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序章 始まりの刻
2.並行時空⑫
しおりを挟む部屋の扉が開き、飛び出したはいいが、ここがどこでどこがどう行ったものか分からない。
走りながら周りを見渡すが、同じような床に壁、柱とが続き、方向感覚が早くも狂いそうだ。無闇に逃げるのは危険な気もしないでもないが、とりあえず捕まらない事が第一条件。
どうするかは逃げた後、考える事にする。
それにしても………
「なんって、走りにくい服なんだ!」
身につけた服は丈が長くふくらはぎの辺りまであり、下に割とぴっちり目な足首位までの長さのパンツ(スキニージーンズっぽい形だ)を履いてはいるが、素材がピラピラ柔らかく、とにかく足に纏わりついて動きにくい事この上ない。
女官さんたちに迫られ着替えたが失敗だ。
それによくよく考えたら、制服を着替える必要はどこにもないわけで、と、いうか……………
「やっべ!制服、部屋そのまんまじゃん!」
勢いままに飛び出した為、制服にまで頭が回らなかった。
今の俺の唯一の持ち物だ。卒業式は終えているし、なくて特に困る物ではないが、それでも、この妙な状況において、俺を証明できる物。思い出だって詰まってる。
「かと言って、戻るわけにもいかねぇし…くっそ!マジ、恨むぞ、あの野郎ッ!!」
走りながら悪態つくが、今現在進行形ではどうすることもできない。
ここからどうにか逃げた後、何とか取り戻すか…或いは、、
「最悪、諦める……」
考えたら気分が暗くなってしまった。
「逃げるんをまず、諦めたら?」
「ッッッ⁉︎」
不意に聞こえた声にギョッとなり、振り返った。
いつの間にか、走る俺の真後ろに天后がいる。
「なっ⁉︎」
「意外と足早いんやな。いやぁ、油断したわ~」
のほほんと笑いかけられるが、俺は笑うどころじゃない。手を伸ばされ、危うく捕まりかけて慌てて避ける。
走る足が止まり、肩で息をする俺とは打って変わり、天后はまったく言葉さえ乱れていない。
「一応、あんたはまだ協議中の身や。こんなんバレたら、俺が怒られる。戻ってや?」
「そ、んなの、知るかッ!」
「そんなん言わんと、な?」
再度、懲りずに伸ばされた手を叩き落とし睨むが、一向に堪えた様子もない。
ピラピラと叩かれた手を振って苦笑を浮かべる。
「叶んなぁ。気ぃ、強いんのは好みやけど、今はそんな話してる場合と違うし、とりあえず、こんな所居ってもやし、一旦、戻ろ?な?何もせぇへんから」
ヘラヘラ笑われて言われては、まったく、説得力がない。
周りをチラ見し、柱と柱が拓けた、どこかへ繋がってそうな場所を認め、隙を突いて走り出す。
「わッ!そっち、あかんって!!」
今までと違い、少しばかり焦った声音。
必死に走り、柱と柱の間を抜け……ようとした俺の体が、勢いよく何かにぶつかった。
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