欠けるほど、光る

七賀ごふん

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二石

#6

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人生とは不思議なものだ。

代わり映えのない生活が何百日も続いていたのに、大きな変化が一日のうちに二回も起こる。

いや、知ってたじゃないか。神様はいつも気まぐれなんだって。

「お邪魔します」
「……や」

透夜が家に来たのは二十一時過ぎ。大学生の時より良い、濃紺のスーツを着ていた。
そして何より、大人になったな、と思った。最後に会った時は幼さを残していたのに、今は笑顔を浮かべても、成人男性の凛々しさを感じる。

四年ぶりに会う透夜は、思わず見惚れてしまうぐらい立派な青年に成長していた。

「お久しぶりです、宙さん」
「久しぶり。あれ、医療職だよな? スーツなんだ」
「今日までです。外部の研修会に参加する為に新宿まで。明日からは正式に配属先で勤務します」
「お~。そりゃあお疲れ様。寒いだろ、早く入んな」

彼を招き入れ、散らかり放題のリビングに案内する。ソファの上に置かれた服やら本を隣の部屋に投げ入れ、慌てて座る場所をつくった。
「あ、酒飲むっ? 確か貰い物のビールがあるよ」
「いえいえ。それよりおでん作るんでしょう? 手伝いますよ」
透夜は袖をまくり、水道で手を洗った。

「鍋はどこですか?」
「えーと……」

緊張してるのは俺だけか。モタモタする俺と違い、透夜の手際は良かった。
うーん、モテそう。
当たり前だ。顔良し性格良し、将来有望の男に彼女がいないわけがない。
むしろこんな事を考えてる自分が気持ち悪くて、張り倒したい。

時間はかかったものの、無事におでんのタネを煮込むことができた。鍋敷きをローテーブルに置き、一応冷えたグラスとビールも透夜の前に差し出す。

「何で急に連絡してきたんだ?」
「宙さんは何でおでんを作ろうと思ったんですか?」
「べっ別にいいだろ。おでんはいつ食べたって美味いんだから」

恥ずかしくなって、乱く床に座った。透夜はソファに浅く座り、無表情で俺を見る。
「じゃあ、質問を変えます。何で急な俺の誘いに応えてくれたんですか?」
「それは……あ、あまりに久しぶりだから」
かつて可愛がってた知り合いが久々に電話してくれたんだから、乗らない理由はないだろう。そう思うのに、彼は前屈みになり、考える仕草をした。

「本当にそれだけ?」
「え?」
「いえ。あ、おでん持ってきます」

透夜が鍋を運んでくれたので、ひとまず夕食にありつくことができた。
というか、ほとんど夜食に近い時間だ。
「わ、久しぶりに食べたけど確かに美味いですね」
「だろ。特にこのダシが沁みる……はぁ……」
あと、辛子が辛くて涙が出てきた。




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