その声だけ、まっすぐ届いた

しっくん

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最終章:その声だけ、まっすぐ届いた

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文化祭の準備は、校舎中を騒がせていた。

体育館ではダンスの練習、廊下には段ボールの山、教室では飾りつけのリハーサル。

ざわざわした熱気の中、日向もクラスの出し物の準備に参加していた。



「日向さん、リボンの在庫、見てくれる?」



「うん、わかった」



気づけば、人との会話も、笑顔も増えていた。

誰かと一緒にいる時間が、前より少しだけ心地よく感じられるようになっていた。



そんな日向に、ふいに声をかけてきたのは、桐ヶ谷蒼だった。



「ちょっと、手伝ってほしいことがあるんだけど。いい?」



「なに?」


「屋上、ついてきて」


「……また屋上?」



日向は微笑みながらうなずいた。







風が吹いていた。あのときと同じ、夕暮れ前の屋上。

オレンジ色の空に、白い雲がゆっくりと流れていた。



蒼はフェンスにもたれながら、ぽつりとつぶやいた。



「日向ってさ、本当は強いよね」


「……そうかな」


「うん。自分のこと、ちゃんとわかってるっていうか。俺なんか、いつも“誰かの期待”に応えようとしてばっか

で、ほんとは怖がりなのにさ」



蒼の声は、少しだけ震えていた。

それは、今まで誰にも見せたことのない、本音だった。



「君と話してると、自分の言葉がちゃんと“届いてる”気がするんだよね。……誰かに、ちゃんと届くって、すごい

ことなんだなって思った」



日向は、黙ってその横顔を見つめていた。

その目には、強がりでも余裕でもない、ひとりの男の子の真っすぐな想いがあった。



「俺さ――君のこと、ちゃんと好きになったかもしれない」



その言葉は、風に流されることなく、はっきりと日向の胸に届いた。


しばらくの沈黙のあと、日向は静かに言った。



「“かもしれない”じゃなくて、ちゃんと“好き”って言ってよ」


蒼は驚いて、そして照れたように笑った。



「……うん、好き。ちゃんと、好き」


日向はふっと微笑んだ。

その笑顔はこれまででいちばん自然で、優しいものだった。



その瞬間、蒼のスマホが震えた。

画面には「佐伯 涼真」の名前が光っていた。


メッセージは、たったひと言だった。


『君が笑ってるなら、それでいい。』



蒼はそれを日向に見せると、ふっと息を吐いて言った。



「……やっぱり、すごいな。あいつ」


日向は小さくうなずいた。



「うん。……ちゃんと、まっすぐだったよ」


──誰かの優しさは、気づかれなくても、確かにそこにある。


──誰かの言葉は、たとえ届くまでに時間がかかっても、ちゃんと心に残る。


日向は思った。


「届く」って、きっと、そういうことなんだと。



──そして今、ようやく日向は、自分の想いを選ぶことができた。



それは、誰のものでもない、自分自身の気持ち。



「……これからも、屋上、つきあってくれる?」



蒼が照れくさそうに言った。



日向はほんの少しだけ顔を赤らめて、静かにうなずいた。


「……うん。話したいこと、まだたくさんあるから」



風がまた吹いた。



その声だけが、まっすぐに、ふたりの間を通り抜けていった。











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