聖獣騎士隊長様からの溺愛〜異世界転移記〜

白黒ニャン子(旧:白黒ニャンコ)

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第2章 聖獣妃

6.馬鹿に下された鉄槌(てっつい)

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声を殺して泣く体を抱き竦めてあやす。
第一皇子からどう言われたのかは分からない。が、マヒロがここまで打ちひしがれるくらいだ。

「ふ、ん……俺を、こんな目…あわせ………貴様、が、皇族……がい、結ばれ、ことはな、い」

気を失ったかに思われた第一皇子が、ブツブツと、それでも尚、言葉の毒を吐く。
ビクと震える体に、思わず舌打ちしそうになる。勿論、マヒロにではなく、目の前のどうしようもない馬鹿皇子に対してだ。
マヒロを腕に抱いているのでなければ、今すぐ殴り飛ばして気絶させ口を閉じさせてやりたいくらいだ。
不意に気配を感じ、ゆっくりと笑みを浮かべた。
マヒロの両耳を手で塞ぐ。

「カイ……?」

涙に濡れて潤む目が見上げてきた。それに小さく頷き、肩越しに振り返る。

「遅いぞ!」
「勝手なこと言うなよ?聖獣妃の支配下から抜けたって、間近に影響を受けたせいで、ルーウェンが怯えて中々思うように動けなかったんだからさ!」

空間転送で現れたジオフェスが、俺の言葉に顔を顰める。
それに続いて、キリアンとジディも降り立った。
連れてきたのが、腹心中の腹心である二人。選択としては上々だ。

「う、わぁ~、、部屋、グッチャングチャンじゃないっすかぁ。どうすんです、これ?一応、皇子殿下の持ち物っしょ?」
「どうでもいいんじゃない?マヒロに危害加えた、そこの馬鹿皇子サマの持ち物だろ?むしろ、この際派手にぶっ壊してやれば?」
「個人的な意見では賛成ですわね。でも、近衛騎士の立場から言えば、あとの言い訳が面倒くさいからイヤですわ」

キリアンの言葉に、ジオフェスとジディが思い思いにモノを言う。

「キリアン、ジディ」

俺の呼びかけに、二人が佇まいを直して歩み寄る。

「キリアンはとりあえず、第一皇子を城へ連行しろ」
「了~解です!」
「ジディ。修整魔導が使える者を洗い出して連れて来い。罪人とはいえ、皇子殿下だ。皇族の物をズタボロのままにはできん」
「かしこまりました」

そう応えて、ジディが心配そうに、俺の腕の中に隠れたままのマヒロを見やる。
反対からはキリアンが体を乗り出した。

「マヒロちゃん、大丈夫?痛い事されなかった?大丈夫だって!マヒロちゃんが不本意に、下衆げす皇子にエロい事されたとしても、、、、げふっ!!」
「お黙りなさいッッ!!」

エロい事、の辺りで、キリアンの横っ腹に、ジディの肘鉄が炸裂した。

「いってぇぇなッッ!!何、すんだよ⁉︎この馬鹿女!」
「うるさいですわ!馬鹿はあなたです!!思慮しりょに欠けますわ!なんて事を言いますの⁈マヒロ様が、そんな、悪の皇子に無理矢理手籠てごめ……」

ジディ……なんで顔を逸らす?頬が赤いのは何故だ?
胡乱な目を向ける俺に、ジディがコホンと取り繕って咳払い。

「え、、っと…とにかく!とにかくですわ!隊長は、マヒロ様を連れてお帰り下さいませ。事後は、私たちで処理いたします。報告、諸々、後ほどさせていただきますのでまたお戻り頂けますと助かりますわ」
差配さはいしなくて大丈夫か?」
「この場を収めてくださっていますし、あとは事後処理だけ。なれば、隊長のお手をこれ以上煩わす必要もないかと…」
「ジディの言う通りっすよ!それに、マヒロちゃんが限界っぽいっすよ?」

キリアンに言われ、慌てて腕の中に目をやる。心身共に疲れたらしく、マヒロがぐったりと俺に凭れかかり目を閉じている。
歩くのは無理そうで、横抱きに抱きかかえた。泣き跡の顔を見られるのはさすがに嫌だろうと、顔を胸元に傾けて隠してやった。

「任せるぞ?」
「了解で~す!!」
「ご安心ください!!」

一方は軽く、一方は意気込み満々に、腹心二人の実力を知っているので不安はない。

「ま、て!待たぬ、かっ、カイザー、、ユグドラジェ、ル!」

ジオフェスに転送させようと、きびすを返した俺に、第一皇子が切れ切れに叫ぶ。
マヒロ聖獣妃に封架印と魔導を強制断絶させられ、かろうじて繋がってはいるがボロボロになっている。これだけされても、まだ懲りないらしい。

「聖獣、妃は……貴様、では守、れん!聖獣、、、は、皇族、の………お、俺、で、、なく、も、リ……リステアに、け……んげん、ある!ざ、残念、、だな……所詮、貴様………には」

勝ち誇ったように、息も絶え絶えのまま笑うその声に、もはや苛立ちは頂点だ。
フッと、小さく胸元に感じた吐息に、視線を落とす。泣き濡れた頬がまだ幼いマヒロを認め、そんな場合じゃないのを思い出す。
目の前の馬鹿第一皇子はもはやどうでもいい。そんな事より、今はマヒロを休ませるのが先決だ。
第一皇子を冷たく一瞥いちべつし、今度こそ完全に背を向けた。

「丁重に扱い、お連れしろ…、な」

二人の腹心に言い含める言葉を残しながら……ーーー








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