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第1話
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「ここだよ」
足を止めた東雲が指し示したのは、オシャレな複合ビルの中にある超高級焼き肉店だった。
えっ!
焼き肉って言うから、彩も良く行く大衆店の「牛丸」や「焼肉王」を想像していたのに。
こんな焼き肉屋、テレビのグルメ番組でしか見たことがない。芸能人もお忍びで通うと言われているお店じゃない!
すっごく憧れてたけど、もちろん彩の給料では行けるはずもなく、また予約もなかなか取れないと聞いている。
呆然とする彩をよそに、東雲はすたすたと店の中へと入って行った。
店内は焼き肉屋と言うより、まるで高級割烹みたいな内装である。
「いらっしゃいませ」
黒服を着たボーイが、深々と頭を下げた。
「予約して無いんだけど、2名入れるかな?」
東雲がそう言うと、ボーイはにこやかに答える。
「もちろんですとも、東雲様。すぐに奥の座敷を用意いたします」
へえ~。東雲さんって、ここの常連なんだ。
しかも、予約なくても顔パスで入れちゃうなんて、すごい!
通された座敷で腰を下ろすと、東雲はボーイに向かって言った。
「ええと、コースはお任せで。俺は1人前でいいけど、こちらの女性には3人前、いや5人前にしておこうか」
「かしこまりました」
私だけ、5人前!?
は、恥ずかしいっ!!
それに東雲さんの前で、そんなばくばく食べる醜態なんか晒したくないよ~。
「待って下さい東雲さ……いや、か、翔さん! そんな、私も1人前でいいです!」
「いや、彩さんは1人前じゃ、全然足りないと思う」
「でもっ!」
「前にも言ったよね、俺。食べるのが好きな娘は好みだって。だから、遠慮しないで」
そうまで言われたら、仕方がない。
彩は俯きながら、はい、と答えた。
「東雲様、お飲み物は?」
「俺は水でいい。彩さんはビールにする?」
「私も……お水をください」
やがて運ばれてきた、お肉の数々。
カルビにロースにハラミに……いやいや、普通の焼き肉屋で食べたお肉はなんだったんだ、と自問するくらいに美味すぎる。
どれも、口の中へ入ったとたん、とろけてしまう。
お店の方が勝手にどんどん焼いてくれるので、彩は焼き上がって皿に盛られたお肉をひたすら食べるだけである。
ああ……こんな幸せ、かつてあっただろうか。
「彩さん」
「うがっ!」
無我夢中で食べている最中に、急に翔さんから声を掛けられたものだから、変な声が出てしまった。
翔さんはクールな目はそのままに、口元には笑みを携えている。
「やっぱり、彩さんは本当においしそうに食べるんだね」
「い、いえ……すみません」
「なんで謝るんだ。俺はそんな彩さんが見れて嬉しい」
そう言った後で、翔さんはボーイに向かって3人前追加で、と言った。
「ここだよ」
足を止めた東雲が指し示したのは、オシャレな複合ビルの中にある超高級焼き肉店だった。
えっ!
焼き肉って言うから、彩も良く行く大衆店の「牛丸」や「焼肉王」を想像していたのに。
こんな焼き肉屋、テレビのグルメ番組でしか見たことがない。芸能人もお忍びで通うと言われているお店じゃない!
すっごく憧れてたけど、もちろん彩の給料では行けるはずもなく、また予約もなかなか取れないと聞いている。
呆然とする彩をよそに、東雲はすたすたと店の中へと入って行った。
店内は焼き肉屋と言うより、まるで高級割烹みたいな内装である。
「いらっしゃいませ」
黒服を着たボーイが、深々と頭を下げた。
「予約して無いんだけど、2名入れるかな?」
東雲がそう言うと、ボーイはにこやかに答える。
「もちろんですとも、東雲様。すぐに奥の座敷を用意いたします」
へえ~。東雲さんって、ここの常連なんだ。
しかも、予約なくても顔パスで入れちゃうなんて、すごい!
通された座敷で腰を下ろすと、東雲はボーイに向かって言った。
「ええと、コースはお任せで。俺は1人前でいいけど、こちらの女性には3人前、いや5人前にしておこうか」
「かしこまりました」
私だけ、5人前!?
は、恥ずかしいっ!!
それに東雲さんの前で、そんなばくばく食べる醜態なんか晒したくないよ~。
「待って下さい東雲さ……いや、か、翔さん! そんな、私も1人前でいいです!」
「いや、彩さんは1人前じゃ、全然足りないと思う」
「でもっ!」
「前にも言ったよね、俺。食べるのが好きな娘は好みだって。だから、遠慮しないで」
そうまで言われたら、仕方がない。
彩は俯きながら、はい、と答えた。
「東雲様、お飲み物は?」
「俺は水でいい。彩さんはビールにする?」
「私も……お水をください」
やがて運ばれてきた、お肉の数々。
カルビにロースにハラミに……いやいや、普通の焼き肉屋で食べたお肉はなんだったんだ、と自問するくらいに美味すぎる。
どれも、口の中へ入ったとたん、とろけてしまう。
お店の方が勝手にどんどん焼いてくれるので、彩は焼き上がって皿に盛られたお肉をひたすら食べるだけである。
ああ……こんな幸せ、かつてあっただろうか。
「彩さん」
「うがっ!」
無我夢中で食べている最中に、急に翔さんから声を掛けられたものだから、変な声が出てしまった。
翔さんはクールな目はそのままに、口元には笑みを携えている。
「やっぱり、彩さんは本当においしそうに食べるんだね」
「い、いえ……すみません」
「なんで謝るんだ。俺はそんな彩さんが見れて嬉しい」
そう言った後で、翔さんはボーイに向かって3人前追加で、と言った。
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