ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

文字の大きさ
97 / 114
第2話

しおりを挟む



映画館を出ると、再び涼真はひとりスタスタと歩き出す。
菊奈は小走りとなりながらも、必死に付いて行った。

「はあ、はあ……た、高宮さん、もう少し歩く速度を落とせませんか?」
「は? 俺、だらだら歩くの嫌いなんだけど」

あたりはすっかり夕暮れである。
休日なのもあってか、大勢の人々が行き交っていた。

誰もみな、楽しそうに見える。
でも、私はこんなデートをして楽しいのか、と菊奈はふと寂しい気持ちになった。

「ところでさ」
「はあ、はあ……はい?」
「なんか後ろから付いてくる奴がいるんだけど」
「え?」

菊奈が慌てて後ろを振り返ると、あたふたと電柱の影に隠れる男の姿があった。
それは誰が見ても亀吉である。
おそらく、高宮に降りかかる災難を案じて、ずっと尾行してきたのであろう。
なにか起きた場合は、その身を挺してでも高宮を守る覚悟に違いない。
だが電柱の影からもその姿が丸見えで、あまりにお粗末すぎる。

「あれは、なに?」

そう涼真に聞かれて、菊奈はうっと詰まってしまった。
高宮さんが私の呪いの件を聞かされていないのは確かだ。
好かれたら死ぬと知ってたら、高宮さんだってお見合いを断っていただろう。
どう説明すれば、いいかな……。

「もしかして、キミのボディーガード?」
「あ、ええと……」
「そうか。もしかしてキミって、どこかの金持ちのお嬢様? 俺がいきなりホテルに連れ込んだりしないか心配してるってわけ?」
「ち、違います」
「悪いが、俺は自分から女を誘ったりしない。いつも向こうから勝手に誘ってくる」

はあ、そうですか。
今のところ、私はこれっぽっちも誘いたいとは思わないですけど。

「ところであの。高宮さんは、仕事はなにをされてるんですか?」
「今はフリーだよ」

フリー、つまり無職か……。

「でも、今度会社を起こそうと思ってる」
「へえ、どんな会社ですか」
「うん……なんでもいい。とにかく社長になりたいんだ、俺」

どうにも言ってることが、テキトーすぎる。
自分勝手で自信過剰な俺様だけど、中身はスカスカ。
令子さんの言っていた通りだ。
私の唯一苦手なタイプ……これでも、結婚に向けて付き合って行くしかないのだろうか……。

菊奈が暗澹あんたんたる気持ちになっていると、涼真のスマホが鳴った。

「……ああ、俺……これから? いいぜ、ヒマだし」

電話を切ると涼真は、ようやく足を止めて菊奈を見下ろした。
その美しくも冷たい視線に、つい反射的にドキっとしてしまうが。

「ど、どうされました?」
「ちょっと予定入ったんだ。また今度な」

それだけ言うと、涼真はひとり暮れかかる街の中へと消えていった。

えっえっ。どゆこと?
これで、お見合い終了??

呆然と立ち尽くす菊奈は、ふとある事実に気がついた。

そういえば高宮さん、無事だったな……。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転

小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。 人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。 防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。 どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...