暗殺任務失敗したのが組織にバレて、処女なのにハニトラさせられることになりました。密かに思ってた先輩がHの指導役とか聞いてません!

甘酒ぬぬ

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第1章 指導編 初日

1-15 最高にだっせえわ、俺(フォウ視点)

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(最高にだっせえわ、俺)

 フォウは握った拳をがんがんと己の額に打ちつけた。

 着替えて出てきたリヤーナの姿を見た瞬間から完全に負けていた。それを無理矢理押し殺し、何度も引き伸ばした結果があのザマだ。自ら真綿で首を絞めたに等しい。童貞を捨てた時だってあんなに早くないしがっつきもしなかった。

(鍛えてるせいか? だてに腹筋割れてねぇな。締め付けがきついを通り越してえぐいんだよ。いや、反応といい中の具合といい全部めちゃくちゃ良かったけど)

 気を抜くとすぐに下世話なことがよぎってしまう。
 フォウは戒めのために、さらに強く拳を振り下ろした。

 リヤーナはフォウの腕にしがみつくようにして眠っている。達した後、疲れたのかそのまま意識を失ってしまった。

 慣れない格好に恥じらう姿も。快感に流されて戸惑う顔も。甘ったるく喘ぐ声も。こうして子供のように眠っている顔も、すべてが可愛らしく愛おしい。

 これが任務でなければどれだけ幸せだったことか。

(無理させたかな。……かな、じゃねえよ。させたわ絶対)

 なるべく痛みや恐怖心をいだかせないようにと時間をかけたが、結局はあだとなった。最後のほうは完全に色々と飛んでいた。

 もし万が一トラウマになっていたら、どうすればいいかわからない。感じてくれているように見えたが、女心はこの世で五指に入るほど複雑怪奇なものだ。「本当は嫌だった」とか言われたらショックのあまり身投げするかもしれない。

(中に出すつもりなんてなかったのにな。責任なら泣いて喜んで取るけどさ。任務の期間について聞かされてないんだよな。下手すりゃ腹上死した子爵の遺児って扱いになるのか? 最低なんだが)

 期間の他にも、今回の任務は意図的に秘匿ひとくされている部分が多かった。指導役でしかないフォウには伝える必要がないと判断されたのかもしれない。
 だが肝心のリヤーナにも伝えられていなそうなのが引っかかる。

(バクラム伯アスハン・ナディール、か。できる範囲で探りを入れてみるか)

 バクラム伯領は国の南西部に位置する、これといった特色のない土地だ。目立った特産もなければ戦術的要衝でもない。ただの地方の一地域。取り立ててどうこうする価値のない場所に思える。

 アスハン・ナディール自体も初めて聞く名前だった。国の有力者や要注意人物はだいたい頭に叩き込んでいる。
 排除ではなく、わざわざ篭絡する必要があるということは、利用価値のある人物なのだろう。

 それをリヤーナに担当させるというのも解せない話だ。組織の中でも末端の構成員であるリヤーナのことをハサンが把握していたのも気になる。

 確かにリヤーナは可愛いし目を引く。名前や外見について覚えていても不思議ではないのかもしれない――ってことはリィのこと狙ってんのかあの糸目白髪野郎。ただじゃすまさねえぞコラ。

 かっとフォウの頭に血がのぼる。リヤーナが関わるとすぐこれだ。敵愾心が爆走する。

(……これ以上情報なしに考えても堂々巡りするだけか)

 フォウは目蓋を伏せ、意図的に思考を切った。

(しかし、よりによってリィが好きなのがハサンあのクソ野郎とはな。やっぱ地位が大事なのか)

 戯れに「誘惑してみろ」とけしかけた時に、リヤーナが見せた笑顔がフォウの脳裏に浮かぶ。脳と網膜に焼き付けて毎日夢に出てくるようにしたいくらい可愛らしかった。
 同時に、好きな奴にはあんな風に笑いかけるのかと身悶えもした。

(殺るか、いっそ)

 物騒な考えがフォウの頭によぎる。
 それだけでなく、この瞬間まで「任務を放棄して二人で逃げると」いう選択が出てこなかったことに気が付いた。

(まぁ、確実に失敗するだろうしな)

 自分一人ならともかく、リヤーナを巻き込んで危険な賭けには出られない。逃げられるのなら、リヤーナが組織に入る前に逃がしている。

 フォウはささくれ立った心をなだめるために、リヤーナの髪をそっと撫でた。
 肩まである亜麻色の髪は少しくせっ毛で、毛先がくるっと内側に巻いている。リヤーナが話に集中できていない時など、指に巻き付けているのをよく見かけた。

(それにしても、あの台詞はヤバかったな)

 リヤーナの毛先を指ではさんで伸ばしながら、しみじみと思い返す。

『……続き、してください、先輩』

 しっかりとフォウの鼓膜と脳にこびりついている。いつでも完璧に脳内再生可能だ。

 欲を言えば「先輩」ではなく「フォウ」と呼んでもらいたかった。
 ねだる時の表情も良かった。恥じらいと欲が複雑に混じっていて最高にそそる。理性が打ち壊される音、というのを初めて聞いた。
 次は例の水晶パネルを使って記録しておくのも良いかもしれない。

 そんなことを考えていると、下腹に血が集まるのを感じた。

(ガキか俺は。馬鹿か。馬鹿だろほんと。目の前に本人がいるってのに)

 腰を引いてリヤーナから身体を離す。さっさとトイレで済ませたいところだが、あいにくとがっちり腕をつかまれてしまっている。

 いっそ指導というていで――そんなよこしまな考えが浮かび、フォウは自分の頬をつねった。
 いくらなんでもタガが外れすぎだ。そんなゲスな方法に一瞬でも思い至ってしまった己にドン引く。

(こんなアホほど悶々としてんのは、二人で暮らしてた時以来だな)

 二人で一緒に暮らしていたのはリヤーナが組織に入りたての頃の話だ。リヤーナとの記憶はいつでも鮮やかな状態で取り出すことができる。

 一定の訓練を終えるか、ある程度の年齢を迎えると、「表向き」の仕事が決まってから孤児院を出るのが通例だ。なんの手違いがあってか、リヤーナは仕事も住む所もなしに放り出されたらしかった。
 雨風に晒されたいたいけな犬猫を救うつもりで、フォウは深く考えずにリヤーナを家へと招き入れてしまった。

 端的に言って、あの数年間はとても楽しい地獄だった。

 リヤーナは「両親を亡くし、助け合って暮らす兄妹」という設定に忠実に接してくる。親密で無遠慮で無防備。
 任務を終えて心身ともにすり減った状態で家に帰り、「おかえりなさい」と迎えてくれたリヤーナに救われたことは一度や二度ではない。
 それ以上に、無能な働き者である下半身をへし折ってやりたくなったことは両手足でも足りなかった。抜こうにも煩悩の根源であるリヤーナが家にいる。

(ひと月後、俺は本当にリィを送り出せるのか……?)

 フォウは自分の髪を強く掻き上げた。ぶちぶちと髪が抜ける音がする。

 もしも自分の命ひとつでチャラにできるのなら、笑顔で喉にナイフを突き立ててやる。だが自分が死んだ後、どうなったか確認するすべはない。リヤーナが幸せになるところを見届けなければ死んでも死にきれない。

(なんか都合の良い方法でもないもんかな)

 フォウは腹の底からため息をつく。
 ふと、場違いに元気なものが目についた。
 フォウはもう一度ため息をつき、目蓋を伏せて明日の料理の仕込みに思いを馳せた。
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