暗殺任務失敗したのが組織にバレて、処女なのにハニトラさせられることになりました。密かに思ってた先輩がHの指導役とか聞いてません!

甘酒ぬぬ

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第2章 指導編 一週目

2-1 俺が術中にはまってどうすんだよ(フォウ視点)

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『フォウ君、おはよー! チュッ♡ ドキドキ♡指導が始まってから今日で一週間だネ? この前伝え忘れてたんだケド、指導の進捗状況について一週間ごとに、組織規定のフォーマットで報告書の提出オ・ネ・ガ・イ! あ、毎日送ってくれても全然良いヨ! ナンチャッテ! なおこの録音装置は自動的に消滅……しません! 各自治体の条例及び規則に則って処分してくだサイ。モウね、報告が待ち遠しすぎてソワソワしちゃうヨ~』

 居住まいを正して組織のボス・ハサンからの音声メッセージを聞いていたフォウは、深い後悔の念をもって録音装置に拳を振り下ろした。

 この録音装置も動画を再生できる水晶パネル同様、かつて大陸北部にあった魔術大国の術具を組織が独自に復元・汎用化したものだ。バックにどんなスポンサーがついているのか、組織は下手な国よりも技術力がある。

「……きっしょ」

 フォウはテーブルに両手をついてうな垂れた。疲労感が強く、しばらく頭を上げられそうにない。
 朝っぱらから予想外の方法でメンタルをがりがり削られるとは思っていなかった。

 よほどのことがない限り、ハサンから直接メッセージが届くことはない。フォウ自身、過去に一度だけメッセージを受けたことがあるが、もっと厳粛かつ端的な内容だった。

(何考えてんだあの野郎……!)

 フォウはぎりっと音がするほど奥歯を噛みしめ、ポケットから煙草を取り出す。指導が始まってからというもの著しく喫煙量が増えた。

(今の時点で充分きついってのに、性質の悪い嫌がらせしやがって)

 煙草になかなか火がつかない。
 フォウの眉間に皴が寄る。

「火、つけましょうか」

 背後から声をかけられ、フォウは必要以上に勢いよく振り返ってしまった。
 不思議そうに首をかしげるリヤーナと目が合う。

「もしかして、組織からよくない連絡でも来たんですか?」

 叩き壊された録音装置を見遣り、リヤーナは眉をくもらせた。

「いや、大丈夫だ」

 フォウは首を横に振る。
 要約すると「一週間ごとに報告書を上げろ」というだけだ。わざわざリヤーナに心配をかけるほどのことではない。

 リヤーナはわずかに唇を動かしたが、何か発することもなくすぐに引き結んだ。フォウの手から着火器を取り、手を添えて火を灯す。火が安定してから、フォウが咥えている煙草へと近付けた。

 教えたわけでもないのに、いつの間にかリヤーナは煙草の火のつけ方を覚えていた。
 誰か自分以外にも身近に煙草を吸う奴がいるのだろうか、とフォウは勘繰ってしまう。リヤーナがどこで誰と何をしていようと自由なのに、狭量な自分が嫌になる。

「ありがとう」

 リヤーナにかけないよう、フォウは背中を向けて煙を吐き出した。

 煙草の煙など百害あって一利なしだ。できるだけリヤーナには吸わせたくない。が、禁煙できるほど意志が強いわけでもなかった。
 意志の強い人間であったなら、リヤーナに近付く男を裏で消したりなどせず、真正面からリヤーナと向き合っていただろう。

「今日はどうするんですか」

 リヤーナはフォウに身体を寄せ、服の裾を軽く引っ張った。

 甘い花の香りがフォウの鼻先をかすめる。毎晩身体の手入れに使っているボディオイルの香りだ。
 危うく昨晩の「指導」を思い出しそうになり、フォウは急いで煙を吸い込んだ。

(くそっ、俺が術中にはまってどうすんだよ)

 痛みを覚えるくらい強く耳の後ろを掻きむしる。

 初日のような致命的なやらかしはもうしていないが、理性が飛ぶことはままあった。純然たる指導だと思って耐えてくれているリヤーナには本当に申し訳が立たない。

 任務が終わった後、すべてを白状し、リヤーナが許可してくれるなら一生をかけて償うつもりだ。許してもらえなかった場合は、甘んじてどんな罰でも受け入れる。

「やっぱり、よくない連絡だったんですか?」

 リヤーナが心配そうにフォウの顔を見上げた。
 無垢な上目遣いが可愛らしい。身長差のせいで、フォウと話す時は高確率でリヤーナは上目遣いになる。

「ただの報告の催促だ。リィが気にすることじゃない」

 名残惜しさを感じつつ、フォウは目蓋を伏せた。いつまでも目を合わせていると、指導を盾にロクでもないことをしかねない。

(今日はどうするか……)

 フォウは煙を細く吐き出し、ハサンから渡された手引書の内容を思い出す。

 一週間ごとに習得のノルマが決められており、今週は……はっきり言ってやらせたくない。他の男にしているところを想像すると血管がぶち切れそうになる。もっとも、手引書の中に書かれていることで、積極的にリヤーナにやらせたいことなどほとんどないが。

(ああでも強要されたりするかもしれないな。標的は猛者好きを豪語するくらいの変態野郎だもんなぁ。慣らしたほうがいい、のか? くっそ、ひと思いに殺りてえ)

 煙草を灰皿に押し付ける手に自然と力が入る。

「フォウ先輩」

 細い指が頬に触れたのがわかった。
 孤児院にいた時から、リヤーナはこうして躊躇も他意もなく「兄」に触れてくる。触れられるたびに「兄」がどう思っているかなど知りもしないで。

 目蓋を開くと、フォウの予想よりも近くにリヤーナの顔があった。

「なにか飲み物入れてきますね。リクエストありますか?」

 リヤーナは明るくにこっと笑う。

(……俺の指導なんかいらないだろ)

 誘惑でもなんでもない、ただの気遣いだということは充分承知している。それでも、フォウは心臓を握りしめられた気がした。
 視線が勝手にリヤーナの小さな唇へと落ちてしまう。口紅を塗っていないのに赤く蠱惑こわく的に見える。

(そんなに欲求不満だったか俺は?)

 己の不甲斐なさに、フォウは自分の頭をかち割りたくなった。発情期の犬だってこんなに行儀悪くない。

「――そうだ」

 リヤーナの唇に手を伸ばしかけたところで、フォウは不意にひらめいた。

「ソーダ? 炭酸ですか?」
「違う。風呂場に行くぞ」
「……え? ええっ!?」

 驚き硬直するリヤーナの腕を取り、引きずるようにして浴室へと向かった。
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