ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

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第1話

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「上沢さんは、こういったパーティーは、何度か参加されてるのですか?」
「いやいや。初めてだよ、こんなパーティ。ずいぶん太っ腹だよね」

えっ! 太っ腹って私のこと!? 
いきなり初対面でそんなっ!!

「……私、そんなに太ってますか?」

ショックを受けて暗い顔でそう言うと、上沢ははっとしたように慌てて首を横に振った。

「ち、違う、違うって! アヤちゃんのことじゃない! このパーティーが太っ腹だってこと!」

なあんだ、そうか。
でも、会費が1万円もするのに、こんな廃れた居酒屋で太っ腹って言えるのだろうか。
見たところ、料理はトンカツしかないみたいだし……。
逆に高いような気もするけど……。
まあいい。話を進めよう。

「せっかくのパーティーなのに、女の子わたしひとりだけって、つまらないでしょう?」
「いや、全然。逆にアヤちゃんみたいな女の子がいて、嬉しいよ」
「そんな……照れちゃうな」
「なんせ、食べ放題だからなあ」

えっ!!

食べ放題って……私がみんなから食べられ放題ってこと!?
ここにいる男たちは、みんな私のからだを狙っているの!?
今どきの婚活パーティーって……そういうものですかっ!?

「すすす、すみませんっ! 私には無理ですっ!!」

パニックに陥った彩は慌てて上沢から離れると、男たちを跳ね飛ばしながら店の入口へとダッシュする。

「あっ! 杉崎様! どうかされましたか!?」

あせったような鶴田の声が聞こえるが、それどころではない。
これだけの男どものアッチの相手をするなんて、冗談じゃないよ~!

店を飛び出した彩は、膝に手を当てて、ぜいぜいと呼吸を荒げた。

ふう~マジでやばかった。
それにしても上沢さん、爽やかそうな顔で、さらっとあんな事を言うなんて。
まったく、人間不信に陥りそうだ。

ふと、風で一枚のチラシがひらひらと飛んできて、彩の目の前にぽとりと落ちた。
何気なく、それに目をやると……。

『ヤケクソ居酒屋 一日だけの臨時オープン!! 出血大サービス!!』

そう、大きく書かれてある。

ん?

彩はチラシを手に取ると、それをまじまじと見つめた。

『トンカツパーティー開催します! 30代、40代の独身会社員男性の方のみ、なんと無料でビール飲み放題、トンカツ食べ放題! ぜひぜひお越しくださいませ!!』

コンカツパーティーじゃなくて……。
トンカツパーティーですって……!?

30代、40代の独身会社員男性限定、無料で飲み放題、食べ放題?
「食べ放題」って、私じゃなくて、トンカツのことだったのか……。
だから、あんなにたくさんの男たちが集まっていたわけだ。
もちろん、これが婚活パーティーだと、誰ひとり思っちゃいないであろう。

まったく、ふざけてるっ……!

チラシを持った彩の手が、わなわなと震えた。

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