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第1章 黒の双極 傾く運命は何処なりや

*惹かれる気持ち(side.カイザー)

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腹立たしい。

城からも、城から帰ってからも、俺の苛立ちは治らなかった。
俺を苛立たせるもの。
マヒロによこしまな思惑を持って近付いた貴族もそうだが、それより我慢ならなかったのは、あの男。
大神官長、レーヴェ。
あの男の手がマヒロに触れ、指先に口付けようとしていたのを見た瞬間、目の前が真っ赤に染まった。
剣を抜かなかった、聖獣を出さなかったのは奇跡だと思うくらいに、身体中、怒りに包まれた。
ミリと音がし、握り締めたカップが軋んでいた事にハッとなり、慌てて手を離す。
城から戻る道中も、戻ってからも、マヒロが始終俺を気にしていたのは分かっている。
自分でも分かるくらい、ムッスリ不機嫌を隠そうともせず、無言のまま……
負けん気の強いマヒロが、俺の様子に明らか戸惑い、不安に揺れてか、チラチラ視線を寄越してきていたが、ささくれ立つ気を沈めるのに手一杯で、気遣う事もできず……

「何をやっている?カイザー=ユグドラジェル…自分の事しか考えられんとは情けない!!」

ギリリと唇を噛み締め、カップの中身を煽る。
気を鎮めようと選んだ強い酒が、カッと一瞬で喉を焼く。
怒りと苛立ちは残りながらも治りつつあり、代わりに困惑が強くなっていた。
マヒロに近付き、触れる者を見ると、どうしようもなく腹が立ってしようがない。
騎兵舎では言わなかったが、ジディにすらモヤモヤしたものを感じた。

「馬鹿な!惹かれて………いる?」

言葉にして愕然とし、口元を手で覆う。

会って間もない、自分より随分下の……よりによって、青年に?

これまで、誰とも付き合ってこなかったわけではなく、それなりに経験はこなしている。
が、全て女性で。同性の、しかも少年といってもいいくらいの者に惹かれるなど初めてだ。
自覚は恐慌に陥る。
マヒロは貴人。よりによって、護衛を務める自分が……

「あり得ない!!駄目だ!!」

思わず叫び、ガタンと、座っていた椅子から立ち上がる。
まるで自分を戒め、言い聞かせるかのような言葉だ。

「マヒロは……血脈。王家の庇護者。アウランゼの力となりし者……俺は近衛騎士隊長。命がかかりし、稀有なる存在を護る事が務め。邪念を抱くなど、以ての外だ!!」

言い切り唇を噛み締め、机に手をついたまま俯く。
強く噛み締めた唇が、ガリと歯で噛み切られ血が流れた。

「しっかりしろ!……マヒロが同じとは限らん」

前にそんなような事を言った時、マヒロは明らかに狼狽え、戸惑っていた。嫌悪ではなかったが、そういうつもりも自覚もないといったていだった。

マヒロは違う。

この気持ちは、、、

「表に、、出してはならない……」







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