俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!

桃田正介

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13話 一回目

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 目を開くと、なんだか寝起きのように意識がスッキリとしていた。疲労も取れていて、身体も軽い。
 酒を飲んで昏睡して、起きたら昼だったときのような感覚。
 しかし、俺は布団のうえではなく、スーツを着て座っていた。
 座りながら、部長室で、部長に叱られていた。

「田中君! 我々は魔法少女だ! 宇宙を守る使命があるんだ! そんな意識では困るよ!!」

 どこかで聞いたような台詞。
 冷静な気持ちで、目を真っ赤にして怒鳴る部長を見た。

「君が彼女を呼ばないのなら、私が迎えにいく! どこの学校なのかも分かっているからね!」

 思い出した。これはただの既視感ではない。記憶だということを。
 俺はこの日、ここで部長に責められて、そして部長は舞ちゃんを連れ去りに向かったんだ。

「あっ、部長! 駄目です!」

 その記憶の通り、部長は俺の制止を聞かず、窓を破壊して外へ飛んで出ていった。
 次に、騒音を聞きつけて社員が流れ込んでくる。

「やばい、追いかけなきゃ」

 ざわつく社員には目もくれず、俺は部長を追いかけた。部長が出ていった窓から飛び、俺も変身する。
 とにかく時間がない。俺は、空を飛べないから、部長に追いつくには最速で最短で向かわないといけない。
 自分が飛べる信じていない俺は、地面に着地をし、迷わず舞ちゃんの中学校に向かって走った。   

 だが、どう足掻いても、俺は部長には追いつくことができなくて、
 中学校へ着いた頃には、部長はもういなかった。

 「2人目の変態だ!」

 中学生からの罵声もよく覚えている。
 だが、取り合っている暇はない。
 次に、俺は例の倉庫へ向かった。
 途中、淫獣がまた俺に近づいてきて、舞ちゃんの視覚共有を提案してきたが、意識の妨げになると思って断った。
 何より、舞ちゃんが辛い目に合うのは見たくない。部長に顔を近づけられて囁かれるのも耐えられない。
 果たして、倉庫には着いたが、そこでは全裸で息をあげている部長と、乱れたブレザー姿で横たわる舞ちゃんがいた。

「あぁあ――ッ! またかよ!!」

 俺は声を上げて、また泣いた。
 その勢いのまま、部長に飛びつく。
 動きに迷いのない俺に、部長は一手遅れたらしい。直前で変身したが、掴みかかってきた俺に反撃することができず、そのまま壁まで押し込まれた。

「た、田中君!!」
「部長!! また、あんたって人は!」
「待ってくれ、私はまだ志半ばだよ」
 
 部長の言い訳に耳を貸すつもりはない。
 そんな格好で誰が信じるかよ。
 感情のまま、俺は部長を殴りつけた。顔を何度も、拳で、それが悪魔を相手にしている時のように、渾身の魔力をこめて。
 そうしているうちに、警察が倉庫に入ってきて、俺は取り押さえられた。
 気がついたら、部長は全裸で失神していた。

「何をしている! 警察だ! 動くな!!」
「未成年監禁の疑いで現行犯逮捕する! 大人しくしろ!」

 また、同じ結末か……。
 いや、前回とは違う。
 それは、部長が生きていること。
 俺は間に合わなかったが、1人を救うことはできたらしい。でも、そうじゃないんだ。
 警察は全裸で横たわる部長を見て、

「お前がやったんだな」

 と、俺に別の容疑をかけた。
 無理もない。こんな格好をして、こんな状況では、俺が加害者にしか見えないだろう。
 俺がパトカーに連行される途中、舞ちゃんと目が合った。

「舞ちゃん……俺、俺……っ」 
「田中さん……」

 俺は君を救いたかったのに、ごめんね。
 警察に遮られる間際、でも俺はふと疑問に思った。 
 舞ちゃんのブレザーとワイシャツは乱れているが、それだけだということに。
 もっとこう、色々とどうにかなってそうなのに、それ以外は無事に見える。
 そして、部長の言い訳を思い出す。
 もしかして、俺は何か間違っていたのかもしれない。感情のまま部長を消し炭にして、ボコボコにして……。本当は間に合っていた?
 去り際、俺の背中に、意識を取り戻した部長がつぶやく。

 「残念だよ、田中君」

 

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