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序章 始まりの刻
2.並行時空⑪
しおりを挟む咄嗟に言葉が出ない。
そもそも、何で俺がこんな態勢で、まるで尋問みたいな真似されなきゃならないんだ?
思いっきり目の前の男を睨みつけるが、余裕の笑みを浮かべるだけ。
「何かあるって何?俺には何もないって言ったのあんたじゃん」
「う~ん、、そうなんやけどな…まったく、何もないって言いきるには、俺ン中のが否定しよるん」
「中?」
「う~、、ん、まぁ、言うたら、勘、、みたいな?」
「……………………」
まっっったく!これっっっぽっちも!少っっっしも!
役に立たない勘だ。
こいつの意味不明の勘で、俺は迫られてたっつうのか?
ふざっけんな!冗談じゃない!
「悪いけど、俺は本当に一般人だから。高校卒業したばっかの18歳!一般男子!世話になってた園から出て、これから就職しようってしてるとこ!何かなんてあるわけないだろ⁈いい加減にしろ!何の説明もなく、訳分かんねぇ事ばっか言いやがって、俺にどうしろっつうんだよッ!!」
一気に捲し立てた。
途中から、猛烈な苛立ち怒りがこみ上げ、最後は殆ど怒鳴るよう。さすがに息が上がり、肩が上下する。
「あらら、黙って付いて来た聞いたから、えらいおっとなしい子ぉや思てたけど、猫ぉ被ってたん?どのみち、毛ぇ逆立て怒る子猫と一緒。可愛いらしい事には変われへんよ」
「こ、の……ッッ!!」
ヘラヘラしたまま言われ、カッとなる。
大人しくって、大人しくせざるを得なかっただけだ。
いきなり訳も分からず、知らない場所に来たかと思えば、次から次へと奇想天外な事ばかり起き、誰一人何も教えてくれず、かと言って、逃げ出すわけにもいかず……
逃げたところで宛てもなく……
顔に伸ばされる天后の手を叩き落とす。
「触んな!」
「何で?ええやん。あんた、肌すべっすべ。今まで肌の綺麗な女の子何遍も見てきたけど、その子ら皆んな霞むくらい、あんたが一等一番別嬪や。極上の絹織物触てるみたいや。もっと触りたい。できるんやったらーーーーー」
ずいっと、顔が寄せられる。
「閨でもっと深~く知り合いたい」
「ッッッ⁉︎」
耳に吹き込まれた言葉に、一瞬で硬直した。
閨って………寝室とかって意味だったか?
寝室で深く知り合いたいって……………………………
………………………………………………………………
…………………………………………無理ッッ!!!
「は、は、」
「うん?笑てるん?」
「ンなわけあるかっ!離せッッッ、変態ッッッ!!」
意味を理解した途端、赤くなるやら青くなるやらだ。
俺には、同じ男とそういういかがわしい関係になる趣味はない。だんっっじて、ない!!
「変態って、酷ない?男やったら普通やん。可愛い子ぉ、抱きたい言うん」
「俺も男だっつうの!抱くとか言うなッッッ!!」
「可愛い子ぉ抱いて、自分の下で、可愛いらしくいやらしく、喘がせて乱れさせて啼かせたい欲は…………」
「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーー!!聴覚の暴力!!!!!」
あけすけな物言いに、言葉を遮るように思わず悲鳴をあげてしまう。
もう、嫌だ!!なんなんだ⁈この顔だけが良い、残念イケメンは⁉︎
だ、駄目だ!こんな場所居たら……
「は、離せッ!!」
「わっ⁉︎ちょっ、暴れんといて?ケガさせたないん…」
手近にあった花瓶らしき物を必死に掴み振り回す。
慌てたように言うが、実際、少っしも慌てた様子のない天后に、益々焦りが募り思いっきり腕を振りかぶった。
「駄目だって。こんなん振り回したら怪我すんよ?ええ子やから、な?離そ」
取り上げられそうになった花瓶を、腕を避けて遠ざけた瞬間、壁にぶつかり、けたたましい音を立てて割れ飛び散った。
「何事ですか⁉︎」
音を聞きつけ扉が開き、兵らしき顔が見えた瞬間、脇目も振らず、横をすり抜けるように部屋を飛び出していた。
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