海洋高校駆逐艦、『瑞雪』艦内報告!

たらしゅー放送局

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海外旅行は大変だ

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 赤い絨毯に、アンティーク物であろう机。壁には、アメリカ海軍の軍艦や、空母の写真の写真が掛けてあった。ちなみにクーラーはギンギンだ。
 全く、どこの国もお偉いさんはこんな部屋にしたいのか?と内心疑ってしまう。そう思わせるような部屋に、俺と永久保はいた。
「は、はろー!」
 俺がガクガクで言ったカタコト英語を聞いて、これまたふかふかな社長椅子に腰掛けたおっちゃん…司令官のハリソンが笑った。
「は、は、は!そう緊張しなくて大丈夫だから」
「あら、日本語がお上手なんですね」
「なーに。海上自衛隊の方々がよく来るからいつの間にか覚えていたよ」
と、永久保を軽くあしらった。この老人、デキる!
「ともあれ、ご苦労様だったな。とても暑い場所だが、ゆっくりしていってくれ」
「はい、そうさせていただきますね」
「失礼しました」
 ガシャン!と、重そうな扉を閉めた後だった。扉の向こうでひそひそと声が聞こえた。
『…良い青年じゃないか。それでも貴女は辞めさせたいのですか?Ms.…』
「ほら、早くして!」
「おお、すまんすまん!」
 永久保に急かされて、恐らく、俺にとって大事な話を聞き逃した。

「すげー!」
 超弩級に大きなハンバーガーが、そこにはあった。
「本当、大きいね!」
 短めの白のスカートに、これまた白の半袖の上に青のパーカーと言う汚れたら大変そうな服を着ている柳原も目をキラキラさせている。
「けど、こんなデカいの食ってたら太るだろうな~。ただでさえ運動が少ない海上勤務なのに…」
『うぅ…』
 柳原が呻いた。…あれ、俺失礼な事言った?!
 扉の件の翌日、俺達はオワフ島のセブン、なんたら、バーガーという店に来ている。というのも、今日は燃料補給を補給艦ましゅうからしてもらう予定なので、殆ど何もしなくてよくなり、自分達に出来る事は何かと尋ねた時に、
『だったら、遊んできなよ!うん!学生の本業は遊ぶ事だからな!』
 と、ましゅうの艦長に言われて今にいたる。発表すると、瞬時にみんなどっかに行ったのがちょっとショックだった。
「しかし、どうやって食うんだろうな」
 アメリカンサイズのハンバーガーは、それこそうちの高校の誇る戦艦水戸型の艦橋をそのまま縮めたような大きさだった。
「うん、ナイフもフォークも無いしね」
 二人して辺りをキョロキョロと見回す。本場の食べ方を学ぶためだ。
「…。いや多種多様すぎるだろ!」
 かぶりつく人、ナイフとフォークで切って分ける人など、まさに多種多様だ。
「…どうする?」
「どうするったって、ジャパニーズな方法で行くしかねえだろ!」
 そう言って、俺は両手でガッ!とハンバーガーを掴み、口元へと運んだ。
「いただきます!」
 大きな口を開け、かぶりついた。この後、本場の人に笑われながら食べ方を教わったのは言うまでもない。

 後ろをつけられている。気づいたのはさっきのハンバーガー屋の時だった。変な白髪のおばさん。どこかで会った気がするが、気のせいだろう。
「ガオガオ!」
 目の前に変なお面をつけた変な幼なじみが現れた。
「…はぁ」
「ガオ…がお…がお?」
「はやく戻してこい。あそこの店のだろ?」
「…はーい」
ショボーンとしながら柳原はてくてくと棚にお面を戻しに行った。
「…さて、そこにいるのは誰だ?話でもあんのか?あるんだったら出てこいよ。俺、こう見えても聞き上手だぜ?」
 そう言うと、まず先に視線がなくなり、次に気配がなくなった。本当になんだったんだろうか。
「どうしたの?」
 柳原が心配そうな目で俺を見ていた。
「いや、なんでもない。で、なんだ?」
「あのね、あそこのパンケーキ屋さんが気になるんだけど…」
 といって指を指した店から、生クリームたっぷりのパンケーキを持った客が出て来た。
「まだ食うのか!?お前本当に太るぞ!?」
 うぅ…とまた呻いた。どうやら少し気にしているらしい。
「だ、大丈夫だよ…その分こうやった歩いてるし!」
「えらい強きだな。感心感心」
「もう!からかわないでよ!いいから行きましょう!両舷強速赤黒なーし!針路、あのパンケーキ屋さんへ、よーそろー!」
 と言って俺の手を引いて駆けた。
 結局、初めての海外旅行はグルメに埋め尽くされて終わった。

 朝早くに俺は甲板にいた。理由はベットに置いてあった手紙だった。
『0500に後甲板に来なさい』
 カツカツカツと鉄板を歩く音が辺りに響く。後甲板に着くとそこに人がいた。
「不思議なものね。航大(こうだい)の乗っていた船もこの船と同じ物らしいわね。確か泡雪(あわゆき)だったかしら?」
 白髪で、少し老けた…俺の後ろをつけてきたおばさんが振り向いた。
「どうして兄ちゃんの名前を知ってんだ?」
「あら、私の事忘れたの?まぁ、仕方ないわね。あの時以来だもの」
 はぁ、と大きくため息をついた。
「私の名前は菜月真夏(まなつ)。いや、今は岡部真夏かしら?どっちでもいいわ。あなたのお母さんであるのは変わらないし」
 …今この女はなんて言ったんだ?
「おいおい、嘘だろう?」
「嘘じゃないわ。あなたを連れ戻しに来たのよ」
 そのためにハワイに来たらしい。そこまでして俺を連れ戻したいのか。
 確かに、親に何も言わず、ましてや葬式の日に飛び出して戻って来なかった…つまり二人の息子がいなくなったのだ。それなりに心に傷を負うだろうし、連れ戻したくもなる。
 しかし、俺にだってやりたいことはあるんだ!
「いや、俺は戻らないね。俺はこの職に就きたい。海を守るこの仕事が、したい!兄ちゃんが死んで、俺が飛び出して。確かにその事は謝るよ。けど、それとこれとは別だ!俺はお前についていかない。俺は兄ちゃんみたいな事にならない!約束する!だから、俺は帰らない」
 気がつけば涙がこぼれていた。
「まぁまぁ、そこまでにしなさい」
パンパンと手を叩いて来たのは、ハリソンだった。
「!ハリソン」
 母さんは驚いた顔をしていた。
「これでわかったでしょう?Ms.マナツ。彼の意志は尊重されるべき未来へ向けた物だ。その未来に伸びる『芽』を摘み取ってなんとする。君は彼の未来へ伸びる芽を育てるのが役割だ。違うかい?」
 ギギギと奥歯が擦れる嫌な音が聞こえた。
 母さんは、始めこそは怒りや悲しみの表情を浮かべていたが、やがてハリソンの言葉が効いたのか、諦めたような顔を浮かべた。
「…海人」
 喉から必死に絞り出された声は、しっかりと俺の耳に届いた。
「たまには家に帰りなさい。ご飯作っとくから」
「ご飯でつられるほどもう子供じゃないよ」
 そういうと、母さんは笑った。あの時以来の笑顔は、悲しそうなそれでいて嬉しそうだった。
「そうね。けど、本当に帰ってきてね」
「あぁ、帰るよ」
 その言葉を聞くと、母さんは真っ直ぐ進んで艦を後にした。

 長崎の田舎に、俺の実家はあった。
 コンコンと扉を叩いてみる。
『はーい』
と言う声が家の中から聞こえてきた。
 アメリカから帰ってすぐだったから迷惑かなとも思ったが、ここで来なければ、多分来ないだろうと思った。
「…いらっしゃい」
「おう」
 ぎこちなく、俺は返事をした。
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