ヤケクソ結婚相談所

夢 餡子

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第2話

おまけのお話

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朝7時。
菊奈があくびをしながらキッチンに行くと。
エプロン姿の涼真が、テーブルに朝ご飯を並べているところだった。

「おう、起きたか」
「おはよう」
「朝メシ、ちょうど出来たところだぜ」

こんがり焼けたトーストに、ふわとろスクランブルエッグ、ソーセージ、サラダ、湯気の立ったクラムチャウダー。
それらが整然と配置されており、完璧な朝食である。
菊奈は椅子に座ると、まずはクラムチャウダーに口をつけた。

「熱っ!」
「おいおい、大丈夫か」

涼真はすぐさまコップに水を汲むと、菊奈に渡してやる。

「ほら、これで口の中、冷ませ」
「うん、ありがと」
「ったく、寝ぼけながら飲むなよな。熱いんだから」
「もう、平気だから」
「本当か?」

つかつかと菊奈に歩み寄った涼真は腰を屈め、いきなり菊奈にキスをする。

「んん……」
「まっ、唇は冷めたみてえだな」
「涼真ったら、いきなりなんだから。でも、もう一度確かめて」
「ふん」

今度はディープなキス。
おそらく、クラムチャウダーより熱々である。

キスを終えると涼真は、エプロンを脱いで素早くスーツへと着替えた。

「まあ、ゆっくり食え。俺はそろそろ会社に行くからな」
「今夜は遅いんだっけ?」
「ああ。社長どうしの交流会がある。終わったらとっとと帰るからよ」
「本当かなあ。どこぞの綺麗な女社長さんと浮気しちゃったりして」

すると涼真は、眉間に皺を寄せて菊奈を睨む。

「言っただろ。俺は浮気しないって」
「そうだった。ごめんごめん」
「じゃあ、行ってくるぜ」

涼真は片手で髪をかき上げると、玄関に向かう。
菊奈も席から立って、涼真を見送りに付いていった。

「いってらっしゃーい」

涼真はドアノブに手を掛けると、そこではたと動きが止まった。

「……あのさ」
「なに?」
「どうも、おかしいんだが。俺ってこんなキャラだっけ?」
「どうしたのよ、急に」
「いや……なんか前と違うような気がする」

首を傾げる涼真に向かって、菊奈はクスっと笑った。

「それはね、理由があるの」
「なんだ?」
「私が涼真に呪いをかけたから。ふたりが幸せになる呪いをね」
「お、おい……そんな呪いってありかよ……」

ぞくっとしながらも、涼真は頷いた。

「だけどまあ……幸せなら、それでいっか」




ー おわり ー




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感想 1

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みんなの感想(1件)

栗菓子
2023.07.03 栗菓子

この人間関係が希薄になった世界でこんな相談所があったら楽しくて面白いでしょうね。
人間は一人では生きられないけど、一人になりたいこともある。厄介なもんです。
こんな人たちがいっぱいいたら楽しいでしょうねえ。羨ましいです。
心温まりますね。

2023.07.04 夢 餡子

栗菓子さん、素敵な感想有難うございます!
そうですね、人間て厄介なもんだと私も思います。
ヤケクソ結婚所の亀吉と令子もお互い厄介に思いながらも一緒に暮らしてるのは、まさにそんな感じでしょうか。
変な人たちが沢山出てきますので、楽しんで頂けたら嬉しいです!

解除

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