舞踏会で恋と事件が始まりました。

しっくん

文字の大きさ
8 / 17
外伝

光を知らぬ王子

しおりを挟む



王族に生まれた時から、私の人生には選択肢などなかった。




「お前は未来の王になるのだから」


それが、誰もが私に向ける言葉だった。


父王も、母王妃も、臣下たちも。


時に優しく、時に冷たく、彼らは一様に“役目”を私の上に積み上げていった。



私は、「誰かに愛される子ども」である前に、「国の未来」だった。


そうして成長する中で、私は感情をしまい込む術を身につけた。


微笑み方も、言葉の選び方も、完璧に整えた。


そうすれば誰も傷つけず、誰からも責められない。


それが“王子”として、正しい在り方だと教えられていたからだ。



でも――夜、ひとりになると、私は時々息ができなくなることがあった。




感情を押し殺しているはずなのに、胸が締めつけられる。


孤独なのだと気づくには、私はまだ幼すぎた。


ただ、心のどこかで「何かが足りない」と思いながら、それを口にすることさえ許されないと知っていた。





***






そんな私にとって、イリーナは特別だった。


彼女は王城に通い、私と同じように厳しい教育を受けながらも、よく笑い、よく怒る少女だった。




「レオナルド様って、ほんとうにいつも静かよね。時には声を荒げるのも大事よ?」




ふいにそんなことを言う彼女が、少し羨ましかった。




感情を素直に表せること。誰かを本気で叱れること。



それは、私には持てなかった力だった。




イリーナは私に気持ちを向けてくれていたと、今なら分かる。


けれど、当時の私はその想いに応えることが怖かった。


誰かを大切に思えば思うほど、もし失ったときにどうなってしまうのか分からなかったから。



私は、誰よりも人を遠ざける王子だった。






***




そして――舞踏会の夜。


私は彼女に出会った。



クラリス・ド・ラフィーネ。





はじめて見る少女。けれど、目が合った瞬間、なぜか懐かしいとさえ思った。



彼女は控えめで、場に馴染んでいるとは言い難かった。


けれど、まるで一輪の白い花のように、そこに静かに、確かに咲いていた。




(この人は、仮面をつけていない)



それが最初の印象だった。


警戒も恐れもあったはずなのに、彼女の瞳には「本当の自分」をさらけ出すことを怖れていないような――そんな


まっすぐさがあった。



私は、思わず言葉をこぼしていた。



「……あなたは、風の匂いがする」



誰にも言ったことのない、心の底の声だった。



彼女が風ならば、私はずっと閉ざされた部屋にいたのだろう。



そのあと、すべてが変わった。



クラリスが私の命を救おうと動いていたこと。


陰謀の兆しを察知し、恐れながらも真実に立ち向かったこと。


イリーナと手を取り合い、過去も立場も乗り越えて共に戦ったこと。



すべてを知ったとき、私は初めて、自分が“人として”誰かに救われたのだと知った。



“王子”ではなく、“レオナルド”として、守られたのだ。




***




事件が収まった後、私は城の高台で夜を迎えていた。




クラリスと並んで見た夜空は、これまで見てきたどの風景よりも深く、美しかった。



その手を取り、私は伝えた。



「君となら、この国を歩いていける気がする」



かつて誰にも言えなかった想いを、ようやく言葉にできた。



胸に灯った光は、静かだけれど、確かに温かい。



これからは、“王子”としてだけではなく、“私自身”としてこの国を見つめたい。



誰かに愛され、愛することを恐れずに。



そして、支えてくれる人たちに、真の意味で感謝を伝えられる人間になりたい。




***




私は、ようやく檻の扉を開いたのだ。




暗闇の中で、ほんの少しの勇気があれば――


風は吹き、光は差す。



クラリス。


君が差し出してくれた手は、私の世界を変えた。


これからの私は、その手を離さずに生きていこう。


未来へ歩く王としてではなく、


光を知った一人の人間として。



【完】


このあと、また続き書くのでお楽しみ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

転生したら没落寸前だったので、お弁当屋さんになろうと思います。

皐月めい
恋愛
「婚約を破棄してほしい」 そう言われた瞬間、前世の記憶を思い出した私。 前世社畜だった私は伯爵令嬢に生まれ変わったラッキーガール……と思いきや。 父が亡くなり、母は倒れて、我が伯爵家にはとんでもない借金が残され、一年後には爵位も取り消し、七年婚約していた婚約者から婚約まで破棄された。最悪だよ。 使用人は解雇し、平民になる準備を始めようとしたのだけれど。 え、塊肉を切るところから料理が始まるとか正気ですか……? その上デリバリーとテイクアウトがない世界で生きていける自信がないんだけど……この国のズボラはどうしてるの……? あ、お弁当屋さんを作ればいいんだ! 能天気な転生令嬢が、自分の騎士とお弁当屋さんを立ち上げて幸せになるまでの話です。

転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます

山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった 「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」 そう思った時すべてを思い出した。 ここは乙女ゲームの世界 そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ 私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない バットエンド処刑されて終わりなのだ こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…

悪役令嬢? いえ、私、先回り令嬢です!

水無月あん
恋愛
お父様の再婚相手が連れてきた美少女を見たとたん、頭の中に鐘がなって前世を思いだした。ここは親友がかいたマンガの中で、私もそのストーリーづくりにおおいにかかわっていたことを。家族になった美少女が悪役令嬢に成長し、私も巻き添えになって断罪されることまでも。そんな悲惨な未来を回避するべく、美少女がいい子に成長するよう前世の記憶をもとに先回りします! 鐘がなったら、先回り! いつもながらゆるいお話ですが、気楽に読んでくださったら幸いです。よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲームのヒロインに転生したけどゲームが始まらないんですけど

七地潮
恋愛
薄ら思い出したのだけど、どうやら乙女ゲームのヒロインに転生した様だ。 あるあるなピンクの髪、男爵家の庶子、光魔法に目覚めて、学園生活へ。 そこで出会う攻略対象にチヤホヤされたい!と思うのに、ゲームが始まってくれないんですけど? 毎回視点が変わります。 一話の長さもそれぞれです。 なろうにも掲載していて、最終話だけ別バージョンとなります。 最終話以外は全く同じ話です。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

処理中です...