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第1章 似て非なるは表裏一体
1.最凶の武神②
しおりを挟む開こうとした口は、敢えなく騰蛇の手により塞がれた。
ひたと、無言の視線が至近距離で迫る。
ゾクッとした、悪寒とも恐怖とも違う妙な感覚を覚えて背筋が震える。
最初の時もそうだった。
騰蛇の、赤を潜ませた紫色の双眸に見つめられると……
ザワザワして落ち着かない、、、というか、
見つめ続けられる事に耐えられない。
ギュッと硬く目を閉じると、フッと溜め息のような小さな声を上げ、騰蛇の手と体が離れた。
「ぁ………………え?」
口を塞がれた時と同様、唐突に離れた体。
訳が分からず戸惑う俺に、しかし向けられる騰蛇の視線は冷静に尽きる。
正直言って、何と言ったらいいのか分からない。
言葉が出てこないのだ。
「何で離したん?というか、口塞いだん何でや?」
「……下手に騒がれたら俺まで巻き込まれる。だから、塞いだまで……他意はない」
天后のどこか探るような面白がるような問いかけに、騰蛇が淡々と応える。
「そうか?ま、俺はどうでもええよ。それより……」
「ッ………!」
ちらっと視線が寄越され、体が緊張に固まる。
動揺に紛れうっかり忘れかけてたけど、俺、逃げてる途中だった。
が、最早逃げるどころじゃない。
騰蛇と天后を振り切って逃げられる自信も保証もないし……
それに、、、
走っていて思ったが、やっぱりここ、かなり広い。
柱や廊下、壁、置いてある調度品や飾り、すべて似通ったような物ばかりで、すでに、自分がどこに居て、どこに向かえばいいのやらさっぱりだし、元いた部屋すらどこか分からない状態。
こうなると、情けないが目の前の2人に頼るしか無くなる。
「本末転倒もいいとこじゃん…!」
「うん?何??」
面白がるように天后に顔を覗き込まれ、慌てて顔を背けた。
「あらら?嫌われてもた。そない、警戒せんで?俺、何もしてへんやん」
「……………………」
はっきり言おう。
どの口が言ってやがるッ⁈
がっつりしっかり迫って来たのは何処のどいつだ⁉︎
じっとり睨むが、何処吹く風だ。
ここに来てから、会う奴会う奴、みんな、人の話を(聞いているようで)聞かない。
「天后様!」
バタバタと慌ただしい足音がして、兵士らしき数人が走ってきた。
先頭にいた兵士が拳を片手の平に当てて礼を取り頭を下げ、後ろの兵士も倣う。
「流人の捕縛ありがとう存じます!」
「ああ、ええよ。元はと言えば、俺が逃したんやし」
「は?」
「何でもあれへん。それより、太子殿下はんとこ連れてく命が出てんやろ?ちょうどええから、このまま連れてくわ」
「は、あ、、いや、しかし、、その、連れて行くのは吉将柱の方で……」
「俺も吉将や。問題ない問題ない」
「えええっ⁈」
兵士が慌てふためきワタワタしだした。
そりゃそうだ。
騰蛇も言っていたが、俺を連れてくる命が下りたが、頼まれたのは天后じゃないと言っていた。それに背いて、天后が俺を連れて行けば、俺を連れに向かった誰かは完全に肩透かしを喰らう事になる。兵士は逃げた俺を連れ戻し、その誰かに引き渡すつもりで来たんだ。叶わないとなれば、大いに困るだろう。
「来たのは誰?」
「青龍様です」
「あ~らら!う~、、ん、それはちっと厄介やんなぁ…ふむ?どないしよか……?」
困ったように苦笑いを浮かべるが、天后からは焦りは感じられない。
誰に言っているのか、問いかけるが誰も応えない。
俺は応える立場にないし、騰蛇は相変わらず無のままだ。
「ま!何とかなるやろ?じゃあ、行こか?」
意味深に騰蛇を見遣り、クスと小さく笑ってから、天后が俺へと手を伸ばしてきた。
息を呑み、思わず………ーーーーーーーーーーーー
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