欠けるほど、光る

七賀ごふん

文字の大きさ
18 / 46
二石

#7

しおりを挟む



「で、話戻りますけど」
「戻らなくていいよ」
「俺に会いたかった?」

…………。

「会えたのは嬉しいよ」
「どれぐらいですか?」
「どれぐらい……?」

ダシを飲み干し、真面目に考えるが分からない。一体、俺に何を言わせたいんだ。
確かに、スマホを落としそうになるぐらいびっくりした。俺のことを忘れてなかったんだと分かって嬉しかった。

でもそれは何か言いたくない……。

腕を組んで真剣に悩んでいると、何故か透夜は立ち上がり、俺の隣に座った。
「何?」
「……宙さん、いつもここで暮らしてるんだなって思って」
そう言うと、彼は何の変哲もないダイニングの方を眺めた。
生活感満載の室内。意外ときっちりしてる彼からしたら、乱雑してひどい状態に見えるだろう。
でも何も言わず、じっと天井を見上げている。
四年ぶりに会った遠夜の横顔は、本当に大人びていた。
この間に、どれだけ嬉しいことや悲しいことを経験したんだろう。
知りたい。
空いた隙間を埋めるように、時計の秒針も刻々と進む。

「あ……」

その時間と静寂は、つまらない意地を崩すのに充分な力があった。

「会いたかった。……でも、お前の人生の邪魔になりたくなくて」

箸を置き、膝を抱える。
恥ずかしくて、彼の方は絶対向けなかった。
飲まないようにしてたけど、これ以上シラフで本心を話すのは無理だ。透夜が手をつけなかったビールを煽り、胸のうちを零す。
「会わないようにしよう、って俺から言ったのに、電話なんか掛けられるわけないだろ。お前は友達多いし、明るい未来があるし、俺みたいな社会不適合者に構ってちゃいけない奴なんだよ」
「はは。自己肯定感の低さも健在ですね」
遠夜は困ったように笑っている。そんな表情すら久しぶりで、ずっと見ていたい。
空になったグラスを置いて、徐ろに立ち上がった。

「俺のようになるなよ。会えたのは嬉しいし、また会いたいけど……せっかく社会人になったんだし、新しい交流を大事にしな」
「それは本心ですか? 俺が他の奴と仲良くなったり、手を繋いだり、抱き合ってもいいと?」
「え?」
 
またまた話しの雲行きが怪しくなり、窓際へ寄ったものの振り返った。
「それは……遠夜の人生なんだから。俺が口を挟むことじゃないだろ」
嘘だ。
……想像したくない。彼が、他の誰かと触れ合ってるところなんて。
「宙さん」
透夜も床に手をつき、静かに立ち上がった。
あれ。透夜ってこんなに背高かったっけ。
見上げる形になり、今さら焦り出す。壁際に追い込まれ、背中にひやりとした感触が走った。
後ろは冷たいのに、前は溶けそうなほど熱い。息が当たりそうな距離に、彼の顔がある。
近い。彼の整った顔が、睫毛の一本一本まで確認できる位置にある。

「それが貴方の本心なら、黙って聞き入れます。でも、少しでも違うなら……押し殺してる気持ちがあるなら、隠さないで。どんな言葉もまるごと受け止めて、愛せるぐらい、俺は強くなったから」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

すみっこぼっちとお日さま後輩のベタ褒め愛

虎ノ威きよひ
BL
「満点とっても、どうせ誰も褒めてくれない」 高校2年生の杉菜幸哉《すぎなゆきや》は、いつも一人で黙々と勉強している。 友だちゼロのすみっこぼっちだ。 どうせ自分なんて、と諦めて、鬱々とした日々を送っていた。 そんなある日、イケメンの後輩・椿海斗《つばきかいと》がいきなり声をかけてくる。 「幸哉先輩、いつも満点ですごいです!」 「努力してる幸哉先輩、かっこいいです!」 「俺、頑張りました! 褒めてください!」 笑顔で名前を呼ばれ、思いっきり抱きつかれ、褒められ、褒めさせられ。 最初は「何だこいつ……」としか思ってなかった幸哉だったが。 「頑張ってるね」「えらいね」と真正面から言われるたびに、心の奥がじんわり熱くなっていく。 ――椿は、太陽みたいなやつだ。 お日さま後輩×すみっこぼっち先輩 褒め合いながら、恋をしていくお話です。

何度でも君と

星川過世
BL
同窓会で再会した初恋の人。雰囲気の変わった彼は当時は興味を示さなかった俺に絡んできて......。 あの頃が忘れられない二人の物語。 完結保証。他サイト様にも掲載。

リスタート・オーバー ~人生詰んだおっさん、愛を知る~

中岡 始
BL
「人生詰んだおっさん、拾われた先で年下に愛される話」 仕事を失い、妻にも捨てられ、酒に溺れる日々を送る倉持修一(42)。 「俺の人生、もう終わったな」――そう思いながら泥酔し、公園のベンチで寝落ちした夜、声をかけてきたのはかつての後輩・高坂蓮(29)だった。 「久しぶりですね、倉持さん」 涼しげな顔でそう告げた蓮は、今ではカフェ『Lotus』のオーナーとなり、修一を半ば強引にバイトへと誘う。仕方なく働き始める修一だったが、店の女性客から「ダンディで素敵」と予想外の人気を得る。 だが、問題は別のところにあった。 蓮が、妙に距離が近い。 じっと見つめる、手を握る、さらには嫉妬までしてくる。 「倉持さんは、俺以外の人にそんなに優しくしないでください」 ……待て、こいつ、本気で俺に惚れてるのか? 冗談だと思いたい修一だったが、蓮の想いは一切揺らがない。 「俺は、ずっと前から倉持さんが好きでした」 過去の傷と、自分への自信のなさから逃げ続ける修一。 けれど、蓮はどこまでも追いかけてくる。 「もう逃げないでください」 その手を取ったとき、修一はようやく気づく。 この先も、蓮のそばにいる未来が――悪くないと思えるようになっていたことに。 執着系年下×人生詰んだおっさんの、不器用で甘いラブストーリー。

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

恋をあきらめた美人上司、年下部下に“推し”認定されて逃げ場がない~「主任が笑うと、世界が綺麗になるんです」…やめて、好きになっちゃうから!

中岡 始
BL
30歳、広告代理店の主任・安藤理玖。 仕事は真面目に、私生活は質素に。美人系と言われても、恋愛はもう卒業した。 ──そう、あの過去の失恋以来、自分の心は二度と動かないと決めていた。 そんな理玖の前に現れたのは、地方支社から異動してきた新入部下、中村大樹(25)。 高身長、高スペック、爽やかイケメン……だけど妙に距離が近い。 「主任って、本当に綺麗ですね」 「僕だけが気づいてるって、ちょっと嬉しいんです」 冗談でしょ。部下だし、年下だし── なのに、毎日まっすぐに“推し活”みたいな視線で見つめられて、 いつの間にか平穏だったはずの心がざわつきはじめる。 手が触れたとき、雨の日の相合い傘、 ふと見せる優しい笑顔── 「安藤主任が笑ってくれれば、それでいいんです」 「でも…もし、少しでも僕を見てくれるなら──もっと、近づきたい」 これは恋?それともただの憧れ? 諦めたはずの心が、また熱を持ちはじめる。

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...