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第1話
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その夜、ヤケクソ結婚相談所に東雲とアズサが訪れていた。
椅子に腰掛けるふたりを前に、鶴田は神妙な顔で頭を下げる。
「ほ、本日はお越し頂きまして、誠にありがとうございます!」
東雲とアズサも、それに答えるように軽く頭を下げた。
「おふたりが、ご結婚をお決めになったとうかがいまして、こうしてお集まり頂いた次第でございます。この度は、心よりお祝い申し上げます」
いつになく穏やかな表情をした東雲が口を開く。
「ああ、ありがとう。鶴田さんには色々あったけど、世話になったよ」
アズサも、吹っ切れたような笑みを浮かべている。
「ホント。最初はこんな見すぼらしい結婚相談所で相手なんか見つかるのかなって半信半疑だったけど、入会して良かったー」
ヤケクソ結婚相談所、悲願の成婚実績達成まであと僅か。
東雲とアズサのカップルは、誰が見てもお似合いだと言うだろう。
おそらく、隣の居室にいる令子もにんまりしているに違いない。
まさに、吉日である。
だが鶴田だけは、なぜか引きつった笑みを浮かべながら、どくどくと滝のような汗を垂れ流していた。
「さ、最後に念のためお聞きしますが、おふたりとも本当に結婚のご意志があるということで間違いはございませんでしょうか?」
「いや、だからそう報告したよね?」
「意思があるから、ここに来たんじゃない」
東雲もアズサも、少し苛立った表情を浮かべる。
「しょ、承知致しました……では、まずアズサ様に質問がございます」
「何よ?」
「これは、私の誤解かもしれませんが……杉崎様が竹下という若い男とデキてしまったことを知って、ふたりの幸せを心から願い……東雲様の存在が今さら妨げとならないように、早々に東雲様とのご結婚を決断されたのではございませんか?」
いきなり核心を突いた鶴田の発言に、アズサは目を丸くした。
「は、はあっ!? いきなり何を言い出すのよっ!! そ、そんなこと、あるわけないじゃない……」
その声が、尻すぼみとなっていく。
「それから東雲様。本当は今でも杉崎様のことが好きなんじゃないですか? しかし極めて現実的な考えをお持ちの東雲様は好きという感情がわからずに戸惑っている。しかも、気持ちをうまく伝えられないうちに他の男がデキたようだ。そんなもどかしさを吹っ切るためにアズサ様との結婚を決意した。そうじゃありませんかね?」
東雲は僅かに眉を潜ませた。
だが、あくまで冷静な態度は崩さない。
「いや。俺は気があった人と結婚したい。ただ、それだけだ」
「それが杉崎様じゃなくても、でしょうか?」
「……ああ、そうだ」
一転、不穏な空気に包まれたヤケクソ結婚相談所。
鶴田から流れ出た大量の汗は、いつしかその足下に大きな池を作り出していた。
「で、ではここで、おふたりにご報告がございます」
「なによ?」
「なんだ?」
ああ……。
これを言ったら、かあちゃん怒るだろうなあ……。
「杉崎様ですが……竹下という男とは付き合っておりません。そもそも恋愛感情も無かったようです。ヤケクソ結婚相談所を退会されて、これからひとりで生きていくことを決断されたようでして」
ふたりは同時にはっとして、お互いの顔を見合わせた。
「……それでも、東雲様とアズサ様のご結婚の意思に、お変わりありませんか?」
椅子に腰掛けるふたりを前に、鶴田は神妙な顔で頭を下げる。
「ほ、本日はお越し頂きまして、誠にありがとうございます!」
東雲とアズサも、それに答えるように軽く頭を下げた。
「おふたりが、ご結婚をお決めになったとうかがいまして、こうしてお集まり頂いた次第でございます。この度は、心よりお祝い申し上げます」
いつになく穏やかな表情をした東雲が口を開く。
「ああ、ありがとう。鶴田さんには色々あったけど、世話になったよ」
アズサも、吹っ切れたような笑みを浮かべている。
「ホント。最初はこんな見すぼらしい結婚相談所で相手なんか見つかるのかなって半信半疑だったけど、入会して良かったー」
ヤケクソ結婚相談所、悲願の成婚実績達成まであと僅か。
東雲とアズサのカップルは、誰が見てもお似合いだと言うだろう。
おそらく、隣の居室にいる令子もにんまりしているに違いない。
まさに、吉日である。
だが鶴田だけは、なぜか引きつった笑みを浮かべながら、どくどくと滝のような汗を垂れ流していた。
「さ、最後に念のためお聞きしますが、おふたりとも本当に結婚のご意志があるということで間違いはございませんでしょうか?」
「いや、だからそう報告したよね?」
「意思があるから、ここに来たんじゃない」
東雲もアズサも、少し苛立った表情を浮かべる。
「しょ、承知致しました……では、まずアズサ様に質問がございます」
「何よ?」
「これは、私の誤解かもしれませんが……杉崎様が竹下という若い男とデキてしまったことを知って、ふたりの幸せを心から願い……東雲様の存在が今さら妨げとならないように、早々に東雲様とのご結婚を決断されたのではございませんか?」
いきなり核心を突いた鶴田の発言に、アズサは目を丸くした。
「は、はあっ!? いきなり何を言い出すのよっ!! そ、そんなこと、あるわけないじゃない……」
その声が、尻すぼみとなっていく。
「それから東雲様。本当は今でも杉崎様のことが好きなんじゃないですか? しかし極めて現実的な考えをお持ちの東雲様は好きという感情がわからずに戸惑っている。しかも、気持ちをうまく伝えられないうちに他の男がデキたようだ。そんなもどかしさを吹っ切るためにアズサ様との結婚を決意した。そうじゃありませんかね?」
東雲は僅かに眉を潜ませた。
だが、あくまで冷静な態度は崩さない。
「いや。俺は気があった人と結婚したい。ただ、それだけだ」
「それが杉崎様じゃなくても、でしょうか?」
「……ああ、そうだ」
一転、不穏な空気に包まれたヤケクソ結婚相談所。
鶴田から流れ出た大量の汗は、いつしかその足下に大きな池を作り出していた。
「で、ではここで、おふたりにご報告がございます」
「なによ?」
「なんだ?」
ああ……。
これを言ったら、かあちゃん怒るだろうなあ……。
「杉崎様ですが……竹下という男とは付き合っておりません。そもそも恋愛感情も無かったようです。ヤケクソ結婚相談所を退会されて、これからひとりで生きていくことを決断されたようでして」
ふたりは同時にはっとして、お互いの顔を見合わせた。
「……それでも、東雲様とアズサ様のご結婚の意思に、お変わりありませんか?」
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