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第1話
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「……じゃあ、早速ですが、誰か紹介してもらえますか?」
彩がそう尋ねると、鶴田はあたふたと書類の束をめくる。
「そうですね……ああ、この方はどうでしょう。個人情報なので、口頭でしかお教えできないのですが」
「え、写真とか見せてもらえないんですか?」
「はい。個人情報なので……」
彩も結婚相談所は初めてだから、よくわかってないが、そういうものなのか、と納得する。
まあ、最近は個人情報にうるさいしね。
「顔は……そうですね、俳優のミムラタクヤさんに似ています」
「えっ! ミムタク!? 私、大ファンです!」
「それでですね……年齢は、ええと40歳くらいかな?」
「くらい?」
「あ、いや、40歳です。身長は高くて、仕事は……消防庁関連。年収は800ほどです」
消防庁関連ということは、安定の公務員か。
年収が800万……希望よりちょっと低いが、まあ仕方がない。そこは妥協しよう。
「じゃあ、そのひととのお見合いを希望します」
「わかりました。なんとか見つけてきます」
「えっ、見つけてくる?」
「い、いや! 言い間違えました! 男性に確認を取って、必ずやお見合いをセッティングしますから!」
「良かった! よろしくお願いします!」
彩は、明るい未来がぱあっと差し込むのを、ひしひしと感じていた。
◇
彩が帰ると、亀吉はドアを開けて奥の部屋に戻った。
そこは狭い居住スペースだ。
畳敷きの部屋の周囲には、ごちゃごちゃと大量の生活用品が置かれ、中央にはちゃぶ台。
そのちゃぶ台を前に、亀吉の妻である大柄な体格をした令子がでんと座っている。
令子は三毛猫をひざの上で撫でながらタバコをぷかーとふかすと、亀吉を鋭い目で見つめた。
「どうだい。うまくいったかい」
亀吉はスーツの上着を脱ぎながら、情けない声でぼやく。
「はあ~かあちゃん、俺、やっぱこんな仕事無理だよ。これまで鳥しか焼いてこなかったのに」
「文句言うな。やっとこさ新しい商売見つけたんだ。やるしかねえだろ」
もともと、亀吉と令子はこのビルの1階で、居酒屋ヤケクソを営業していたのである。
だが、底辺の輩が住む街という場所柄なのか、来る客は皆ロクでもなかった。
ツケを払わなかったり飲み逃げしたりして結局経営が立ち行かず、つぶれてしまったのだ。
借金取りに追われるはめとなったふたりだが、令子は結婚相談所に目をつけた。
結婚できない男女で溢れている今や、結婚相談所は大はやりらしい。
結婚相談所なら、一部屋あれば開業できる。しかも初期費用もかからない。
問題は、どうやって会員を集めるか、だが。
「やっとこさ、最初のひとりを捕まえたんだ。こいつは絶対逃がさない。無理矢理にでも成婚させて、実績作りに役立ってもらう。そうすりゃ、新しい客がどんどん来るはずだ」
「でもよう、かあちゃん。どうやって男を見つけりゃいいんだ。あの客、すっごくレベルの高い男を希望してるんだよ。そんな男は、とっとと若いうちに結婚してるか、もっとモデルみたいな若い女と付き合いますって」
「がたがた言うな。男なら居酒屋ヤケクソの常連客から適当に選べばいいだろ」
「そんな……クズばかりじゃないか……」
「いいんだよ、それで。誰でもいいから、いい男にでっちあげるんだ。わかったな!」
だみ声でそう怒鳴ると、令子は鋭い目つきのままタバコの煙をぷかーと吐き出した。
彩がそう尋ねると、鶴田はあたふたと書類の束をめくる。
「そうですね……ああ、この方はどうでしょう。個人情報なので、口頭でしかお教えできないのですが」
「え、写真とか見せてもらえないんですか?」
「はい。個人情報なので……」
彩も結婚相談所は初めてだから、よくわかってないが、そういうものなのか、と納得する。
まあ、最近は個人情報にうるさいしね。
「顔は……そうですね、俳優のミムラタクヤさんに似ています」
「えっ! ミムタク!? 私、大ファンです!」
「それでですね……年齢は、ええと40歳くらいかな?」
「くらい?」
「あ、いや、40歳です。身長は高くて、仕事は……消防庁関連。年収は800ほどです」
消防庁関連ということは、安定の公務員か。
年収が800万……希望よりちょっと低いが、まあ仕方がない。そこは妥協しよう。
「じゃあ、そのひととのお見合いを希望します」
「わかりました。なんとか見つけてきます」
「えっ、見つけてくる?」
「い、いや! 言い間違えました! 男性に確認を取って、必ずやお見合いをセッティングしますから!」
「良かった! よろしくお願いします!」
彩は、明るい未来がぱあっと差し込むのを、ひしひしと感じていた。
◇
彩が帰ると、亀吉はドアを開けて奥の部屋に戻った。
そこは狭い居住スペースだ。
畳敷きの部屋の周囲には、ごちゃごちゃと大量の生活用品が置かれ、中央にはちゃぶ台。
そのちゃぶ台を前に、亀吉の妻である大柄な体格をした令子がでんと座っている。
令子は三毛猫をひざの上で撫でながらタバコをぷかーとふかすと、亀吉を鋭い目で見つめた。
「どうだい。うまくいったかい」
亀吉はスーツの上着を脱ぎながら、情けない声でぼやく。
「はあ~かあちゃん、俺、やっぱこんな仕事無理だよ。これまで鳥しか焼いてこなかったのに」
「文句言うな。やっとこさ新しい商売見つけたんだ。やるしかねえだろ」
もともと、亀吉と令子はこのビルの1階で、居酒屋ヤケクソを営業していたのである。
だが、底辺の輩が住む街という場所柄なのか、来る客は皆ロクでもなかった。
ツケを払わなかったり飲み逃げしたりして結局経営が立ち行かず、つぶれてしまったのだ。
借金取りに追われるはめとなったふたりだが、令子は結婚相談所に目をつけた。
結婚できない男女で溢れている今や、結婚相談所は大はやりらしい。
結婚相談所なら、一部屋あれば開業できる。しかも初期費用もかからない。
問題は、どうやって会員を集めるか、だが。
「やっとこさ、最初のひとりを捕まえたんだ。こいつは絶対逃がさない。無理矢理にでも成婚させて、実績作りに役立ってもらう。そうすりゃ、新しい客がどんどん来るはずだ」
「でもよう、かあちゃん。どうやって男を見つけりゃいいんだ。あの客、すっごくレベルの高い男を希望してるんだよ。そんな男は、とっとと若いうちに結婚してるか、もっとモデルみたいな若い女と付き合いますって」
「がたがた言うな。男なら居酒屋ヤケクソの常連客から適当に選べばいいだろ」
「そんな……クズばかりじゃないか……」
「いいんだよ、それで。誰でもいいから、いい男にでっちあげるんだ。わかったな!」
だみ声でそう怒鳴ると、令子は鋭い目つきのままタバコの煙をぷかーと吐き出した。
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