俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!

桃田正介

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10話 部長の目的

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 一時間目の授業が始まるチャイム。
 それと同時だった。窓の外を見ていたクラスメイトと男子が、あり得ないものを見て叫んだ。

「おっさんがこっちに飛んでくる!!」

 朝から何を言っているんだ、と言わんばかりの顔で、皆が彼の視線の先を見た。
 そして、その意味を理解した。

「うわっ! なんだあれ!」
「コスプレした変態だ!」
「何で飛んでるの! こっちに来てる!!」

 クラスが驚愕と恐怖でいっぱいとなり、教師が生徒を教室から逃がそうとする。が、間に合わなかった。
 それは外側から怪力で窓を外し、教室の中へと入ってきた。
 黄色いドレスを来て、杖にまたがって飛んできた中年男性の姿格好は、まるでアニメで見る魔法少女だった。

「おじゃましまーす」 

 ニヤニヤしながら、男は教室内を見渡した。
 そして、1人を見て、視線が止まった。

「見つけた」

 接近してくる中年男性を誰も止めることができなかった。生徒に近づく不審者の肩を、教師が掴もうとするが、目に見えない力に吹き飛ばされる。

「先生!」

 小鳥遊舞は、それが自分に用があって近づいてきていることを覚った。

「安心してくれ。誰も傷つけるつもりはない」

 男は両手を広げて、呆けたことを言う。
 吹き飛ばされた教師は壁に叩きつけられて、ぐったりと地面に崩れている。それを見て、教室の誰も、男に立ち向かう気力はなかった。
 男が一歩、また一歩と、接近するにつれて、皆も一歩下がる。恐怖で動けない舞を除いて。

「君が、小鳥遊舞……ちゃんだね?」

 果たして、男は舞の目の前に立った。
 非常識な登場をしているくせに、なぜか真っ直ぐな眼差しが不気味で、思わず戦慄する。
 
「なんでしょうか……?」
「敵が現れた。共に戦おう」

 そう言って男は、そっと片手を伸ばした。
 この状況において敵と言える存在は他でもない、この男だった。いったい何を言っているのか、ただの世迷い言と思われたが、舞だけは意味を理解した。
 派手なコスプレ姿、通常人では成し得ない不思議な力。田中大二郎や自分と同じ、男も魔法少女だと分かった。

「いや……そんな、いきなり」

 恐怖への怯えと、クラスメイトがいる手前はっきり言えない口調が、男を苛立たせた。
 男が求めていたのは、了承の即答だった。

「いきなりも何も、それはおかしいよね? 私達は魔法少女だ。この宇宙を救うため、敵が現れたなら戦うだろ。戦わないなんて選択があるのかい?」
「あの、困ります。こんな、私達……」

 舞の必死の抵抗だった。
 しかし、それは期待された返答ではなく、男をさらに苛立たせた。男は発言の途中、

「もういい!」

 と遮り、舞の腕を掴んだ。
 途端、人が変わったように、男は優しげに微笑んだ。

「とりあえず、行きましょう」
「え? えぇ?」

 舞の困惑を意に介さず、男は侵入してきた窓まで戻る。男の怪力に、舞は無抵抗に近かった。力のまま引きずられる。

「さあ、私に身を任せてください。力を抜いて」
「あ、いや、やめてください……うわっ」

 そして、舞の背後に回った男は、お姫様抱っこと評される抱え方で舞を持ち上げた。 
 強引だったが、しかし慣れた優しさがある。
 
「急ぎますからね。敵を倒した後は、2人で特訓しましょう」

 至近距離でみる男の顔は、父親と同じくらいの中年男性だったが、父親とは違って、何か狂気を秘めている。何が目的なのか分からないことが、テレビや噂で聞くような悪いニュースを思い出させ、余計に舞を怯えさせた。
 学校の教師、塾の講師、親、それ以外で接してきた大人のなかで、今まで自分に対して悪意を向けてくる者はいなかった。舞にとって大人は、自分達を守ってくれる存在でしかなかった。
 人生で初めて、しかも見ず知らずの大人から、得体のしれない恐怖を与えられた。

「暴れたら落ちちゃいますからね」

 そう言って男は、舞を抱えて窓から飛び出した。
 登場のときは杖に跨っていたのに、出ていく時はウルトラマンのような飛び方をするのかと、内心で思った。
 確か、魔法は自分の願ったことが力になるって、言ってたったけ……。
 いつ身の危険が及ぶか分からない状況で、なぜか冷静に、そんな当初の説明が脳裏を過った。

   ●

 舞ちゃんのいる中学校まで走ってきたが、間に合わなかったらしい。 
 破壊された窓から、見知ったコスプレ姿の中年男性が飛び出していった。その腕には、舞ちゃんが抱きかかえられていた。

「あぁ! くそっ!」

 校庭で1人ごちる俺に、窓から顔を覗かせる中学生たちが、容赦ない言葉を放つ。

「まだいるぞ! 仲間か!」
「二人目の変態だ!」

 あながち間違いではないと思った。俺と部長は仲間と呼びあった仲だ。同じ会社で、同じ秘密ごとを持っていて、ただ目的が違った。

「仲間じゃねぇ! ぶっ殺すぞ!!」

 日ごろ何を言われても反論しないのだから、これくらいはいいだろう。その捨て台詞とともに、俺は部長が飛んでいった方に向いて走った。

「部長……っ」

 部長の目的が悪魔退治で、宇宙のためならば、こんな強引な手段に出るはずがない。それは綺麗事であって、本当の目的があるはずだ。
 仕事の時の部長は、いつも部下のことを考えていた。配慮して、思いやって、慕われていた。
 しかし、魔法少女になってからの部長は違う。それまでのプライベートはどうだっか知らないが、少なくとも会社には持ち込んで来ていなかった。隠していた。なのに、今となっては、なりふり構わず魔法少女の力を使って、何かを遂げようと街中を飛び回っている。
 分かっていた。部長が魔法少女になった経緯を知って、好みを知って、何を望んでいるのか。魔法の力で何をしようとしているのか。

「舞ちゃん……!!」

 思わず、その名を叫んでいた。
 今は部長のことはいい。その毒牙にかからんとする俺の推しが、舞ちゃんが、危険な目にあっている。
 早く、早く追いつかねば。
 

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