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序章 始まりの刻
2.並行時空⑥
しおりを挟む『うるッッッせぇーーーーーーーーーー!!!!!』
自分でもどこからと思うくらいの声だった。
と、言うか……
「声、変……あれ?戻った??」
声が戻っている。
訝り首を捻る俺に、たじろいでいた邪餓鬼が我に返ったように咆哮を挙げ腕を振り下ろす。
「ぼさっとするなッ!!」
「ッッッ⁉︎」
鋭い声音で叱咤した騰蛇の片腕に庇われた。土煙と轟音立てて地面が砕ける。
庇われたのは助かったが、さっきから逃げてばっかりだ。目の前の邪餓鬼をどうにか(できるのかは、今のところ不明…)しない事には、体力的にジリ貧になる。
「あれ、どうすんだ?」
「……………………」
無視かーーーーーーーーーーーーーーーいッッッ!!
口、開きゃこっちを否定する事ばっか言って、こっちの言葉にはほぼ無視ときた。
冷たくて怖くて、性格悪ッ!言葉一つ追加だ。
「逃げてばっかじゃ、いずれ追い詰められんじゃね?」
答えはないのを承知で話すのを続ける。
どうせ、無視だ。構うかと開き直った。
「朱雀たちが来るのを待つのか?俺、悪いけどこんな訳分かんないとこで死にたくないんだけど?タチの悪い夢かと思いきや現実って、ちょっとあんまりだよなぁ……確かに、これからの事考えて、少し憂鬱になってたのは認める。だけど、だからって、こんなとんでも設定望んでないし!夢なら、早く醒めて……」
「少し、黙れ………こんな時に、よく喋る奴だ」
呆れたような冷めた目で、騰蛇が俺を見遣る。
ぎゃあぁぁおぉあぁーーーーーーーーーーッんッッッ!!
邪餓鬼が吠え、地団駄踏んでこちらを威嚇してきた。
相変わらずの大音量で耳が痛いが、気のせいか、手で押さえなくても耐えられるようになったような……?
それにしても、邪餓鬼は仕草がまるで、癇癪起こす子どもだな。
「想定外だな……中級ならまだしも、上級では神力を使わざるを得ない…枯渇起こして欠乏すれば、こいつを庇護する為、俺の方へ寄越した意味がなくなる。少しは身を守る術でも持っていれば、多少、やり方があるというのに……」
何やらぶつくさ言いながら、騰蛇が深く溜め息をつく。
「俺が居るから悪いみたいな言い方すんな!そもそも、身を守るって、身を守んなきゃならないような生活してきてねんだから、しょうがないだろ!平和万歳だってぇの!ここではこんなのが常識なのか⁈悪いけどついていけないっ!」
聞こえないように言うならまだ良かったが、残念ながらお互い距離が近いから筒抜けで、騰蛇の独り言に負けじと返す。
苦虫を噛み潰したよう渋面で、騰蛇がこちらを睨めるが、そもそも俺が起こした事ではないし知った事ではない。
大体、事態がいまだに理解できず困惑してるのはこっちだ。
いきなり知らん場所には居るは、いきなり攻撃されるは、いきなり襲われるは……落ち着いて話もできやしない。
ぎぃやぁあぁぁぁーーーーーーーーーーんッッッ!!!
俺と同じように、俺たちに無視された邪餓鬼が唸り、腕を振り下ろしてきた。
怒りで我を忘れているのか、目測を誤りかなり外れた場所に振り下ろされた腕に、地面が砕けて巻き起こった衝撃に、砂礫が舞い上がる。
騰蛇の腕に覆われ庇われるが、防ぎ切れなかった石礫が当たったか、頬に痛みが走った。
「いっ、、痛っ……!!」
傷ができたのか、それを騰蛇の指で擦られ更に痛みが走った。
「何ッ⁈痛いって!!嫌がらせかよ⁈」
騰蛇の指先が赤い。
俺の血が付いた指先を見つめ、騰蛇が軽く目を瞠る。
痛いのはこっちだし、何を驚いているのか、全く理解不能だ。思い切り?顔の俺に構わず、騰蛇にガッと肩を掴まれた。
「な、な、何、だょ?」
勢いに負け、何となくたじろぐ俺に、騰蛇が真剣な顔をし、口を開きかけるが、空を切る音と、横薙ぎに迫る邪餓鬼の腕に阻まれた。
俺を片腕に抱いたまま、騰蛇がその場を逃れる。
「お前は……」
「は?何??」
尚も邪餓鬼が狂ったように攻撃してきて、ゆっくり話をする間もないのに、ここにきて騰蛇の様子がおかしい。
一際、大きな咆哮を挙げ、邪餓鬼が腕を振り上げると同時に、騰蛇の紫色の瞳が、一瞬で真紅に変わった。
「”黑焔”」
真紅の瞳に見据えられ金縛りのように体が動かせない俺の横目に、邪餓鬼があっという間に、真っ黒な炎に包まれるのが映る。
叫び声すら挙げられず、それこそ、一瞬で消炭に変わった邪餓鬼に、言葉も出ない。
今のは一体……?
どうして急にだとか、何が何やらとパニくる俺に追い打ちをかけるかのように、騰蛇との距離が近付く。
と、いうか、唇を塞がれてなくなった。
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