51 / 114
第1話
13
しおりを挟む
「翔さん、ひとつ聞いてもいいですか」
「ああ」
「翔さんが私を選んでくれた理由って……好きだからじゃないんですか?」
すると東雲はふと向き直り、普段通りのクールな目つきで彩をじっと見つめた。
「俺は恋愛をするつもりはない。気が合う相手と結婚がしたいんだ。それは彩さんなんだよ」
これって……プロポーズ?
でも、思ってたのとなんか違う。
なんか、もやもやする。
確かに私も、最初は結婚したいって、その思いだけでヤケクソ結婚相談所に入会したけど。
でも、翔さんと出会ってから、そしてアズサに言われてから、私は結婚したいのか、恋愛したいのか自問自答するようになったのは確かだ。
その答えは、まだ出ていないが。
「言っておくが、美希から逃れるために彩さんを選んだんじゃない。いや、最初は1ヶ月以内に誰でもいいから結婚さえすれば、問題が解決すると思っていたのは認める。だが、彩さんと付き合ううちに、純粋に心が動かされたんだ。彩さんとなら、結婚してもうまくやっていけるに違いないってね」
「それって……恋愛感情とは違うんですか?」
彩がそう聞くと、東雲は僅かに顔を曇らせる。
「実を言うと、俺には恋愛感情というものが、どういうものかわからないんだ。これまで付き合ってきた過去の女性たちにも、一度もそういった感情を覚えた経験がない」
「私は……翔さんのことが好きです。でも、翔さんが私のことを好きじゃないのなら……どうして結婚するんでしょうか?」
東雲は何か言おうとして……一度開きかけた口を閉ざした。
おそらく、翔さんも答えは見つからないのだろう。
翔さんて、恋愛や結婚に対する考え方が、普通の人とは全く違うんだ。
それを理解することも……今の私にはできない。
床に這いつくばった美希が、顔を上げて彩を凄まじい眼光で睨みつけてきた。
「絶対に、許さないから……」
「美希……どうしてここがわかったの?」
それが、さっぱりわからない。
すると東雲が苦々しい表情で、口を挟んだ。
「今日は朝からずっと後をつけられていたんだ。気づいてはいたんだが」
「えっ、美希が?」
「いいや、違う」
東雲はおもむろに部屋の入口へ向かうと、ドアを勢いよく開け放った。
とたんに、鶴田が部屋に転がり込んでくる。
おそらくドアに耳を当てて、盗み聞きしていたのであろう。
「ひゃっ!」
「鶴田さん!? なんで鶴田さんが……!」
「いいいいや、ここここれには、じじじ事情がございまして……」
汗だくになっておろおろする鶴田を見下ろしながら、東雲が冷ややかに言う。
「おそらく鶴田さんは美希に命令されて俺たちを見張ってたんだ。俺たちがホテルに行くのを知って、美希に連絡した。そうでしょ、鶴田さん」
「さ、左様でございます……」
「なんで、すぐに帰らなかったのですか? ここに留まる理由はないはずだ」
「それは、その……帰りのタクシー代がございませんで……こんな状況で誠にすみませんが、いくらか貸して頂けないでしょうかねえ?」
鶴田は引きつった笑みを浮かべるが……東雲は冷たく言い放った。
「断る」
「そ、そんなあ……」
がっくりと肩を落とす鶴田。
だけど今は、鶴田に構っている場合ではない。
「翔さん」
「……うん」
「私、今日は帰ります。少し頭の中を整理したいので」
「わかった。送って行こう」
「いえ。ちょっとひとりになりたいんです」
きっぱりと彩がそう言うと、東雲にしてはめずらしく動揺した表情を浮かべた。
「ああ」
「翔さんが私を選んでくれた理由って……好きだからじゃないんですか?」
すると東雲はふと向き直り、普段通りのクールな目つきで彩をじっと見つめた。
「俺は恋愛をするつもりはない。気が合う相手と結婚がしたいんだ。それは彩さんなんだよ」
これって……プロポーズ?
でも、思ってたのとなんか違う。
なんか、もやもやする。
確かに私も、最初は結婚したいって、その思いだけでヤケクソ結婚相談所に入会したけど。
でも、翔さんと出会ってから、そしてアズサに言われてから、私は結婚したいのか、恋愛したいのか自問自答するようになったのは確かだ。
その答えは、まだ出ていないが。
「言っておくが、美希から逃れるために彩さんを選んだんじゃない。いや、最初は1ヶ月以内に誰でもいいから結婚さえすれば、問題が解決すると思っていたのは認める。だが、彩さんと付き合ううちに、純粋に心が動かされたんだ。彩さんとなら、結婚してもうまくやっていけるに違いないってね」
「それって……恋愛感情とは違うんですか?」
彩がそう聞くと、東雲は僅かに顔を曇らせる。
「実を言うと、俺には恋愛感情というものが、どういうものかわからないんだ。これまで付き合ってきた過去の女性たちにも、一度もそういった感情を覚えた経験がない」
「私は……翔さんのことが好きです。でも、翔さんが私のことを好きじゃないのなら……どうして結婚するんでしょうか?」
東雲は何か言おうとして……一度開きかけた口を閉ざした。
おそらく、翔さんも答えは見つからないのだろう。
翔さんて、恋愛や結婚に対する考え方が、普通の人とは全く違うんだ。
それを理解することも……今の私にはできない。
床に這いつくばった美希が、顔を上げて彩を凄まじい眼光で睨みつけてきた。
「絶対に、許さないから……」
「美希……どうしてここがわかったの?」
それが、さっぱりわからない。
すると東雲が苦々しい表情で、口を挟んだ。
「今日は朝からずっと後をつけられていたんだ。気づいてはいたんだが」
「えっ、美希が?」
「いいや、違う」
東雲はおもむろに部屋の入口へ向かうと、ドアを勢いよく開け放った。
とたんに、鶴田が部屋に転がり込んでくる。
おそらくドアに耳を当てて、盗み聞きしていたのであろう。
「ひゃっ!」
「鶴田さん!? なんで鶴田さんが……!」
「いいいいや、ここここれには、じじじ事情がございまして……」
汗だくになっておろおろする鶴田を見下ろしながら、東雲が冷ややかに言う。
「おそらく鶴田さんは美希に命令されて俺たちを見張ってたんだ。俺たちがホテルに行くのを知って、美希に連絡した。そうでしょ、鶴田さん」
「さ、左様でございます……」
「なんで、すぐに帰らなかったのですか? ここに留まる理由はないはずだ」
「それは、その……帰りのタクシー代がございませんで……こんな状況で誠にすみませんが、いくらか貸して頂けないでしょうかねえ?」
鶴田は引きつった笑みを浮かべるが……東雲は冷たく言い放った。
「断る」
「そ、そんなあ……」
がっくりと肩を落とす鶴田。
だけど今は、鶴田に構っている場合ではない。
「翔さん」
「……うん」
「私、今日は帰ります。少し頭の中を整理したいので」
「わかった。送って行こう」
「いえ。ちょっとひとりになりたいんです」
きっぱりと彩がそう言うと、東雲にしてはめずらしく動揺した表情を浮かべた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる