95 / 114
第2話
5
しおりを挟むその男、高宮涼真がヤケクソ結婚相談所に姿を現したのは、お見合いに指定された時間から1時間以上過ぎてからだった。
亀吉が、ほっとしたように声をかける。
「高宮様、お待ちしておりましたよ。連絡がなかったので、どうされたかと……」
「ああ。ちょっと寝坊しちゃってさ」
全く遅刻を悪びれる様子もない。
1時間、ずっと待っていた菊奈は、ようやく現れた高宮という男を見つめた。
パリッとしたスーツ姿は、190cmはあろうかという高身長によく似合っている。
すらっとした痩せ型のスタイルにちょっと猫背気味なところも、どこか格好良い。
長い黒髪を後ろで縛り、その顔といえば面長のラインに横長のキリリとした目、整った鼻梁にツヤのある薄い唇。
まさに見た目はレディースコミックから飛び出てきたような、完璧なイケメンである。
「冥府さん。こ、こちらが高宮涼真さまです」
菊奈は立ち上がって深々と頭を下げた。
「冥府菊奈と申します。今日は宜しくお願いします」
すると涼真は、ズボンのポケットに手を突っ込んだまま、菊奈をじっと見下ろした。
そして色気のあるハスキートーンボイスで、ずけずけと言い放つ。
「ふうん。意外とかわいいじゃん。いくつ?」
「30です」
「俺も30だよ。タメか。で、俺と結婚したいの?」
亀吉が慌てて間に割って入った。
「た、高宮様、いきなりそんな……」
だが、涼真は堂々としたままだ。
無愛想な表情をぴくりとも変えない。
「結婚したいから見合いするんじゃないのか?」
「い、いや、そうですけど……そのセリフは時期尚早かと。まだお会いして1分も経ってませんし……」
「そうかな。結婚を決めるのに1分だろうが、1年だろうが関係ないだろ。俺を気に入らない女なんていないからな」
「で、ですが、やはり冥府様のお気持ちもございますし、もう少し手順を踏んでからですねえ……」
すると涼真は口角を上げてふん、と微かに微笑んだ。
「わかった。じゃあ、手順とやらを踏むことにしよう。だが、こんな辛気臭い場所じゃあ、話もできないか」
そう言って、菊奈に向かって顎をしゃくった。
「来いよ。デートしようぜ」
その有無を言わさぬ立ち振る舞いに戸惑いながらも、菊奈ははいと答えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる