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第1章 似て非なるは表裏一体
1.最凶の武神⑧
しおりを挟む数時間ぶりの飯は美味かった。食べ慣れない味付けのものもあったが、概ね口に合ったのはありがたい。食べ物が口に合わないとそれだけで、ここに居るのが辛くなりそうだったから、ひとまず一安心だ。
再度差し出されたお茶を飲み、ふと一息ついた。
「お口に合いましたか?」
「あ、、うん!美味しかった………です」
そこまで応えかけて、直前を思い出した俺の顔が一気に茹だる。
腹で返事とかマジで恥ずい。緊張感なさすぎて恥ずかしいやら、情けないやらだ。
目の前の少年(阿秀だったか?)は気にもせず、テキパキと給仕をしてくれたのが、せめてもの救いだ。
顔を上げられず、やや伏し目がちにしたところに声がかかる。
「落ち着かれましたところで、説明の続きに参りますがよろしゅうございますか?」
「え、、と、よろしく、お願いします」
「それでは、改めまして。こちらの国は羅譲國と申します。国帝、羅檎國上汪がお治めになる國です」
羅譲國に羅……なんとやらはやはり聞いた事がない。
最初に感じたように、中華っぽくはあるがまるきりそれというわけでもなく、言うなれば、アジア圏の色々な物を取り入れたがしっくりくる。
「あ~、、、と…阿秀さん?羅譲國は、それ自体が国なのか?それとも、更にもっと大きな国の中にある国とか?」
「私の事は阿秀とお呼び捨て下さい。羅譲國はそれ自体が国です。羅譲國を始めとした、更にいくつかの国が隣り合っており、それぞれが独自しております」
ここ以外にも国がある。とりあえず、今はここ以外に行くつもりもないし、それどころじゃないのでひとまず置いとく。
「あ、そ。じゃさ、十二天将ってのは?」
「十二天将とは我が国において、絶大なる力を持つ将の事です。名前の通り、十二人居ります。ただ………」
「ただ?」
「現在は十一人しか居りません」
微かに顔を曇らせ、阿秀が果物皿から取り上げた葡萄を俺の目の前に置く。
「十一人……」
「十二天将筆頭にして、十二天将を統べし者、貴人様は永きに渡り失われたままです。今は、貴人様の次に位が上の青龍様が十二天将を率いておいでになります」
青龍。連れてかれた広間で会った、あのちょっと気難しそうな男の事だ。
胡散臭い物を見るかのように、厳しい目を向けられたのは記憶にも新しい。
確かに今の状況において、俺は異分子だ。そういう目を向けられるのも無理からぬとは思う。が、だからと言って、気分が良いものでは決してない。
ムカムカするのと、釈然としないものを感じるが、なかば無理やり振り払い意識を阿秀に戻す。
「十二天将の事は、もういいや。一つ、聞きたいんだけど?」
「なんなりと」
「”日本””東京””中華””アジア圏”、聞き覚えは?」
「ニホ………⁇申し訳ありません。聞き取れないのですが、何かの”呪”ですか?」
「………ごめん。やっぱ、いい」
朱雀達にテレビやカメラが通じなかった時点でほぼ諦めてたが、これで決定的となる。
「完全に別世界に迷い込んだって事か…ラノベや漫画じゃあるまいし、勘弁しろって!」
「流人殿?」
「ごめん、ひなたでいいよ。流人殿って、なんか呼ばれ慣れてないし変な感じする」
「ですが……」
「頼むから。落ち着かないんだ」
「分かりました。ひなた殿」
ひとまず妙な呼ばれ方はしなくなったが、ここまででかなり頭の中がぐちゃぐちゃだ。
流人、羅譲國、十二天将……今の状況の説明はあっても、俺が本当に欲しい情報がない。
朱雀達が使ってたあの妙な力の事や、何回か出てきた呪とやらも気にはなるが、おそらく俺が欲しい情報とは無関係。
どっと一気に感じた疲れに、無意識に溜め息が出る。
「ご気分が優れませんか?」
「ぁぁ……、、、うん。ちょっと…」
「お一人にすることはできませんが、外の風を吸われますか?」
気遣うような阿秀の言葉に、コックリ頷き返した。
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