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第1話
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アズサの部屋からは、いろんな家具類が消え失せている。
あるべきテレビや冷蔵庫、ソファなどが見当たらない。
彩はアズサの家を何度か訪れたことがあるが、すっかり様相が変わってしまっていた。
まるで泥棒が入って、ごっそり盗み去ったあとみたいだ。
いったい、何があったんだろう。
がらんとしたキッチンに、アズサはいた。
唯一残された小さなダイニングテーブルに片肘をつき、彩の姿を見るや否や陽気にストロングチューハイのビッグ缶を手に掲げた。
「よう、アヤ! 待ってたよ~!」
どうやら、酔っ払っているようである。
「どうしたの、アズサ! 心配になって急いで来たのに!」
「いやあ、ごめんごめん! アヤに電話してからストロング一気飲みしたら、もう、どうでも良くなっちゃった!」
けらけらと笑うアズサ。
「てか、いったい何があったの?」
「今日、会社から帰って来たら、このザマよ。私がいない隙に、純也が自分で買ったモノをぜーんぶ運び出したみたい」
「えっ、純也くんが!? それって、アズサと別れて奥さんのもとに帰ったってこと!?」
「今更あいつが奥さんのとこ帰るわけないでしょ。新しい彼女、作りやがったの。23歳だって。私より、16も年下の彼女!」
彩は驚きのあまり声も出なかった。
そんなことって……。
「まあ、最近になってあいつに彼女ができたことは、うすうす気づいてたんだけどねー。まさか、こんなやり方で姿を消すとは、想像もしてなかったわ」
アズサは、缶に残ったチューハイをぐびぐびと飲み干した。
「見てよ、この部屋。すっかりあいつの痕跡が消え失せたの。一緒に過ごした5年間の想い出のカケラすら綺麗さっぱり無くなっちゃったんだよー」
とたんにアズサはテーブルに突っ伏して、今度はおいおいと泣き始めた。
「アズサ……」
慰めようにも、掛ける言葉が見つからない。
アズサは結婚の約束までしていた純也くんに、裏切られたんだ。
いや純也くんは、はなっからアズサと結婚する気がなかったのかもしれない。
5年間もの間、結婚をちらつかせながら一緒に暮らしてきて、若い彼女が出来たらあっさり捨てるなんて、あまりにも酷すぎる!
ふと、泣いていたアズサが、むくりと顔を上げて空を見つめた。
「……私も、もうすぐ40だよ。世間的にオバサンはもう、用済みってことなのさ」
「違うよ。純也くんが、全て悪いんだよ……」
ああ、そうか。
最近アズサの様子が変だったのは、純也くんに新しい彼女ができたことを知ったからなんだ。
もっと早く、話を聞いてあげれば良かった。
翔さんのことばかり考えてて、親友のアズサをほったらかしにしてしまってた……。
「アズサ、ホントごめん……」
「なんでアヤが謝るの。私は、さんざん泣いたら吹っ切れたよ。もう、純也が帰ってくることはないし、無駄になった5年間が戻ってくるわけでもないから」
涙を拭い、いつしかアズサは普段の冷静な態度を取り戻しつつあった。
「でね、アヤが来る前に、考えてたんだ」
「なにを?」
「こんなときは、すぐに次のステップに進むべきだってね。私も、アヤと同じく結婚相談所に入会しようと思う」
「まあ、それも、いいかも……」
「だから、アヤ。ヤケクソ結婚相談所を紹介してちょうだい。私もそこに入るから」
「えっ。いや、でも。あそこは……」
「もう、決めたんだー」
突然の展開に、彩はただ呆然とするだけだった。
あるべきテレビや冷蔵庫、ソファなどが見当たらない。
彩はアズサの家を何度か訪れたことがあるが、すっかり様相が変わってしまっていた。
まるで泥棒が入って、ごっそり盗み去ったあとみたいだ。
いったい、何があったんだろう。
がらんとしたキッチンに、アズサはいた。
唯一残された小さなダイニングテーブルに片肘をつき、彩の姿を見るや否や陽気にストロングチューハイのビッグ缶を手に掲げた。
「よう、アヤ! 待ってたよ~!」
どうやら、酔っ払っているようである。
「どうしたの、アズサ! 心配になって急いで来たのに!」
「いやあ、ごめんごめん! アヤに電話してからストロング一気飲みしたら、もう、どうでも良くなっちゃった!」
けらけらと笑うアズサ。
「てか、いったい何があったの?」
「今日、会社から帰って来たら、このザマよ。私がいない隙に、純也が自分で買ったモノをぜーんぶ運び出したみたい」
「えっ、純也くんが!? それって、アズサと別れて奥さんのもとに帰ったってこと!?」
「今更あいつが奥さんのとこ帰るわけないでしょ。新しい彼女、作りやがったの。23歳だって。私より、16も年下の彼女!」
彩は驚きのあまり声も出なかった。
そんなことって……。
「まあ、最近になってあいつに彼女ができたことは、うすうす気づいてたんだけどねー。まさか、こんなやり方で姿を消すとは、想像もしてなかったわ」
アズサは、缶に残ったチューハイをぐびぐびと飲み干した。
「見てよ、この部屋。すっかりあいつの痕跡が消え失せたの。一緒に過ごした5年間の想い出のカケラすら綺麗さっぱり無くなっちゃったんだよー」
とたんにアズサはテーブルに突っ伏して、今度はおいおいと泣き始めた。
「アズサ……」
慰めようにも、掛ける言葉が見つからない。
アズサは結婚の約束までしていた純也くんに、裏切られたんだ。
いや純也くんは、はなっからアズサと結婚する気がなかったのかもしれない。
5年間もの間、結婚をちらつかせながら一緒に暮らしてきて、若い彼女が出来たらあっさり捨てるなんて、あまりにも酷すぎる!
ふと、泣いていたアズサが、むくりと顔を上げて空を見つめた。
「……私も、もうすぐ40だよ。世間的にオバサンはもう、用済みってことなのさ」
「違うよ。純也くんが、全て悪いんだよ……」
ああ、そうか。
最近アズサの様子が変だったのは、純也くんに新しい彼女ができたことを知ったからなんだ。
もっと早く、話を聞いてあげれば良かった。
翔さんのことばかり考えてて、親友のアズサをほったらかしにしてしまってた……。
「アズサ、ホントごめん……」
「なんでアヤが謝るの。私は、さんざん泣いたら吹っ切れたよ。もう、純也が帰ってくることはないし、無駄になった5年間が戻ってくるわけでもないから」
涙を拭い、いつしかアズサは普段の冷静な態度を取り戻しつつあった。
「でね、アヤが来る前に、考えてたんだ」
「なにを?」
「こんなときは、すぐに次のステップに進むべきだってね。私も、アヤと同じく結婚相談所に入会しようと思う」
「まあ、それも、いいかも……」
「だから、アヤ。ヤケクソ結婚相談所を紹介してちょうだい。私もそこに入るから」
「えっ。いや、でも。あそこは……」
「もう、決めたんだー」
突然の展開に、彩はただ呆然とするだけだった。
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