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第2話
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◇
菊奈が帰った後、亀吉はひとり応接室の床に散らばったガラスの破片をホウキで掃いていた。
その顔は、令子に殴られ三毛猫に引っ掻かれたため絆創膏だらけである。
ドアが開く音に気づき、亀吉は顔を上げた。
「冥府さん、お忘れ物ですか……あれ?」
そこに背を丸くして立っていたのは、はっぴいの管理本部長の岸田である。
岸田は亀吉を見るなり、いきなりその場に土下座した。
「このたびは、誠に申し訳ございません!」
「は、はい?」
なにがなんだかわからぬまま、なぜか亀吉も腰を下ろして土下座する。
なんせ亀吉は、偉い人には滅法弱いのである。
お互いに土下座し合うふたり。それは異様な光景であった。
「え、ええっと……どのような件で?」
「弊社の大塚が大変なことをしでかしまして! それで本日謝罪に参った次第であります!」
「は、はあ」
「もちろん大塚は、即刻クビの上、警察に出頭させました。ただし弊社と致しましては、この件は轢き逃げの罪のみで処理したいと考えておりまして……!」
岸田は頭を上げると正座し、ヒクついた顔で亀吉を見つめる。
亀吉もそれに釣られるようにその場に正座して、ぽかんと岸田を見つめ返した。
正座して見つめ合う男ふたり。これもおかしな光景である。
「それでですね。大変不躾ではございますが、鶴田様にはこの件をくれぐれもご内密にして頂くようお願いに参った次第でございます。最大手の結婚相談所である弊社社員が、あろうことにも会員の婚活を妨害していた事実が公になれば、そのダメージは計り知れません!」
岸田は、そそくさと上着の内ポケットから1枚の封筒を取り出すと、それを亀吉に差し出した。
「どうか、これをお納め下さい」
何がなんだかわからぬまま、亀吉は封筒を受け取って中身を取り出す。
それは小切手であった。
ええと……なんか数字がいっぱい並んでますね。こんなの見た事ありません。
いち、じゅう、ひゃく、せん……ええっ! い、いっせんまんえん!?
「それで全て忘れて頂けませんかねえ?」
驚きに満ちた亀吉の顔色をうかがいながら、岸田はひくひくとゲスな笑みを口元に浮かべる。
「要は、口止め料ってことかい」
いつの間にか亀吉の後ろに屹立していた令子が声を上げた。
岸田は慌てて腰を上げる。
「これはこれは、鶴田様の奥様ですか……?」
「おまえら、本当は大塚の不祥事を前から知ってたんだろ。会社ぐるみの隠蔽ってやつか。それでボロが出ないように、うちに圧力をかけた。そうだな?」
「……おっしゃるとおりで」
令子は岸田を睨みつけたまま、つかつかと歩み寄ると。
「わかった、この件は忘れてやってもいい。だがな……」
次の瞬間、令子の鋭い鉄拳が岸田の頬にめり込んでいた。
「一発殴らせろ!」
「あが……っ」
岸田の鼻から血しぶきがほとばしる。
亀吉は、目の前で起きた壮絶な光景に唖然としながらも、ぽつりと呟いた。
「かあちゃん……殴った後で殴らせろって言うのはどうかと……」
菊奈が帰った後、亀吉はひとり応接室の床に散らばったガラスの破片をホウキで掃いていた。
その顔は、令子に殴られ三毛猫に引っ掻かれたため絆創膏だらけである。
ドアが開く音に気づき、亀吉は顔を上げた。
「冥府さん、お忘れ物ですか……あれ?」
そこに背を丸くして立っていたのは、はっぴいの管理本部長の岸田である。
岸田は亀吉を見るなり、いきなりその場に土下座した。
「このたびは、誠に申し訳ございません!」
「は、はい?」
なにがなんだかわからぬまま、なぜか亀吉も腰を下ろして土下座する。
なんせ亀吉は、偉い人には滅法弱いのである。
お互いに土下座し合うふたり。それは異様な光景であった。
「え、ええっと……どのような件で?」
「弊社の大塚が大変なことをしでかしまして! それで本日謝罪に参った次第であります!」
「は、はあ」
「もちろん大塚は、即刻クビの上、警察に出頭させました。ただし弊社と致しましては、この件は轢き逃げの罪のみで処理したいと考えておりまして……!」
岸田は頭を上げると正座し、ヒクついた顔で亀吉を見つめる。
亀吉もそれに釣られるようにその場に正座して、ぽかんと岸田を見つめ返した。
正座して見つめ合う男ふたり。これもおかしな光景である。
「それでですね。大変不躾ではございますが、鶴田様にはこの件をくれぐれもご内密にして頂くようお願いに参った次第でございます。最大手の結婚相談所である弊社社員が、あろうことにも会員の婚活を妨害していた事実が公になれば、そのダメージは計り知れません!」
岸田は、そそくさと上着の内ポケットから1枚の封筒を取り出すと、それを亀吉に差し出した。
「どうか、これをお納め下さい」
何がなんだかわからぬまま、亀吉は封筒を受け取って中身を取り出す。
それは小切手であった。
ええと……なんか数字がいっぱい並んでますね。こんなの見た事ありません。
いち、じゅう、ひゃく、せん……ええっ! い、いっせんまんえん!?
「それで全て忘れて頂けませんかねえ?」
驚きに満ちた亀吉の顔色をうかがいながら、岸田はひくひくとゲスな笑みを口元に浮かべる。
「要は、口止め料ってことかい」
いつの間にか亀吉の後ろに屹立していた令子が声を上げた。
岸田は慌てて腰を上げる。
「これはこれは、鶴田様の奥様ですか……?」
「おまえら、本当は大塚の不祥事を前から知ってたんだろ。会社ぐるみの隠蔽ってやつか。それでボロが出ないように、うちに圧力をかけた。そうだな?」
「……おっしゃるとおりで」
令子は岸田を睨みつけたまま、つかつかと歩み寄ると。
「わかった、この件は忘れてやってもいい。だがな……」
次の瞬間、令子の鋭い鉄拳が岸田の頬にめり込んでいた。
「一発殴らせろ!」
「あが……っ」
岸田の鼻から血しぶきがほとばしる。
亀吉は、目の前で起きた壮絶な光景に唖然としながらも、ぽつりと呟いた。
「かあちゃん……殴った後で殴らせろって言うのはどうかと……」
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