ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

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第1話

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「じゃあさ、いきなりジェットコースター、行っちゃおうか」
「え……実は僕、高所恐怖症なんれすけど……」

遊園地の花形であるジェットコースターが苦手なら、なぜデートにここを選ぶ。

「それじゃあ……お化け屋敷にしよっか」
「あの……閉所恐怖症でもあるんでしゅ……」

その言葉にかちんときた彩は、竹下の腕をむんずと掴むと、その体を引きずるようにお化け屋敷へと向かっていく。

「そんなの、私が治してやるっ!」
「ひええーーっ!!」

それから……。
お化け屋敷では、彩にしがみついて悲鳴を上げ続け、ジェットコースターでは失神してしまい。
ぼろぼろとなった竹下を抱きかかえながら、念願のフードコートに到着。

彩は多国籍料理、全ての国においてメニューの完食を果たした。
(のちに、そのフードコートでは世界制覇した食の女王として、彩の顔写真が記念の額として飾られるのだが、本人は知るはずもない)

午後は竹下の体調も考えてあげて、メリーゴーラウンドやティーカップなどのゆる系アトラクションに乗り、それなりに楽しい時間を過ごしたのだった。

「はあ、汗かいたねー。ちょっと休もうか」
「は、はい!」

彩と竹下は、園内の通路にあるベンチに並んで腰掛けた。
すでに陽は傾きはじめてきており、さっきより涼しい風が吹き抜けていく。

「竹下くん、今日はありがとう。楽しかったよ」
「いいえ……にゃんだか僕、ダメダメでしゅみましぇん……」

彩はふと、黙りこくった。
そう。これから大事な話をしなきゃならないのだ。
ええと、どう言えばいいものか……。

長い沈黙に耐えかねたように、竹下がぽつりと言葉を零す。

「……やっぱり、無理でしゅよね」
「えっ?」
「わかってましゅた。杉崎しゃんが僕と付き合えないのは。これれも、恋愛作家れすから」

そうか……。
先に言われちゃったな。
竹下くんは嫌いじゃないけど……どうしても、トキメかないんだ。

「うん……ごめんね」
「やっぱり、あの男のことが忘れられにゃいんですか?」
「いや、翔さんのことは、もういいんだ。翔さんとアズサは誰が見てもお似合いのカップルだよ。私なんか出る幕じゃないの」
「はあ」
「もう、恋愛も結婚も諦めた。私は今のままで十分なんだ」
「れ、れも……!」
「誰にも気兼ねせずに食べまくったり、仕事のできない竹下くんの世話をしたり……そんないつも通りのことが、これからもずっと続けばいいと思う」

それは、今となっては彩の本心だった。
あの日、会社に呼び出されて猛烈な仕事をし終わったあとで、全て吹っ切れたのだ。

「だから、結婚相談所も退会しちゃった」
「そうだったんでしゅか……」
「そんなに落ち込まないでよ。竹下くんのせいじゃないから。そもそも、こんな私が今更結婚しようだなんて、その考え自体が間違っていたんだよね~」

彩は、赤みがかった空を見上げた。
うん……これで良かったんだ。

「じゃあ……帰ろっか」
「はい……」

ベンチから腰を上げて、彩と竹下は歩き去っていく……。





ベンチ裏にある植え込みの中から、がさがさ音を立てながら体じゅう草だらけの男が姿を現した。
令子に命じられ、今日一日ふたりをこっそり付け回していた鶴田である。

「そういうことですか……」

ふたりの後ろ姿を見つめながら、鶴田はぽつりと言う。
その目からは、涙がだらだらと流れ落ちていた。

「おいっ、あんた!」

怒鳴る声に鶴田がはっとして振り返ると、そこには仁王立ちする警備員の姿があった。

「な、なんでしょう……?」
「不審者が植え込みに隠れているって通報があったんだ! ここで何をしている!」
「い、いえ……なにも……」
「怪しいヤツだな、中年の男がひとりで遊園地だなんて……どうせ盗撮でもしていたんだろ! ちょっと来なさい!」
「ま、待って……」

大柄な体格の警備員に引きずられながら、鶴田は管理事務所へと連行されていった。

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