113 / 114
第2話
13
しおりを挟むあれから3ヶ月が経った。
季節は駆け足で移り変わり、今やすっかり冬である。
「ふう~。寒くなりましたねえ」
相変わらず薄暗い居室で、夏冬兼用である薄いパジャマ姿の亀吉は、ぶるぶると震えながら鍋をちゃぶ台に置いた。
どてらを着込んでちゃぶ台を前にどっかりと座った令子は、新聞を広げて見つめている。
ちなみにこの新聞は、ビル共用のゴミ箱から拾ってきたシロモノである。
当然、新聞を取るカネなど、ヤケクソ結婚相談所にあるはずもない。
「おい、面白い記事が載っているぞ」
「はあ。どんな記事ですか?」
「はっぴいが倒産したそうだ」
ひき逃げの罪で警察に逮捕された大塚秀子は、取り調べの最中に別件も白状した。
菊奈が被害を受けた婚活の妨害もそうであるが、それ以外にも、全く希望や性格の合わない会員どうしを無理矢理結婚させたり、気の弱そうな会員に対して意識改革が必要と称して、違法な洗脳セミナーを高額契約させ裏でマージンを受け取ったりと、様々な悪事を働いていたらしい。
それは週刊誌にスクープされて、あっという間に世に広まった。
すると、他のはっぴいの被害者たちからも多くの声が上がり、ネットで大炎上することとなる。
もともと業界最大手で傲慢な体質だったはっぴいは、会員に対してずさんな対応を取っていたのだ。
結婚相談所は、評判が命である。
すぐに、はっぴいの会員の殆どが退会し売上げは激減。資金繰りもままならず、遂には倒産。
まさに、祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、である。
「ふん、いい気味だな。ざまーみろってんだ」
吐き捨てるようにそう言いながら、令子は鍋の蓋を開けた。
「なんだ、これは……?」
「ど、どうしました?」
「とうふと白菜しか入ってないじゃないか!」
「いえ、鶏肉もありますよ」
令子は箸で鍋の中をかき回す。すると小さな鶏の皮が僅かながらに浮き上がってきた。
「賞味期限切れの鶏皮缶詰を、100缶200円で買いました」
「自慢げに言ってんじゃねえ! おまえは、やりくり上手のカリスマ節約主婦かいっ!」
「す、すみません……でも、本当におカネがないんですよ……」
切実な表情で声を落とす亀吉に、令子はむうと顔をしかめる。
「……せめて、成婚実績ができればな。退会したはっぴいの客を引っ張ってくることだってできるだろうに」
すると亀吉は、はっとしたように自らの額をぽんと叩いた。
「そういえば、かあちゃん。話すのすっかり忘れてました」
「なんだ?」
「さっき冥府さんから電話がありまして」
「ああ、それで?」
「今日、高宮さんと入籍されたそうです」
一瞬、ぽかんと亀吉を見つめる令子。
ついでに亀吉も、ぽかんとする。
「……お、おまえ」
「はあ」
次の瞬間、令子の怒声が響き渡った。
「なんでそんな大事なことをもっと早く言わねえんだっ! てめえの鼻の穴から鶏皮をねじ込んで空っぽの頭に詰め込んでやろうかっ! そうすりゃあ、せめて鶏の脳ミソくらいには進化するだろうよっ!!」
「ひゃあ! すみませんすみません!」
いつもの光景である。
だが、ちょっとだけ違うのは……亀吉も令子も、おまけに三毛猫も。
みんなが笑顔だったことだ。
ー 第2話 「冥府菊奈」編 完 ー
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる