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第四章:気持ちが揺れるとき
しおりを挟むそれは、五月の終わりのことだった。
日向の中で、何かが少しずつ変わっているのを、自分でも感じていた。
登校中に誰かの声が聞こえると、ふと振り返るようになった。
昼休み、ふと視線を感じると、その先を探してしまうようになった。
夕方の教室で、誰かが笑っていると、その理由を知りたくなるようになった。
──その「誰か」は、決まって桐ヶ谷蒼だった。
「日向ってさ、よくぼーっとしてるけど、ほんとは何考えてるの?」
蒼が言ったのは、いつもの昼休み。
「……別に、何も」
「嘘。さっきから俺のこと見てたでしょ?」
「見てないよ」
「ほんと?」
「……ちょっとだけ」
「ほらやっぱり!」
蒼がいたずらっぽく笑ったとき、
日向の胸が、ほんの少しだけ痛んだ。
どうしてだろう。
蒼の笑顔を見るたびに、少しだけ安心して、少しだけ不安になる。
まるで、自分の中で大事な何かが、ゆっくりと目を覚まそうとしているようだった。
*
そんな日向を、涼真はずっと見つめていた。
言葉にはしないけれど、そのまなざしは真剣だった。
優しいけれど、どこか切ない。
そしてある日、彼はその想いを、とうとう言葉にした。
「日向さん」
放課後の図書室。
人の少ない時間帯を見計らって、涼真は日向の前に立った。
「……少しだけ、いい?」
「うん」
日向は本を閉じて、静かに顔を上げた。
「……ずっと前から、君のことが気になってた」
その言葉は、決して勢いで出たものではなかった。
まっすぐで、飾り気のない言葉だった。
「君が本を読んでる姿とか、誰にも流されないところとか……全部、すごく素敵だなって思ってた」
日向は驚いたように目を見開いたまま、何も言えなかった。
「もし……君が誰かに心を向けてるとしても、それでも、君のそばにいたいって思ってる」
沈黙が落ちた。
図書室の窓から射す夕日が、ふたりの影を長く伸ばしている。
やがて日向は、そっと唇を開いた。
「……ごめん。いま、ちゃんと返事できない」
涼真はゆっくりとうなずいた。
「いいよ。焦らなくて。……でも、知っておいてほしかった。俺の気持ち」
それだけ言うと、彼は何も言わずにその場を離れた。
その背中は、どこか優しくて、どこかさびしかった。
*
その夜、日向はひとりで空を見上げていた。
桐ヶ谷の言葉、涼真の告白――
どちらも、心の奥でふるえていた。
「私……どうしたいんだろう」
風がカーテンを揺らす音だけが、静かに彼女の問いかけに応えていた。
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