暗殺任務失敗したのが組織にバレて、処女なのにハニトラさせられることになりました。密かに思ってた先輩がHの指導役とか聞いてません!

甘酒ぬぬ

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第1章 指導編 初日

1-7 嘘でも『俺の手で絶世の美女にしてやる!』くらい言ってくださいよ

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「わあっ、美味しそう! 携行食じゃない久しぶりのご飯!」

 湯気の立ちのぼる料理を目にし、リヤーナは思わず歓声を上げた。

 ダイニングテーブルにはパンとスープ、飲み物の他に、ローストポークやジャガイモのオムレツ、アスパラガスのクリーム煮込み、チーズとハムの盛り合わせ等々、到底二人では食べきれない量の品々が並ぶ。

「もっとまともな飯食えよ」

 配膳を終え、ダイニングテーブルをはさんで向かいの席に座ったフォウが怪訝そうに見てくる。

「だって料理できないですし」
「料理に限らず、やらなきゃ技術は習得できねえよ」
「そうですけど、料理って初期投資結構かかりません? 調理器具に食器、調味料とか揃えなきゃですし」
「まぁ、一度に揃えようと思うとある程度はかかるな」
「色々やらかしてるせいでお給料天引きされてて金欠で。任務の時に支給されたものの残りくらいしか食べるものなくて。携行食、結構保存がきくから良いんですけどね」

 リヤーナの口から自然とため息が漏れる。

 運良く生き残ってはいるが、暗殺やその他非合法な活動が自分に向いているとは思えなかった。かといって他に生きていくすべも知らない。それ以前に、一身上の都合で組織を抜けることをハサンが良しとしないだろうが。

「色々やらかすな。あと――いや、とりあえず冷めないうちに食え」

 フォウは手振りで促し、パンを手に取った。スライスしたライ麦パンにレバーペーストやクリームチーズ、薄切りにしたピクルスなどを見映え良くきっちりと載せていく。

(こんな風に先輩と一緒にご飯食べるのいつ振りだろ)

 リヤーナは記憶をたどりながら、湯気と甘酸っぱい香りの立つトマトベースのスープに手をつけた。
 ほどよく煮溶けた玉ねぎの甘みとスパイスの刺激とほろ苦さが後を引く。みっちりと詰まったソーセージや大きめに切ったじゃがいもなどが入っており、このスープだけでもかなり食べごたえがある。

「次からは腹が減ったら俺のとこに来い。一人分も二人分も、作る手間に変わりない」

 フォウはテーブル中央にあるローストポークを切りわけて皿に盛りつけ、リヤーナの方に押してよこした。

「ありがとうございます。なんだか組織に入りたての頃みたいですね」

 リヤーナはようやく「フォウと一緒に食卓を囲んだ記憶」に思い当たる。

 もう三年近く前のことだ。

 孤児院での「教育」はおおむね十五歳くらいまでで終わり、そこからは正式に組織の所属になる。「表向きの仕事」や住む所がなかなか見つからなかったリヤーナを見かねて、フォウが同居を申し出てくれた。男の一人暮らしよりも、「両親を亡くした兄妹が助け合って暮らしている」ほうが世間体と都合が良いらしかった。
 だが互いに長期任務が増えて家に戻ることが少なくなり、結局二年ほどで解消になった。

「顔も髪も目もなんにも似てないのに兄妹きょうだいだなんて、ちょっと無理がありましたかね」

 リヤーナは自分の髪を一房つまむ。

 フォウの髪は青みがかった黒で、瞳は華やかで温かみのある金茶色。
 リヤーナは亜麻色の髪にブルーグレイの瞳と、どちらもくすんだ色合いだ。

 顔立ちもまるで違う。フォウは彫りが深く全体的に鋭角的な印象なのに対し、リヤーナはパーツが丸っこく小作りで年齢よりも幼く見られることが多い。

「似てない兄妹なんて山ほどいるだろ。それに、よほどのことがない限り、他人の事情に首突っ込もうと
は思わないさ」

 フォウはグラスの中身を呷って飲み干し、ボトルからワインを注いだ。

 実際、フォウの言う通り近隣の人間から何か言われたことはなかった。せいぜい「若いのに偉いわね」「兄妹だけで大変ね」とかふんわりと気遣われたくらいだ。

(それにしても、先輩は毎食こんな食事なのかな。なんか高そうなお酒もあるし。さすが組織のエース。稼ぎが違う)

 リヤーナはローストポークを一口大に切り、口に運ぶ。しっとりと柔らかな肉質で、噛めば噛むほど肉の旨味があふれてくる。やや濃い味付けの香味野菜とハーブのソースが肉とよく合う。

「太れって言うから、手っ取り早く砂糖と油とかを延々飲まされるのかと思ってました」

 任務とはいえ太ることに抵抗はあるが、フォウの美味しい手料理で肥えるならそれはそれで良いかな、とリヤーナは肉を噛みしめる。

「お望みなら今からでもそっちに変更するぞ」

 フォウは意地悪く目を細め、ローストポークの載った皿の端をつかんだ。

「お望みじゃありません!」

 リヤーナは腕で覆うようにして料理を死守する。

「冗談に決まってるだろ。そんな無茶したら肌荒れるしメンタルもおかしくなる。今日は普通の飯だけど、明日からは貴族の食事マナーの習得も兼ねるんだからな」

 フォウはフォークとナイフを持って念押しした。
 マナー云々はさておき、もっと豪勢な料理が食べられる、という期待にリヤーナの頬が緩む。

「ひと月でお前を絶世の美女にする……のは難しいが、できるだけ近付ける努力はする」

 フォウは値踏みするようにリヤーナを見た。

「そこはどうせなら嘘でも『俺の手で絶世の美女にしてやる!』くらい言ってくださいよ」

 リヤーナはいじけた振りをしてライ麦パンにかじりつく。

「俺にとってリィはもう充分可愛いよ」

 フォウはテーブルに頬杖をつき、屈託のないくしゃっとした笑顔を見せた。
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