ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

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第2話

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カフェの席に座り、メニューを開いた亀吉は唖然とした。

コーヒーが、500円ですと!?

手元には、1000円しかない。
役に立たないお守りなんて買うんじゃなかったと、心の中で激しく悔いた。
これじゃ、二人分でぎりぎりじゃないですか。

「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」

いかにも爽やかな若い男の店員が寄ってきて、亀吉に微笑みかけた。

「い、いや……えーっとですね……そうだ、冥府さんは何を飲まれます?」

メニューをじっと見つめていた菊奈は、ぽつりと答える。

「では、アイスミルクティーを頂けますか?」

亀吉はすばやくメニューに血走った目を向けた。

アイスミルクティー 750円。

な、ななひゃくごじゅうえん!!
頭がくらくらした。なんせ普段は、安物のインスタントコーヒーしか飲まないのである。
ドリンクの市場価格がこれほどまでに高騰しているとは、世も末だとすっかり絶望してしまう。

そんな亀吉の苦悩など知らずに、店員は明るい声で返事する。

「アイスミルクティーですね、かしこまりました。ええと、そちらの方は……」

亀吉はメニューを広げて固まったまま、なんとか声を絞り出した。

「私は……水でいいです……」
「み、水ですか……承知いたしました」

笑いを堪えながら店員がカウンターに戻っていくのは、亀吉の格好のせいか、はたまた貧乏なのを悟ったせいなのか。
まあ、それはどうでもいい。どんな恥ずかしい目に遭おうとも死ぬよりマシ、それが亀吉の信条である。

「と、ところで冥府さん、お聞きしたいことがあるのですが」
「なんでしょう?」

菊奈は俯きがちに真っ直ぐな目を亀吉に向ける。
それはどこか儚くも、とても美しい顔だった。

「そもそもなんですが……なんで冥府さんは結婚相談所でお相手を探そうと思われたのでしょうか。とてもお綺麗で性格も良さそうだから、黙っていても男ならいくらでも寄って来そうだと思うんですがねえ」
「それは……」

言いかけて、菊奈は目を伏せた。
とたんにどんよりとした不穏な空気に包まれたように感じ、亀吉は背筋がひんやりとする。

「……その前に、私についてもっとお話しすべきかと」
「は、はい」
「私は北国の生まれで、ずっと田舎で過ごしていました。広々とした大地を駆け回って遊んでいた子供の頃が、今までで一番楽しくて幸せだった時期かもしれません」

アイスミルクティーと水が運ばれてきて、菊奈はひととき口をつぐんだ。

「……中学生の時に両親が離婚しまして。お恥ずかしながらダブル不倫です。一人娘の私は、どちらの親にも親権を放棄され、仕方なしに母方の祖母のもとに引き取られることとなりました。それが、不幸の始まりだったんです……」

沈んだ声で菊奈がそう言うと。
亀吉の水の入ったコップに、飛んでいたハエがぽちゃりと落ちた。

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