102 / 114
第2話
8
しおりを挟む「おい。なんで今日の昼飯も、サバの味噌煮なんだい?」
ちゃぶ台に置かれた皿を一目見るなり、令子は亀吉を睨みつける。
向かい側に座った亀吉は、おろおろしながら答えた。
「き、近所のスーパーで、賞味期限切れのサバの味噌煮缶詰が、50缶1000円で売ってましたので」
「50缶だと!? じゃあ、これからずーっと飯のおかずはサバの味噌煮かい!!」
「だってかあちゃん、ホントにお金がないんですよ……」
令子はちっと舌打ちすると、不満そうにサバの味噌煮に箸を付けた。
ちなみに三毛猫もサバの味噌煮を食べている。いいんだろうか、それで。
「……ところで、おまえ」
「はい、なんでしょう」
「冥府が高宮と交際を始めて、もう3週間だ。どんな具合なんだ、あいつらは」
それは亀吉も、とても気になっていた。
何度か菊奈に連絡したが、なぜか言葉を濁すばかり。
「いえ……どうなんでしょうねえ……」
「バカかおまえはっ!! もっとしっかり監視しろっての!!」
令子が箸を亀吉に突きつけたとたん、箸の先にくっついていたサバの味噌煮の切れ端が飛んで、亀吉の額にぴたっと貼りついた。
「……まあ、高宮の身に何も起きていないから、当初の計画通りに進んでいるとも言える。つまり、冥府が好きじゃなくても着実に結婚へと向かいつつあるわけだ」
「そう、なんでしょうか……」
「このまま行けば、うちもついに成婚実績ができるはず」
「はあ」
「おまえ、冥府の気が変わらないうちに、とっととあいつらを結婚させちまえ!」
その時、応接室で扉の開く音がした。
「あっ、客ですね」
亀吉は慌てて立ち上がると、即座にパジャマからスーツへと着替える。
その間、わずか30秒。さすがにもう、慣れたものである。
応接室への扉を開けると、そこにはいかつい顔をしたスーツ姿の中年男が立っていた。
見たことのない顔だ。
「い、いらっしゃいませ」
挨拶すると、男は鋭い目で亀吉を見つめた。
「あなたが、ヤケクソ結婚相談所の鶴田さん?」
「は、はい。そうですが」
「私、はっぴい株式会社管理本部の岸田と申します」
差し出された名刺には、確かにそう書かれてある。
岸田宗理、役職は部長だ。
亀吉は、部長とか偉い人にはめっぽう弱い。
頭をぺこぺこと下げた。
「は、はっぴいの部長様ともあろう方が、なんでこんなとこまで……」
「しかし、ここは。とても結婚相談所とは思えませんなあ」
岸田は、汚く狭い部屋を見渡すと顔をしかめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる