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第1章 似て非なるは表裏一体
1.最凶の武神④
しおりを挟む物凄い美人。
一言で言うならそれだ。
そうとしか言えない人が目の前に居た。
尻にかかるくらい長い紅茶色の髪を背中で結び、ゆったりとした煌びやかだが派手ではない優美な服を身に付けている。
柔和な笑みを湛えてこちらを見る容貌は、決して女性的ではないが、それでも美麗としか言い尽くせない。
先に会った騰蛇達も整った容姿だが、それより群を抜いており、あまりの次元の違いにドギマギしてしまう。
「こちら側の対応に、随分戸惑わせてしまい申し訳ない」
「え、っと……べ、つに、それは」
フワリと、少し困ったように微笑みながら話しかけられる。
確かに、突然知らない場所に来たと思ったら、訳のわからない状況に巻き込まれて、挙げ句の果てにどこかの部屋へほぼ軟禁みたいな扱いを受けた。あまりといえばあまりな対応だが、それでも、乱暴されたり怪我を負わされたわけではない。
「しかし、怖い思いをさせたのでは?」
「はぁ………まぁ」
連れられた部屋には、美形さんの他に、騰蛇と天后、朱雀と匂陣といった見知った顔に、見慣れない者まで数人居り、ちらっと視線をやると、俺の目と匂陣の視線がぶつかる。苦虫を噛み潰したような渋面で匂陣が顔を顰め、仏頂面でフイと顔を背けた。
そういえば出会い頭、いきなり攻撃を仕掛けてこられた。
確かに怖い思いはしている。
それを知っているのかどうか、美形さんが匂陣をちらっと見てから苦笑する。
「強い場の揺れと波動を感じてね。私が調べに向かわせたのだが、どうも、それを排除しろと捉えてしまったらしい。こちらの不手際だ。申し訳ない」
「それは、もう、いいです」
終わったことだ。
それに、攻撃はされたが、その後、朱雀に庇われ事無きを得ている。
変な化け物に襲われたが一応、守ってももらえた。
まぁ、かなりショッキングな出来事はあったし、意味不明に男から迫られたりもしたが、それはこの際なかった事にして置いておこう。
ここへ連れられてから騰蛇はこちらを見ない。朱雀は嬉しそうにひらひらと手を振ってくるし、天后は意味深な笑みを浮かべている。
正直反応に困るのでそちらを見ないようにするので精一杯だ。
「さて。呼びたてた話をしよう。まずは、名乗らせて頂くよ。私はこの羅譲國の太子、朱恢という。名を教えてもらっても良いだろうか?」
「あ……え、と、み……じゃなくて、ひなた、、です」
問いかけられ、フルネームで応えかけ、慌てて名前のみで言い直した。
苗字ごと名乗り、朱雀が困惑してたのを思い出したからだ。おそらく、苗字の概念がないか、または名乗り方が違うかのどちらかだろう。
「ひなた…聞きなれない名だ」
朱雀もそう言っていた。
服や外見は中華っぽい。アジア圏なのかと思ったが、そもそも羅譲國なんぞ聞いたこともない。
字は分からないが、言葉は不思議と通じている。
意味が分からない。
「あの……聞きたいんだけど」
「何かな?」
「ぁ……」
「お待ち下さい、太子殿下」
柔らかな問いかけに口を開きかけた俺の言葉が遮られた。視線をやると、力強く、それでいて冷たさを感じる鋭い眼差しがこちらを睨んでいた。
青銀色の髪に、湖面を固めたような冴えたコバルトブルーの瞳に射抜かれ、体が我知らずと緊張に固まった。
言葉を発せず息を呑む俺の耳に、苦笑交じりの声が届く。
「無闇に闘気を発するな。ーーーーーーーー青龍」
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