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10+10=青年
#14
しおりを挟む仕事を終え、家路につく車内でも涼のため息は止まらなかった。息が詰まりそうな空間だから仕方がない。
でも、そろそろ本当に潮時かもしれない。
もう二十歳なんだ。子どもじゃないから、本気で一人で生きてくことを考えよう。
貯金も結構できたし、彼にこれまでの生活費を全額返済するのも、そう難しくないはずだ。ただ準備は時間がかかるから、早めに行動しないと。
見限るんじゃなくて、ちょっと距離をとって応援したいんだ。
まだ、彼の味方だから。
そう思っていたけど、帰宅してそれを打ち明けることはできなかった。
「え? ……婚約?」
あの日にはもう、全て手遅れだったんだ。もっと、もっと早くに出て行けば良かった。
創さんは立ち尽くしていて、明かりも点けてない。暗がりの部屋で、ただ一点を見据えていた。
そして、昔から交流のあった女性と婚約した……と聞かされた。
それだけなら、おめでたい話だ。喜んで祝福する出来事。だが、創は違う。今回の事が何を意味するのか、涼には分かった。
准を諦める。それは同時に、───同性愛者としての自分を殺すことになる。
「あの、創さん……」
心配になって彼に歩み寄る。だがその後は闇にまかれた。
地獄の時間が始まった。
学校から帰って来た時、親が亡くなったと聞かされたあの時のような。
容赦ない時間。蹴られるより殴られるより暴力的な、非人間的な時間。
「やっ、やめてくださいっ!!」
怖い。
怖い、怖い、怖い。
思い出したくもないけど、……何か色々、ぐちゃぐちゃに。
────俺を、めちゃくちゃにされた。
本気で呪った。自分の運命を、創さんを。
そして考えないようにしていた……名前ばっかりの、俺を苦しめ続けた准さんを。
熱い。なのに、生温い。これは何ていう名前なんだろう。与えられるものは、この世で最も醜いものなんじゃないかと思えた。
「創さ……いや、許して……っ」
気持ち悪いんだ。……自分が。
「……もう、准を手に入れることは諦めたんだ」
逃げるに逃げられなかった俺を床に突き飛ばし、彼は壊れた人形のように笑っていた。
「それでいい。代わりに、誰にもやらない。誰のものにもならなきゃ公平だ。だから成哉、俺を助けてよ。准を、他の男から遠ざけて……?」
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