ヤケクソ結婚相談所

第２話

８

「手っ取り早く話を済ませましょう。冥府菊奈という人物を会員にされていますね？」
「は、はい。どうしてそれを……？」
「社員から報告を受けたのです。ところで、鶴田さんは全国結婚相談所総合協会をご存知ですか？」

全国結婚相談所総合協会？　そんなもの聞いたこともない。
だいたいにおいて、亀吉はこの業界に疎かった。

「その様子だと、ご存知ないみたいですね。本協会は、国内に存在する結婚相談所の殆どが加盟している団体です。加盟することにより、お客様には安心と信頼を提供することができる。しかし加盟には正式な審査が必要である。つまり加盟していない結婚相談所は、何かしらの問題を抱えていると判断されても仕方がないと言うことなんですよ」

亀吉はただ、はあ、としか答えようがない。

「それから、本協会は会員情報を共有しており、加盟した全ての結婚相談所でそれを見ることができます。話を戻しますが、冥府菊奈という人物は、会員情報の中でも『特Z』ランク扱いとされておりましてね」
「とくぜっと、とは……？」
「つまりブラックリストですよ。加盟店は、どこも絶対に会員にしてはならない人物なのです。その理由は、鶴田さんもご存知でしょう？」

亀吉はだらだらと汗を流しながら、まるで刑事のような話し方をする岸田を見つめた。
亀吉にとっては、最も苦手なタイプである。

「……あ、はい、いえ、まあ……」
「いいですか。再びまたあのような事件が起きたらどうします？　これは全国全ての結婚相談所の評判にかかわる問題ですよ。どうすればいいか、お分かりですよね？」

そう言うと、無表情だった岸田はふっと笑みを浮かべた。

「……聞くところによると。おたくの会社は会員を増やすために占い業者と組んでいるとか。これって、詐欺行為ですよね。警察に通報したらどうなることやら」
「いいいいや、そ、それだけは……！」
「最後に一言お伝えしておきます。我が社はっぴいに反抗しようなどと大それた考えは、露ほども思わないで頂きたい。いいですかっ！！」

岸田は最後に、ふんっと鼻息を荒くすると、扉を開けて堂々と出ていった。
その姿を呆然と見送る亀吉の額から、サバの味噌煮の切れ端がポトリと落ちた。