欠けるほど、光る

七賀ごふん

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二石

#11

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彼の口から出逢った日のことを聞かされるのは初めての為、不思議と集中していた。あの日のことを思い出しながら、自然と手に力が入っていく。

「ははっ。そういえば俺、あの頃クラスに男の友達いなかったんですよ」
「え? どうして!」
「クラスの中心的な女子に告白されて、断ったんです。その子が周りにどうこう言ったわけじゃないんですけど、噂が広まったら皆絶妙に俺のこと避け始めて。でも俺もそれでいいと思って、ひとりで行動するようになったんです」
「それは……大変だったな」

そんなことで避ける理由が分からない。よっぽど美人な子だったのかもしれないけど、妬む前に告白すればいいのに。男の嫉妬も存外怖いよな。

「昔のこと、でも何か腹立ってくるな」
「大丈夫ですよ。俺はメンタル鬼強いというか、宙さん以外のことではまず動じないんで」
「いやちょっとは動じろ。理不尽なことには抗議していいんだからな」

って、俺は抗議したことないんだけど。透夜の為を思って言った言葉が全てブーメランとして返ってきて、複雑な心境になる。
それでも、彼がそんな辛い想いをしていたなんて……想像しただけで胸が苦しくなる。

「ごめんな。何も力になってやれなくて」
「とんでもない。宙さんから、たくさん力をもらいましたよ。学校だけが重要じゃないって思えたのは貴方に会えたからです」

遠夜は懐かしそうに目を細めて、話を続けた。
祖母の為に訪れたお店で、偶然会った綺麗なひと。
初めは大人しそうで、落ち着いてる人だと思った。でもこちらの不安を感じ取ってくれてるのがよく分かった。
あまりに不安そうにしていたのか、目が合うといつも「大丈夫」と言うように微笑んでくれた。

ところどころ冗談を挟んで笑わせてくれたり。そういう優しさも持ち合わせた人なんだと分かった。

「太陽みたいな笑顔の宙さんに心を持っていかれたのは、一瞬でした」
「聞けば聞くほど恥ずかしいから、勘弁してくれ……」
「何でですか。あんな完璧に振舞ってたのに」
「違うよ。俺は普段はミスばかりするし、接客業のくせに客対応も苦手なんだ。透夜が来た時は良い店員だと思われたくて、……ぶっちゃけ頑張った」

あんなに真剣に石を見る人は久しぶりだったから。
……なんて、それだけじゃない。俺は彼に一目惚れしていたんだ。
下心あったから丁寧に接客したみたいで、本当最低だ。絶対引かれるよな。言えねえ……。

「良い店員のフリなんかしなくても、宙さんは素敵じゃないですか」
「嬉しいけどあんまり褒めないでくれるか」
「どうして? 照れてるんですか?」
「……」

顔だけでも逸らしてみせたが、手を繋いでる為簡単に引き寄せられた。
「見なくても分かるんですけどね。ごめんなさい」
「こら」
離れようと試みるも、両の頬を手ではさまれてしまう。

「無理です。照れてるとき可愛過ぎるから」
「俺は男だぞ!」
「よーく存じてます」

意地悪く笑う透夜に、思わず地団駄を踏みたくなる。ようやく解放されたけど、今度は後ろから抱き込まれた。

「お前、自制はどこ行ったんだよ」
「どこかに落としちゃいました。あ、これは大事に持ってますけど」

カラン、と小気味良い音が耳元で鳴る。前に差し出されたのは、ガラスの小瓶に入った石だった。
これは……。

「もしかして。俺が前にあげた琥珀?」
「はい。御守りにして肌身離さず持ってます」
「ふ……」

可愛い奴。
言いたかったけど、それも何か違う気がして、彼の手ごと包み込んだ。

「石って、握り締めて瞼を伏せるだけですごく落ち着くんだよな」

何も考えなくていい。石は潜在的な力を引き出してくれる。

「でも、お前にこうして抱かれると……不思議と落ち着く」
「……そんな可愛いこと言われたら一生離れられないんですけど」
「離れてくれ。人来たから」

そこは冷静につっこんで、透夜を引き剥がした。
石みたいに清らかな関係で、思わず笑った。




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