俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!

桃田正介

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4話 あなたも魔法少女?!

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 俺が意識を失う前だった。
 あれだけ強かった敵が、突如、真上からふりかかってきた強力な魔法を浴びて、爆散したのだ。
 場は衝撃波と煙にまみれ、全裸で横たわる俺をも周囲から見えなくした。
 無様な俺の前に、可愛らしい革靴を履いた足が降り立った。ゆっくり見上げると、そこに立っていたのは――

「あ、あなたは……」
「大丈夫かい? 田中君」
「部長……どうして……」

 その言葉を最後に、俺は気を失った。

   ●

「いやぁー、もっと僕が早く来れればよかったんだけどねぇ。ごめんね、間に合わなかったようだ」

 ダメージを負った俺を案じて、部長は部長室に俺を入れてくれた。全裸の俺に向かって、いつもと変わらないビジネススマイルを向けてくれる。 

「しかし驚いた。君も魔法少女だったなんてね」
「ぼ、僕も驚きました……。部長が、その……」

 部長のジェンダーも魔法少女だったとは。なんて、言えるはずがなかった。
 自然と言葉がくぐもった。

「いいんだいいんだ。君と同じだよ。なんてことない」

 いや、なんてことあるだろ。
 自分のことならまだしも、他人がそうなのを見るのはキツい。ましてやそれが部長となると、普段のイメージとの乖離が凄まじい。
 部長の肩から、猫みたいな見た目の可愛らしい生き物が顔を見せた。

「君の言うぶちょーも、君と同じ、女の子だったんだよ」

 淫獣に暴露されて、部長は照れくさそうにする。

「いやー参ったね。恥ずかしいから言えなかったのに。まぁ、こうなったら仕方ない。君も同類だし、いいだろう」 

 一呼吸おいて、部長は言う。

「私はね、女の子になりきるのが好きなんだよ。女装プレイとかってあるだろ? そういうのに近い」

 近いとかじゃない。そのものだ。
 俺は、そんなのと一緒に思われてるのか。
 変態からも、人外からも。
 俺は違うんだ。俺は、本当に魔法少女になりたかったんだ。魔法少女の女の子になって、舞ちゃんと一緒に戦いたかっただけだ。部長とは違う。

「……でも、部長は魔法少女になって、戦いたかった訳ではなかったでしょう。そいつからまともな説明もないまま、契約してしまったのではないですか?」

 単なる女装プレイの趣味なら、魔法少女を選ばないのではないか。俺が魔法少女になれると勘違いしたのと同じように、部長もこいつらに騙されたに違いない。 

「失礼だなぁー」

 部長に付き添う猫みたいな淫獣が不満そうに言う一方、部長は「まぁまぁ」とたしなめる。 

「私としては、私自身が魔法“少女”になれる、と聞いてね。魅力的に感じた。が、いちおう彼に聞いたよ。魔法少女になるとはどういうことなのかと。私は自分の生活もあるし、子どももいる。べつに性転換したいわけではないしね」
「あぁ……そんな天秤があったのですね……」
「そうだね。女性になってみたいとは思っているけど、なかなかそういうわけにもいかない。そうしたら、彼からは性別は今のままだと聞いた。それなのに、敵や仲間からは魔法“少女”として扱われると聞いた」
「扱い……?」

 言い訳をするように、部長の淫獣が説明する。

「どのように認識されるかは、言うまでもないだろう?」

 あー、そういうことか。こいつは、部長の女装趣味を利用して、そんな甘言を用いたんだ。
 男だけど、女装したら女性として見られること、扱われることが、部長にとってはストライクのはずだ。それが他の魔法“少女”からもそう見られるとなれば、たまらないはずだ。現に、こいつらは敵と仲間と対象を限定させている。

「今回、君は男だったが、他にもたくさん魔法少女はいると聞いた。君と同じように、私を魔法少女として扱う女性もいるはずだ。なにせ我々は仲間で、私は強いからね」

 部長の闇を垣間見た気がした。
 魔力の強さで、他から自分を魔法少女として認めさせる。魔法少女として扱われたいから、仲間意識を強調する。
 うまく言葉にできないが、なんとなく、自分が男で良かったと安心している。自分が女性だったら、力関係を背景に、どんなプレイに付き合わされたことか。

「私たちは似た者同士だ。お互い、仲良くしよう。正直、君が魔法少女でいてくれて、私も少し安心しているんだ」

 部長が鼻をかきながら、片手を伸ばしてきた。握手、らしい。

「これから宜しく頼むよ」
「すみません、俺……この会社、辞めますんで」

 部長の手は、気持ちよく取れなかった。
 なにせ、そもそも俺は部長と違って、社内社外の人間の前で醜態を晒したんだ。とてもこの会社にいれる気がしない。
 それに、言葉には形容し難いが、俺は部長を魔法少女として認めたくなかった。

「あぁ……。そうか、そうだよな。君は皆の前で変身して、あーなったんだ。無理もない」

 部長は察してか、俺の退職意思をすんなり受け入れた。
 その目は仕事としてではない。同類を見る目だった。同類として、俺に同情している目だった。私だったら家庭もあるし耐えられない、と言いたげな表情。

「だが、私は知っている。魔法少女になった者同士は、お互いに惹かれ合うらしい。同じ会社ではなくなっても、私たちは魔法少女仲間だ。その意味において、これからは宜しくだ」

 今度はビジネススマイルではなく、友達に見せる屈託のない笑顔だった。
 また差し伸べられた手に、俺はおそるおそる手を伸ばした。
 部長は強い。部長といれば、どんな敵でも倒せると思う。そうすると、俺の身は安全は保証される。変態仲間と思われてることは心外だが、状況が状況なだけにやむ得ないだろう。不本意ながら、手を取ることにした。

「よし! 私たちは仲間だ!」

 固い握手を交わして、俺たちは仲間となった。
 その後、部長は俺のためにわざわざ服を買ってきてくれて、家に帰ることを許してくれた。

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