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第1章 似て非なるは表裏一体
1.最凶の武神①
しおりを挟む痛い。
とにかく、ぶつかった顔が痛い。
「い、痛っ………」
勢いよくぶつかった事もあり、一瞬、くらりと目の前が回る。
体がふらつき、足が踏ん張れない。
倒れかけ、慌ててたたら踏んだ体が、手首を掴まれる事で支えられた。
瞬く目を凝らし、視界に映ったそれに思わずギョッとなった。
黒髪。
一房だけ藤の花のような紫の髪。
全身黒づくめの装い。
冴え冴えとした硬質な美貌には、感情という名の熱が伺えない。
その一種無機質とも取れる美貌の中に、淡く赤を纏った紫の双眸に見つめられ動けなくなる。
無意識に息を呑み、意図せず固まる体。
口の中がカラカラに干上がっていく。
震える唇が戦慄き…………………………
「あっちゃ~!あかんわぁ。見つかってもた」
「ッッッ!!」
真後ろから妙に間延びした緊張感のない声が聞こえて、体の緊張が解けた。
「天后……何故、ここに居る?」
「う~ん、と?何でやろな?」
誤魔化すように、へらっと軽薄な笑みを浮かべる天后に、黒髪の男、騰蛇が僅かに眉を顰めた。
それだけで、無機質な容貌に血が通ったように感じられる。
詰めていた息を吐く俺に、ツと寄越された騰蛇の視線が合わさり狼狽えてしまう。
悪いことはしてない。むしろ、何の説明もなく、ほぼ監禁のような扱いを受けた俺の方が被害者だ。
騰蛇に見られたからと言って、別段、狼狽える必要は無いわけで……
疚しい事してるわけでもないのに、責められてる気分になる。
釈然としないものを感じて、憮然とした顔でむっつり黙り込む俺に、無言で見つめた後、特に何を言うでもなく、騰蛇が視線を逸らした。
「話をする為、殿下の元へ連れてくるようにとの命が下った。吉将の誰かが向かったと聞いたが、天后ではない筈だ」
「あらら。命が降りたん?そら、マズいなぁ。勝手に接触して、挙句、逃したなん知れたら、俺、大目玉やん。どないしよ?」
淡々と話をする騰蛇に、天后が困ったなぁと頬をポリポリ掻くが、言葉ほど顔は全く困ってない。
「問われたところで、俺に答えられるものはない」
「えぇ~?冷たいなぁ~、助けてくれてもええやん。な?2人で接触した事にせぇへん?」
「断わる!自分でなんとかしろ」
「そない言わんと、な?2人しかおれへんから、話合わせたら分からへんよ」
へらへらと話を続けるが、天后………
俺を完全に無視してないか?
話が見えないから、会話に割っては行けない。
が、天后がどうやらマズい事をしでかした事だけは分かる。
その、マズい事とはつまり、俺への無断接触&取り逃がし。
天后の口ぶりでは、今一、重大性が推し量れないが、少なくとも、お咎め無しとはいかない事には間違いない。
今なら、ここで大声出せば見つかる。せっかく逃げ出せたのに不意にするのは惜しいが、どの道、騰蛇に捕まってる以上、もう簡単には逃げられない。
なら………………………
「だ……………………ッッッ!!」
口を開こうとした瞬間、口が素早く手で塞がれた。
見開く俺の目が、視界一杯に、赤い煌めきを弾く紫の虹彩に包まれたーーーーーーーーーー
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