暗殺任務失敗したのが組織にバレて、処女なのにハニトラさせられることになりました。密かに思ってた先輩がHの指導役とか聞いてません!

甘酒ぬぬ

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第2章 指導編 一週目

2-4 私の気持ちを知ったら、任務をやめろって言ってくれますか? それとも、

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「いいか、この一番明るい色がハイライターで、こっちが陰影をつけるミディアムカラー。で、一番濃いやつが締め色で、基本的には目のキワに重ねるものだ。アイラインの代わりになったりもする。あとは、このキラキラしてんのがグリッターカラー。わかりやすく華やかになるが使い方を間違えると悪目立ちする。この粒子の細かさだと、どっちかっていうと自然光よりも室内照明向きかな」

 感傷に浸る間もなく、膨大な情報がリヤーナの耳に流し込まれた。
 あまりの情報量の多さに、リヤーナにはフォウの言っていることが三分の一も理解できない。
 とりあえず用途の違うものが四つあるのはわかった。

「それ全部つけるんですか? さっきも何か塗ってたし、目蓋重くなりません?」
「どんだけ厚塗りする気だよ。ちなみにさっきのは目蓋の色を整えてアイシャドウの発色を良くするベースな」

 呆れたように笑いながら、フォウは一番明るい色をブラシに取った。一度手の甲で余分な粉を落としてから、リヤーナの目蓋にブラシを滑らせる。

「先輩って凝り性ですよね。料理とかもこだわるじゃないですか」

 セーフハウスでの生活における食事は、すべてフォウが用意していた。フォウ曰く「栄養バランスを保ちつつ、もっちりと吸い付くような美肌と女性らしい曲線を作りあげる特別メニュー」、らしい。鍛錬の量を抑えていることもあり、早くもこの一週間でちょっと太った。

「のめり込むタイプなんだよ。いったんハマると他が見えなくなる」

 フォウは一瞬だけリヤーナから視線を逸らす。何かやましいことでもありそうな目の動きだった。

「他に何かハマっちゃってるものとかあるんですか」

 リヤーナは好奇心を出し過ぎないように尋ねる。

「おっ――」

 言いかけて、フォウははっと目を見開いた。

「おっ?」

 リヤーナは「お」で始まる単語を思い浮かべる。が、候補が多すぎて絞り込めない。

(お金、お肉、お菓子、お酒、お風呂――ってこれは全部接頭語か。んー、温泉、オムライス、女の子、男の子、おっぱい、お……)

 連想するものがあらぬ方向に逸れていく。

「……ロクでもないですね、先輩」

 リヤーナは鼻で笑い、さげすんだ目でフォウを見た。

「お前は何を想像してその結論に至ったんだ」

 フォウはこめかみと唇をぴくつかせる。

「大丈夫です先輩。私にとって先輩は何があっても先輩ですから」
「勝手に妄想で話進めてんなよ?」

 口元だけで笑い、フォウはリヤーナの額に人差し指をぐりぐりと押し付けた。

「うぅ暴力反対! そうやってすぐ力に訴えるのよくないと思います」
「……眉毛全部剃り落としてのっぺり顔にしてやろうかな」

 フォウは化粧道具入れへと視線を向ける。

「円滑なコミュニケーションを図るためのちょっとした軽口じゃないですか」

 ぼそっと不満を漏らすと、フォウは本格的に道具入れをあさり始めた。

「わ、待って先輩! 私が悪かったですもうしませんごめんなさい」

 リヤーナは顔の前で手を合わせ、片目をつむってお願いする。些細なことなら、フォウはたいていこれで許してくれた。

「まぁ眉なしの笑える顔になったら指導どころじゃないからな」

 もっともらしい理由をつけてフォウは矛を収める。

「リィはなんかないのか? 好きなものとか、ハマってるものとか」

 フォウは小さな平筆に「締め色」と言っていた濃いパウダーを取った。

「うーん、なんでしょうね」

(好きなものもハマってるものも先輩です、って言ったら驚くかなぁ)

 リヤーナは目蓋を閉じて悪戯を考える。
 筆の先がすっと線を引くように肌の上を走った。まつ毛にかすってちょっとくすぐったい。

(気付いて欲しいような欲しくないような。今の関係が壊れるくらいなら変わらないほうがいい。でも、このまま指導を続けていたら思いもしないタイミングで気持ちが伝わってしまいそうで、怖い)

 もうちょっとだけ閉じててくれ、と言い、フォウは目尻の線を書き足している。繊細な作業なのか、点を打つようにちょんちょんと筆先が触れた。

(私の気持ちを知ったら、フォウ先輩は任務をやめろって言ってくれますか? それとも、何も言わずに送り出しますか?)

 いつもの悪い癖が鎌首をもたげた。
 尋ねる勇気がないのに、問いかけを思い浮かべては独り悶々と思い悩む。

「バランス確認するから目を開けて」

 またフォウからの指示があった。
 開けたり閉じたり忙しいな、と思いながらリヤーナは目を開ける。化粧の仕方を教えてもらっても自分にはできそうもない。

「っ……ああ、良い。大丈夫だ」

 目が合った瞬間、フォウが何か言葉を飲み込んだようにリヤーナには見えた。

「言い淀まれると不安になるんですけど」

 リヤーナはわざと顔をしかめてみせる。

「そういう意味じゃねえよ。俺の腕を信じろ」

 フォウはわずかに視線を逸らし、襟足のあたりを掻いた。

「はーい」

 リヤーナは聞きわけよく返事をする。
 ここでごねて、本当に眉毛を剃り落とされでもしたら事だ。

「眉毛は薄いところを書き足すくらいでいいとして、あとはチークとリップか」

 フォウはまた観察するような目つきに戻り、リヤーナの頬骨のラインを触れるか触れないかくらいの力でなぞった。

「赤みが目立ちやすいのに、ほっぺたにも色を乗せるんですか?」
「この部分に色がないとのっぺりして見えるからな。顔全体にファンデーションを塗りったくってるわけじゃないから、今回は薄くでいい。入れ方によって顔の印象が大きく変わるぞ」

 フォウは大きめのブラシでチークを取った。色がほとんどでなくなるくらい粉を落としてから、リヤーナの頬にふわっと乗せる。鼻先と顎先にもしゅっと刷く。

(なんで鼻と顎にもチーク入れたんだろ)

 仮にフォウの回答を得られたとしても、ここまでの工程すべてを覚えていられる気がしないので、リヤーナは明日以降の自分に任せることにした。

「上流階級のご婦人方はお出かけするのも一苦労ですね」

 リヤーナは感心のため息をつく。
 今はまだフォウにやってもらっているからいいものの、自分で化粧をするとなると面倒臭さで気が滅入る。

「それくらい、誰かに自分を良く見せたいんだろ」

 フォウはリヤーナの顎に手を当て、軽く持ちあげた。

「あっ」

 吐息のような短い悲鳴がリヤーナの口からこぼれる。
 メイクに必要なこととわかっていても、不意にやられると心臓が跳ねてしまう。

「ちょうどいい。そのままでいろ」

 フォウは薬指に口紅を取り、リヤーナの唇の輪郭をなぞった。ぷっくりと膨らんだ中央から端に向かって、とんとんと指の腹でなじませていく。

(一番恥ずかしい、かも)

 唇にフォウの視線が注がれているのに耐えきれず、リヤーナは目を伏せた。
 フォウの指の感触が気持ち良く、うっとりと熱っぽい息を漏らしそうになる。

(やだな……また変な気分になってる)

 初日にフォウと身体を重ねてからか、リヤーナは特定の刺激に対して過敏になっていた。
 背筋にぞくぞくっとむず痒いものが走り、フォウの体温が恋しくなる。

(フォウ先輩……)

 リヤーナはそっとフォウの瞳を盗み見る。

 視線がかち合った。

 フォウは得心したように微笑み、しっとりと唇を重ねる。

 都合の良い妄想なのか、現実に起きたことなのか、リヤーナには判断ができなかった。
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