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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや
*騒つく気持ち(side.マヒロ)
しおりを挟む神殿に招致を受け、カイザーと共に来た。
正直、気が重い。本音を言えば行きたくない。
「なんで俺が……あのクソ皇子!面倒くさい事やりやがって!」
「マヒロ。気持ちは分かるが、不敬だ。あと、神殿では言動に注意しろ」
窘められるが、どうしてもささくれ立つ気持ちは抑えられない。
「シュライン」
カイザーが呼ぶ。身の内から抜け出たシュラインが現れた。
「ここから先、近衛騎士の俺は行かれない。シュラインを連れて行け」
「え⁉︎だって、シュラインはカイザーの聖獣だろ?」
「殿下より護る事を命ぜられながら叶わない。だから、俺の代わりにマヒロを護らせる」
カイザーの意を汲んだかのように、シュラインが静かに俺に擦り寄る。
カイザーが居てくれないのは不安だった。だから、代わりとは言え、カイザーの聖獣が傍に居てくれるのは心強い。
「カイザーは……シュライン居なくて支障ないのか?」
「問題ない。イライザーが居る。シュラインとイライザーは繋がっているから、どちらかに何事かあれば分かるようになっている。マヒロをしっかり護れ。いいな?」
カイザーの念押しに、シュラインがグルルと鳴いて応える。
スッと跪き、カイザーが騎士の礼をとる。
「明日の夕刻には迎えに参ります。ご自重下さい」
「カイ………」
「貴人様!!」
呼びかけた俺の言葉が、後ろからの声に遮られた。嫌々振り返る俺の目に、神殿の者らしき、ローブ姿の神官が映る。
カイザーが急に儀礼的な態度をとったのは、こいつらの姿が目に映ったかららしい。
真ん中にいる、他より幾分か刺繍の豪華なローブの神官が進み出た。
でっぷり太った体。ニッコリ人当たりよさそうと言えば聞こえのいい、ハッキリ言えば抜け目のなさそうな笑みを貼りつかせ、今にも揉み手をしそうな感じで進み寄ってきた。
「お迎えにあがりました。麗しき高潔なる御君」
「……………………」
この世界の奴らは頭、大丈夫なんだろうか?
黒髪黒目というだけで、疑いもせず、盲目的にありがたがり……不信の目を向けられるよりはマシだが、あまりに崇め崇拝されると、逆に恐怖しか感じない。
胡乱な目を向ける俺には一切気付かず、太ったおっさんが礼をとり、周りの神官もそれに倣う。
「貴人は、皇太子殿下の命かかりし御方。くれぐれも粗相なきよう」
「………分かっておりますよ?近衛騎士隊長様」
カイザーの投げかけに、おっさんが笑みを貼りつかせたまま応えた。
一瞬、間があったのと、額に青スジが浮かんだのを見た。カイザーに様をつけたのを見たところ、おっさんの方が地位は低いらしい。神殿と騎士は反目していると言っていたし、が、上には礼を取らねばならず、不本意といったところらしかった。
「貴人様、参りましょうか?」
手を差し出された。
これは……あれか?
女性を男性がエスコートするとかなんとかの…
思いっきり顔を顰め、不機嫌を隠さずそっぽを向いた。
「いらない!俺、女じゃないから」
「失礼致しました……」
おっさんの口端がヒクつく。
他の神官に加え、仲が悪い近衛騎士のカイザーまでいる中、思いっきり拒絶した形になる。地位は知らないけど、それなりな者であろうに恥をかかされ、が、俺が貴人であるが故、怒るに怒れず必死に取り繕っているのが丸分かりだ。
言われたそばから、やってしまった。
短慮だと呆れられるか怒っているかも……
そっと伺うと、カイザーがクスッと小さく笑う。笑みを見たのは初めてだ。ドキッとした自分の反応に戸惑う。
狼狽える俺に、カイザーが柔らかい笑みを浮かべて小さく頷く。
おっさんへの態度は咎められず、ホッとすると同時に、カイザーから向けられた笑みで動悸が激しくなってきた。
「中ッッ!!」
「は、へ?き、貴人様?」
バクバクする心臓を誤魔化すよう、急に声を張り上げた俺に、おっさんがぽけっとマヌケな反応を返した。
「中、早く、行く!!案内ッッ!!」
動揺が激しく、自分でもどこの外国人だとツッコミたくなる片言な言葉が飛び出した。
突然の俺の態度に、ウロウロおろおろしだすおっさんと神官たち。
これ以上、意味の分からない気持ちを鎮める為、この場をさっさと逃げようと、役に立たない神官どもを置いたまま一人で、ザカザカ神殿に入って行く。
途中、どうしても気になりちらっと見る。しばらく、佇んでいたカイザーが静かに踵を返す。
後ろ姿を見る俺の心臓はまだ騒ついたままだった。
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