その声だけ、まっすぐ届いた

しっくん

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外伝 まっすぐで、静かな君へ

第二章:届かない焦り、やわらかな嫉妬

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「日向さんって、毎日ほんと本読んでるよね」




そんなふうに声をかけたのは、彼女が転校してきて三日目の昼休みだった。


本をめくるその手は、まるで呼吸みたいに自然で。


話しかけることで邪魔するんじゃないかと、一瞬だけ躊躇した。



「うん。読むと落ち着くから」



日向はページから目を離さず、ぽつりと答えた。



それだけ。


たったそれだけの会話なのに、なぜか俺は、それをずっと覚えていた。




「どんなの読んでるの?」



「これはあんまり面白くない。文章が硬いし、比喩も多すぎる」



「それなのに読むんだ?」



「途中でやめるのって、なんか落ち着かない」



……正直、よくわからなかった。




でも、そのわからなさが、むしろ面白かった。



多くの人は、俺に合わせようとする。



話題を振れば乗ってくるし、笑えば笑い返してくれる。




でも彼女は、まるでそれに興味がない。



目の前にいるのが“クラスの人気者”だってことさえ、気づいてないんじゃないかと思うくらいに。



それが、すごく……心地よかった。




「君、ちょっと変わってるよね。でも、そこがいいなって思った」



言ってから、自分でも驚いた。



“いいなって思った”なんて、軽々しく言ったことはあるけど、こんなふうに素直な気持ちを口にしたのは、初めて


かもしれない。





日向は目をぱちぱちと瞬いて、首をかしげた。



「……ありがと。でも、なんか不思議な人だね、桐ヶ谷くんって」



その一言が、妙に胸に残った。




不思議なのは、たぶん君のほうなのに。











その日の放課後、ふと図書室の前を通りかかった。


中を覗くと、日向が窓際の席で本を読んでいた。


その向かい側に座っていたのは――佐伯涼真。




クラスメイトだけど、正直これまでほとんど話したことはなかった。



目立たないし、静かで、図書委員くらいしか印象がない。



でも、彼は確かに日向を見ていた。


本の話をしているわけじゃない。


ただ、彼女がそこにいることを、大切に感じているような、そんな眼差しだった。



……そのとき、初めて胸の奥がざらっとした。



これは、なんだ?




知らない感情だった。


でも、それが“嫉妬”ってやつなんだと、すぐにわかった。



人気者としての俺に、日向はなびかない。



言葉で、態度で、無理に距離を詰めようとしても、きっと意味がない。



彼女は、静かに、ゆっくりと、自分のペースで人を見ている。



そんな彼女の“視線の先”に、俺じゃなく、佐伯がいるのだとしたら――



なんとなく、それが、悔しかった。




「……俺、なにやってんだろ」



小さくつぶやいて、図書室の前を通り過ぎる。



追いかけようとする足が、ほんの少しだけ震えていた。








次の日、日向は昼休みに教室にいなかった。





「……図書室かな」



そう思って見に行った。理由なんていらなかった。



案の定、彼女はいつもの窓際の席にいた。



そしてその隣には、また佐伯がいた。



ふたりは何かを話していて――日向が、少しだけ笑った。



その笑顔が、俺にはものすごく遠く見えた。



俺には見せたことのない顔だった。


まだ何も始まってないのに、終わりがあるみたいな気がして、息が詰まった。



だけど。



「それでも、俺は君に近づきたいって思ってるんだよ」


誰にも聞こえないように、心の中でだけそうつぶやいた。



まだその気持ちに、名前はなかった。



でも、確かにあった。



それは、小さくて、あたたかくて、


そして――誰にも渡したくないものだった。



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