。
だが、その約束が、涼真にとってどれほど大きな意味を持っていたかは、
まだ日向は気づいていなかった。
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