ヤケクソ結婚相談所

第１話

７

◇


一方、ヤケクソ結婚相談所の奥の居室では───

歓喜の表情に満ちた鶴田亀吉が、涙を流しながらちゃぶ台越しに令子と顔を突き合わせていた。
その顔を三毛猫がバリバリ引っ掻いているが、亀吉は今やそれを気にする様子もない。

「か、かあちゃん！　やったよ！　あのふたりが結婚すれば、この結婚相談所も安泰だあ～！」

だが令子は普段と変わらぬしかめっ面で、はしゃぐ亀吉を鋭い目で睨み付けた。

「バカだな、おまえは！」
「へっ、なんで？」
「ワタシも様子は、裏から覗いていたよ。おまえ、気づかなかったのか？　あの男のおかしな点に」
「おかしな点？」

亀吉はぽかんとする。
タバコをぷかーとふかした令子は、忌々しそうに目を細めた。

「……あの男は、どう見ても結婚詐欺師だろうが」
「へっ！？　けけけ結婚詐欺師！？」
「ああ、間違いねえ」
「いや……そんな馬鹿な……」

呆然として口をあんぐり開けたままの亀吉は、そのまま固まってしまった。

「いいか、その腐った脳ミソで良く考えてみろ。あんな全く女に困らないような最高スペック男が、こんな廃れた結婚相談所へやってくるかい？」
「それは……」
「しかも、太ったアラフォー女といきなり真剣交際って、どう考えてもおかしいだろうが」
「まあ……そう言われれば……」

亀吉は、さっきまでの浮かれた気分から一転、しゅんとする。

「……じゃあ、これからどうすればいいんだよ？」

令子は険しい目を天井に向け、なにやら考えているようだ。
やがて、ふうーとタバコの煙混じりの息を吐いた。

「そうだな……裏から手を引いて気づかれないよう、無理矢理別れさせるしかない」
「ええっ！　うちは結婚相談所なのに、会員の仲を引き裂くのかい！？」

なんだか、おかしな話である。

「仕方がないだろうが！　彩とかいうあの女が結婚詐欺の被害にでもあったら、うちが訴えられて損害賠償を請求されちまう。そうならないよう、今のうちに手を打つんだよ！」
「しかし……」
「おい、文句あるのかい？」

令子の強烈な眼光に、亀吉は反抗する気概があるはずもない。

「わかったよ、かあちゃん……」
「とにかく、悟られないよう、あくまで自然に別れさせるんだ」

そう言うと令子は、新しいタバコに手を伸ばした。