7 / 10
外伝 まっすぐで、静かな君へ
第二章:届かない焦り、やわらかな嫉妬
しおりを挟む「日向さんって、毎日ほんと本読んでるよね」
そんなふうに声をかけたのは、彼女が転校してきて三日目の昼休みだった。
本をめくるその手は、まるで呼吸みたいに自然で。
話しかけることで邪魔するんじゃないかと、一瞬だけ躊躇した。
「うん。読むと落ち着くから」
日向はページから目を離さず、ぽつりと答えた。
それだけ。
たったそれだけの会話なのに、なぜか俺は、それをずっと覚えていた。
「どんなの読んでるの?」
「これはあんまり面白くない。文章が硬いし、比喩も多すぎる」
「それなのに読むんだ?」
「途中でやめるのって、なんか落ち着かない」
……正直、よくわからなかった。
でも、そのわからなさが、むしろ面白かった。
多くの人は、俺に合わせようとする。
話題を振れば乗ってくるし、笑えば笑い返してくれる。
でも彼女は、まるでそれに興味がない。
目の前にいるのが“クラスの人気者”だってことさえ、気づいてないんじゃないかと思うくらいに。
それが、すごく……心地よかった。
「君、ちょっと変わってるよね。でも、そこがいいなって思った」
言ってから、自分でも驚いた。
“いいなって思った”なんて、軽々しく言ったことはあるけど、こんなふうに素直な気持ちを口にしたのは、初めて
かもしれない。
日向は目をぱちぱちと瞬いて、首をかしげた。
「……ありがと。でも、なんか不思議な人だね、桐ヶ谷くんって」
その一言が、妙に胸に残った。
不思議なのは、たぶん君のほうなのに。
*
その日の放課後、ふと図書室の前を通りかかった。
中を覗くと、日向が窓際の席で本を読んでいた。
その向かい側に座っていたのは――佐伯涼真。
クラスメイトだけど、正直これまでほとんど話したことはなかった。
目立たないし、静かで、図書委員くらいしか印象がない。
でも、彼は確かに日向を見ていた。
本の話をしているわけじゃない。
ただ、彼女がそこにいることを、大切に感じているような、そんな眼差しだった。
……そのとき、初めて胸の奥がざらっとした。
これは、なんだ?
知らない感情だった。
でも、それが“嫉妬”ってやつなんだと、すぐにわかった。
人気者としての俺に、日向はなびかない。
言葉で、態度で、無理に距離を詰めようとしても、きっと意味がない。
彼女は、静かに、ゆっくりと、自分のペースで人を見ている。
そんな彼女の“視線の先”に、俺じゃなく、佐伯がいるのだとしたら――
なんとなく、それが、悔しかった。
「……俺、なにやってんだろ」
小さくつぶやいて、図書室の前を通り過ぎる。
追いかけようとする足が、ほんの少しだけ震えていた。
*
次の日、日向は昼休みに教室にいなかった。
「……図書室かな」
そう思って見に行った。理由なんていらなかった。
案の定、彼女はいつもの窓際の席にいた。
そしてその隣には、また佐伯がいた。
ふたりは何かを話していて――日向が、少しだけ笑った。
その笑顔が、俺にはものすごく遠く見えた。
俺には見せたことのない顔だった。
まだ何も始まってないのに、終わりがあるみたいな気がして、息が詰まった。
だけど。
「それでも、俺は君に近づきたいって思ってるんだよ」
誰にも聞こえないように、心の中でだけそうつぶやいた。
まだその気持ちに、名前はなかった。
でも、確かにあった。
それは、小さくて、あたたかくて、
そして――誰にも渡したくないものだった。
0
あなたにおすすめの小説
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!
竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」
俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。
彼女の名前は下野ルカ。
幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。
俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。
だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている!
堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる