20 / 114
第1話
6
しおりを挟む
◇
ヤケクソ結婚相談所では、土下座する鶴田を前に、彩が腕を組んで屹立していた。
彩の怒りは、既に限界を突破している。
「鶴田さん! 正直に答えてください!」
「ははっ!!」
「今日のパーティは無料で食べ放題を餌に、ビラを配って会社帰りの独身男性を集めたんですねっ!」
「ははっ!! 左様でございますっ!!」
「そうやって、私を騙したと!」
「め、めっそうもない。騙すだなんて、そんな……」
「じゃあ、なぜ私だけ、会費が1万円なんですかっ!」
「それは……トンカツ用の豚肉の仕入れ代が足りませんでしたので……」
呆れて何も言えない。
いったい、何なんだ。この結婚相談所は。
「……これは、かあちゃんが出したアイデアで、絶対うまくいくって言ってたのにな(ボソッ)」
「何か言いました!?」
「あ、いえ。なんでもございません!」
汗だくの鶴田は、ひたすら土下座し続けている。
「じゃあ、ひとつ大事なことを聞きますね!」
「は、はい!」
「この結婚相談所に、会員はいったい何人いるんですかっ!」
鶴田は土下座したまま、はっとしたように黙りこくった。
その額から大量の汗が、床にぽたぽたと落ちている。
「なんで黙っているんですかっ! 会員は何人いるかと聞いているんです! この前は、男性会員が1000人とおっしゃってましたよね! 実際はどうなんですかっ!!」
「……言ったら、杉崎様に怒られます」
「もう、とっくに怒ってます!!」
「もっと、怒りません?」
「いいから、言って下さい!」
「……会員は、杉崎様、おひとりでございます……」
やっぱり……!
開いた口が塞がらないとは、このことだ。
「……じゃあ、はなっから男性を紹介するのは、無理だったと」
「さ、左様でございます……」
「だから、鶴田さんの知り合いの留三さんを連れて来たり、飲み放題食べ放題無料で男性を釣ってパーティーを開いたりしたわけですね」
「はい……」
今や彩は、怒りというより、すっかり呆れていた。
ああ……会費の安さに飛びついた私がバカだったのだ。
こんなこと、美希に話したら鼻で笑われるだろう。
それだから、彩は絶対結婚できないのよ、って。
「鶴田さん、顔を上げてください」
「はい……」
「今日をもって、ヤケクソ結婚相談所を退会させて頂きます!」
彩がそう言い放つと、鶴田はすっかり絶望したような表情を見せた。
だが、絶望して泣きたいのは、彩のほうである。
お金がないから、別の結婚相談所に入会することもできない。
これですっかり、結婚の夢は絶たれてしまった……。
家に帰ったら、ひたすら泣こう……。
「……じゃあ、失礼します。さようなら」
体が固まってぴくりとも動かない鶴田に背を向けて、扉のドアノブに手を掛けた瞬間。
その扉はいきなり開き、彩はよろけた。
入ってきた人物に、体がドン、とぶつかる。
「きゃっ!」
「あ、すみません。大丈夫?」
その男は、慌てることなくしなやかに、転びかけた彩の体を受け止める。
いつしか彩は男のがっしりとした胸に、からだを預けてしまっていた。
「だ、大丈夫です……」
「怪我はない?」
「はい」
「良かった。本当にごめんね」
男は彩のからだをそっと離すと、頭を下げた。
そうして、鶴田のほうに向き直る。
「あの、結婚相談所の方ですか?」
床に正座していた鶴田はあわてて、立ち上がった。
「あ、はい! 何のご用でしょう?」
「ええと……こちらに入会したいのですが」
彩は思わず、男のクールで整ったその顔を見つめた。
ヤケクソ結婚相談所では、土下座する鶴田を前に、彩が腕を組んで屹立していた。
彩の怒りは、既に限界を突破している。
「鶴田さん! 正直に答えてください!」
「ははっ!!」
「今日のパーティは無料で食べ放題を餌に、ビラを配って会社帰りの独身男性を集めたんですねっ!」
「ははっ!! 左様でございますっ!!」
「そうやって、私を騙したと!」
「め、めっそうもない。騙すだなんて、そんな……」
「じゃあ、なぜ私だけ、会費が1万円なんですかっ!」
「それは……トンカツ用の豚肉の仕入れ代が足りませんでしたので……」
呆れて何も言えない。
いったい、何なんだ。この結婚相談所は。
「……これは、かあちゃんが出したアイデアで、絶対うまくいくって言ってたのにな(ボソッ)」
「何か言いました!?」
「あ、いえ。なんでもございません!」
汗だくの鶴田は、ひたすら土下座し続けている。
「じゃあ、ひとつ大事なことを聞きますね!」
「は、はい!」
「この結婚相談所に、会員はいったい何人いるんですかっ!」
鶴田は土下座したまま、はっとしたように黙りこくった。
その額から大量の汗が、床にぽたぽたと落ちている。
「なんで黙っているんですかっ! 会員は何人いるかと聞いているんです! この前は、男性会員が1000人とおっしゃってましたよね! 実際はどうなんですかっ!!」
「……言ったら、杉崎様に怒られます」
「もう、とっくに怒ってます!!」
「もっと、怒りません?」
「いいから、言って下さい!」
「……会員は、杉崎様、おひとりでございます……」
やっぱり……!
開いた口が塞がらないとは、このことだ。
「……じゃあ、はなっから男性を紹介するのは、無理だったと」
「さ、左様でございます……」
「だから、鶴田さんの知り合いの留三さんを連れて来たり、飲み放題食べ放題無料で男性を釣ってパーティーを開いたりしたわけですね」
「はい……」
今や彩は、怒りというより、すっかり呆れていた。
ああ……会費の安さに飛びついた私がバカだったのだ。
こんなこと、美希に話したら鼻で笑われるだろう。
それだから、彩は絶対結婚できないのよ、って。
「鶴田さん、顔を上げてください」
「はい……」
「今日をもって、ヤケクソ結婚相談所を退会させて頂きます!」
彩がそう言い放つと、鶴田はすっかり絶望したような表情を見せた。
だが、絶望して泣きたいのは、彩のほうである。
お金がないから、別の結婚相談所に入会することもできない。
これですっかり、結婚の夢は絶たれてしまった……。
家に帰ったら、ひたすら泣こう……。
「……じゃあ、失礼します。さようなら」
体が固まってぴくりとも動かない鶴田に背を向けて、扉のドアノブに手を掛けた瞬間。
その扉はいきなり開き、彩はよろけた。
入ってきた人物に、体がドン、とぶつかる。
「きゃっ!」
「あ、すみません。大丈夫?」
その男は、慌てることなくしなやかに、転びかけた彩の体を受け止める。
いつしか彩は男のがっしりとした胸に、からだを預けてしまっていた。
「だ、大丈夫です……」
「怪我はない?」
「はい」
「良かった。本当にごめんね」
男は彩のからだをそっと離すと、頭を下げた。
そうして、鶴田のほうに向き直る。
「あの、結婚相談所の方ですか?」
床に正座していた鶴田はあわてて、立ち上がった。
「あ、はい! 何のご用でしょう?」
「ええと……こちらに入会したいのですが」
彩は思わず、男のクールで整ったその顔を見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる